第081話 金は人を変える魔力が備わっている


 洗髪剤の交渉をフィリアとヘイゼルに任せた俺は領主様と共に領主様の叔父の別宅に来ている。

 別宅は領主様の屋敷からそう遠くはなかったが、移動は馬車だった。


 別宅に着いた俺と領主様は屋敷の中に入る。


「そんなに広くないんですねー」


 俺は屋敷に入ると、部屋を見渡しながら意外に思った。

 領主様の叔父と言うくらいだから領主様の屋敷と同じくらいの広さを想定していたが、こっちの世界の我が家と広さは変わらない。


「叔父は独身で家族がいませんからね。このくらいの広さで十分だったようです。本当はもっと調度品があったんですが、すでに回収した後ですね」


 どおりで質素な家だと思った。


「独身だったんですねー」

「ええ。だから処刑も早めにできたんです。反対をする者がいませんので」


 普通は家族が反対や抗議をするのだろうが、その家族が処刑をしているのだからどうしようもないわな。


「突っ込んだ話をしてもよろしいでしょうか?」


 俺はこの際だから気になっていた事を聞こうと思った。


「ええ、どうぞ」

「私とヘイゼルが受けた依頼で遭遇していた兵士達は?」

「あの者達は正式には兵士ではありませんでした。元兵士ですね。ロストで問題を起こし、クビになった者達を叔父が向こうの実家に頼んで雇ったようです」


 だからガラが悪いというか、クズっぽかったんだ。

 ウチの大事なヘイゼルちゃんを襲ってたし。


「なるほど…………あんなところで何を?」

「スパイ容疑のあった商人をご存じですね?」

「はい。冒険者ギルドのギルマスから伺っております」


 確か、奥さんと上手くいっていない人。


「あの者は叔父の腹心でした。まあ、簡単に言えば、叔父はこの辺りの情報をロストに売っていたわけですね」


 黒いなー……

 そら、速攻で処刑するわ。

 大問題やんけ。


「それは…………国には?」

「伝えたら私は終わりですね。なので黙っていただけると」

「ご安心を。顧客の情報は守ります」


 ってか、言えるか。


「ありがとうございます」

「その商人は? 見つかっていないんですよね?」

「いえ、見つけています。焼死体ですので判別に時間がかかりましたけどね」


 あー…………


「ウチのヘイゼルが燃やした馬車ですか?」


 逃げる時にヘイゼルが精霊魔法で中にいる兵士ごと焼却処分したやつだ。


「ですね。まあ、あの方は恐ろしい魔女ですよ。あそこまでの火力を出されると調査に困りますがね」

「私達も必死でしたので……」


 あの時は本当に余裕がなかった。

 自分だけならまだしもヘイゼルもいたし。


「もちろんわかっていますし、責めているわけではありません。あの兵士達は街道を通る旅人を襲う計画を立てていたようです」

「盗賊ですか?」

「ですね。それで私が軍を派遣したところを叔父がクーデターを起こし、背後から襲う計画だそうです」


 でも、その前に商人の奥さんに見つかり、商人が慌てて逃げたってところか。

 調査の依頼を出した商人の部下は事が露見したと思い、自殺か。

 調査の依頼は自分を見捨てた商人への最後の嫌がらせかな?


「正直、思ったより、事が大きいですね」

「本当です。どうやら叔父は私をもっと秘密裏に処分したかったようですけど、私も警戒はしていますからね。そのためにヘイゼルさんにお願いしているのです」


 暗殺警戒か……

 叔父と姪なのに。


「よくそこまで話を聞けましたねー」


 そんな魔法でもあるのかね?


「古き良き拷問の結果ですよ。聞きます?」

「いえ、結構」


 怖いわー。


「それがいいと思います。貴族はこういうことを平気でしますので、他所のところに出かける場合は気をつけてくださいね」

「怖いですねー」

「我々も領地や己の立場を守らないといけませんからね。貴族ならば、できて当然です。まあ、それができないのがあなたの奥さんなのですけど…………」


 ロストのバーナード家であるヘイゼルか。


「あいつは無理ですか?」

「私もヘイゼルさんがこの町に来た時に散々、調べましたからね」

「そうなんです?」

「どう見ても貴族な娘がこの町に来たんですよ? しかも、調べてみれば、出身は隣国のロスト。当然、詳しく調査しますよ」


 それこそ、スパイか叔父の仲間かもしれないからか……


「どうでした?」

「…………まあ、ああいう人です。頭も良く、優秀な魔法使いです。でも、貴族としては3流ですね…………致命的に嘘がつけない」


 ヘイゼルちゃんはすぐに顔に出るからなー。


「それが彼女の美徳ですよ」


 ちょっと心配だけどね。


「あなたの奥さんとしてはそれでいいと思いますよ。かわいらしい方でしょう? でも、貴族としては使えません。だからバーナード家はさっさと嫁に出そうと思ったんでしょうね」

「あれに貴族の嫁が務まりますかね?」


 腹芸ができないのは致命傷でしょ。


「バーナード家の当主はそういうことに関わりのない家を選んだようです。知ってます? ヘイゼルさんは当初、ロストの公爵家の後妻の予定だったらしいですよ」


 公爵…………?

 知らないけど、話しぶりからしてすごいんだろうな。


「ヘイゼルから40歳越えの男に嫁がされそうになってたとは聞いていましたが、後妻ですか…………そら、家出するわ」

「でしょうね。私も同じ立場だったら家出します。ましてや、あれほど優秀な魔法使いならなおさらでしょうね」


 逃げろとアドバイスしたヘイゼルの友人はマジでナイスだわ。


「ヘイゼルの親父さんも別に悪気があったわけではないんでしょうけどねー」

「それはそうでしょうね。後妻とは言え、公爵家の正室です。もし、ヘイゼルさんが女子を産めば、その子は次期王妃候補筆頭になります。男子の場合は次期王の腹心ですかね? 伯爵家であるバーナード家としては相当なことをして、ねじ込んだんでしょう」


 家のためか、娘のためか……

 まあ、両方だろうが、腹芸はできないけど、容姿に優れ、頭の良いヘイゼルとしては最高の嫁ぎ先だろう。

 もちろん、感情を抜きにすればだけどね。


「それが立ち消えたわけですか…………もっと謝っておけば良かったかなー」


 鏡では足りなかったかも……


「いや…………まあ、あなたもその…………」


 あ、俺、王族の息子だったわ。


「まあ、その辺はいいじゃないですか。私達は3人で幸せです」

「それもそうですね。腹立たしいですが、それもそうですね」


 あ、やべ。

 この人、未婚だったわ。


「さあ、金貨5000枚を見つけに行きましょう!」

「…………は? そんなにあるんです?」

「多分……」

「嬉しいことですが、これは出所の調査が必要ですね…………」


 お疲れ様です。


 俺は領主様と共に領主様の叔父の執務室に入った。


「ここですか? くまなく調べてはいるんですが…………」


 執務室は机があるだけで、後は本棚だ。

 とはいえ、本はすでに回収済みのようで棚には何もない。


 俺は机の下の床を触る。

 床は木の板でできており、普通の床に見える。


「うーん、ここが怪しいんだけどなー…………ん?」


 俺が床をトントンと叩きながら探していると、音が変わったところを見つけた。

 俺はその辺りを重点的に探すと、爪でひっかけれそうな隙間を発見したため、爪を立て、床の木を上げてみる。

 すると、簡単に床の板が取れたので、周囲の板も外していった。


「怪しい木箱を発見しました!」

「ナイスです! さすがです!」


 俺は領主様の称賛を浴びながら木箱を持ち上げようとした。

 しかし、重すぎて無理だった…………

 仕方がないので、木箱の蓋だけを取ると、中身を領主様と覗き込む。


 木箱の中には大量の輝く金貨が入っていた。


「よし! これで守銭奴と戦える!」


 ウチの嫁は領主様からも守銭奴という認識をされているのか……

 一応、修道女なんだぞ!

 あと、かわいいんだぞ!


「量が多いので、他の人を呼んだ方がいいですね。ちょっと私には持てそうにないです」

「兵士に運ばせます。では、我々は屋敷に戻りましょうか」


 俺達は金貨を見つけると、屋敷を出た。

 領主様が外に待機していた兵に指示を出すと、兵士たちは慌ただしく屋敷に入っていく。


 俺と領主様はそれを見送ると、馬車に乗り込み、屋敷へと戻っていった。


 屋敷に戻ると、悪い顔をしている女とそれを見て呆れている女、そして、憔悴している老人がいた。


 かわいそうに……

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