第077話 やっぱりこの飲み物、おいしい!


 俺達は襲撃されたが、敵は神父様にあっという間に蹴散らされ、その後片付けは領主様がやってくれるらしい。


「任せていいんですかね? それに事情説明は?」


 俺は領主様にゴミ掃除をやらせるのはどうかと思い、神父様に聞いてみる。


「さっき、ロニー殿も言っておっただろう。祝福の儀は何よりも優先される。たとえ、王や領主であろうと、反対や邪魔をすることは許されない。これは女神様の儀式だからな」


 まあ、後で聞けばいいか……


「どうすれば?」

「こっちに来なさい」


 俺とフィリアとヘイゼルの3人は神父様に促されて、前にある絵の前に来た。

 絵には女神様らしき女性の絵が描かれている。


「儀式はそう難しいものじゃない。ただ、貢物を捧げ、祈るだけだ。貢物を持ってきたか?」

「はい。ヘイゼル」

「うん。これでいいの?」


 ヘイゼルが収納魔法から100円の缶酎ハイを3本取り出した。

 俺はそれを受け取り、神父様に見せる。


「これは何だ?」


 神父様が聞いてくる。


「お酒です。以前、女神様に盗られたので好きなのかなと…………」

「そうなのか? まあ、貢物は別に何でもいいからいいとは思う。では、それをそこの女神様の絵の前に置け」


 俺はそう言われたので、女神様の絵の前に缶酎ハイを3本並べた。


「これでいいですか?」

「うむ。では、絵の前に跪き、目を閉じなさい」


 俺達はそう言われたので、絵の前に並んで跪いた。

 そして、目を閉じる。


「これより、祝福の儀を始める…………今、この時を持って、ここにいる3名が夫婦となる。それはこれからの人生を共に生き、苦難を乗り越え、幸福を共有することである。この者達は共に協力し、お互いを尊重することをここに誓う。女神様、この者達の祈りを聞き、祝福を与えたまえ」


 俺は心の中で祈った。

 自らとフィリアとヘイゼルの幸福を。

 

 …………女神様、この前も捧げましたが、今回は3本も捧げます。

 どうか、我らに祝福をください。


「目を開けよ」


 神父様に言われたので目を開ける。

 すると、絵の前に置いてあった3本の缶酎ハイがなくなっていた。


「これで祝福の儀は終わりだ。貴様らはこの日、この時をもって女神様に認められ、夫婦となった」


 あっさりだなー。

 誓いのキスとかはないのかね?

 …………帰ったらでいいか。


「おめでとう、リヒト君」

「おめでとー」


 両親が拍手をしてくれた。


「ありがと」

「じゃあ、僕らは帰るよ」


 もう?


「早くね?」

「いやー、外の連中がうるさそうだし、飛行機の時間がねー」

「ママ達はオーストラリアでコアラを抱っこしに行くの」


 カンガルーに蹴られてろ。


「ディラン殿、息子達をお願いします」

「うむ。貴殿も元気でな………………姫様、お会いできて嬉しかったです。お元気で」

「いや、今生の別れみたいなことを…………お前は死なないっての。年甲斐もなくはしゃいだせいで明日、腰が痛くなる程度よ」


 暴れたもんなー。


「いや、姫様が命令したのでは?」

「うっさいわね! パパ、行こ! このジジイ、まったく成長してないわ。説教ばっかり!」


 成長してないのはあなたでは?


「では、僕達はこれで。リヒト君、またね」

「2人も元気でねー。ばいばーい。お幸せにー!」


 俺の両親はそう言って、一瞬にして姿を消した。


「ようやく帰ったか…………あーあ、どっちとは言わないけど、身内の恥だったわ」

「ノーコメント」

「同じく」


 もう答えを言ってるわ。


「神父様、領主様をお呼びしてもよろしいでしょうか?」


 俺は一息ついている神父様に確認する。


「そうだな。奥の執務室にいるから呼んできてくれ」

「わかりました。2人も行ってくれ。俺が呼んでくる」

「わかった」

「おねがいね」


 俺は1人で教会の本堂を出ると、外に止まっている馬車に向かう。

 馬車の前には護衛と思わしき兵士が立っていた。


「お待たせして申し訳ないです。祝福の儀を終えましたので教会の執務室までお願いするように伝えていただきませんか? 神父様もご高齢なので……」


 俺は馬車の前に立っている兵士に声をかけた。


「わかった……あ、おめでとう」

「ありがとうございます」


 俺がお礼を言うと、兵士は2度ほど頷いた。

 そして、馬車をノックする。


「何でしょう?」


 中から領主様の声が聞こえる。


「リヒト殿がいらしてます。祝福の儀を終えたので教会の執務室に来てほしいそうです」

「わかりました」


 領主様がそう言うと、扉が開き、中から領主様と執事が出てきた。


「リヒトさん、結婚おめでとうございます」

「おめでとうございます」


 領主様と執事も祝福の言葉をかけてくれる。


「ありがとうございます。神父様がお待ちになっておりますので、どうぞこちらに」

「はい。あなた方はここで待機してなさい。ロニー1人で十分です」

「かしこまりました」

「では、参りましょう」


 俺は2人を教会の中に案内すると、執務室の前まで来た。

 そして、扉をノックする。


「神父様、領主様と執事のロニー殿をお連れしました」

「うむ。入ってくれ」


 俺は扉を開けると、2人を中に通した。

 執務室では神父様は座っていたが、フィリアとヘイゼルは立ったままだ。


「領主様、座ったままで申し訳ない。どうも、はしゃぎすぎたようだ」


 神父様は座ったまま腰をさする。


「いえ、構いません。ご自愛くださいませ」

「うむ。して、説明して頂けるのでしょうな?」

「もちろんです…………あのー、その前にリヒトさんのご両親は?」

「あ、用事があるようで帰りました」


 俺は領主様に説明をする。


「早いですねー。では、今から説明することと共に後で謝罪を伝えておいてください」

「わかりました」

「では、先ほどの襲撃犯についてです。大体、想像がついているとは思いますが、私の叔父の差し金です」


 でしょうね。

 他にいないもん。


「あのバカを捕らえたのではないのか?」


 神父様が領主様に聞く。


「捕らえたのですが、その前に指示を出していたようで……叔父にそのことを吐かせたので、慌ててやってきた次第です」

「まあ、そんなことだと思った。あのバカはリヒト殿とヘイゼル嬢が何かを掴んだと思っていたのか?」

「そのようです。私の身内のことで御二人を巻き込んでしまって申し訳ありません。ましてや、祝福の儀を行うところだったというのに…………」


 領主様が頭を下げて俺とヘイゼルに謝罪をする。

 貴族である領主が頭を下げるのは相当なことだろうが、多分、祝福の儀を邪魔することがその相当なことなのだろう。


「いえ、私達は特に…………ねえ?」

「だな。神父様すげーって思いながら見てただけだし」


 ホント、あっという間だった。


「ディラン様、お手数をおかけしました」

「…………まあ、私は自分の責務をまっとうしただけだ。本来ならあのバカを斬るところだがな」


 騎士って、こえーな。

 あんな母親のために領主の一族ですら殺すらしい。


「それは申し訳ありません。すでに処刑済みです」


 はやっ!


「何? いささか早すぎんか?」


 さすがの神父様もびっくりしたようだ。


「生かしておいても良いことはありませんし、叔父の派閥の者も捕らえました。陛下や周りの貴族達に知られたくありませんし、早々に片付けます」


 この人も地味にこえーな。

 貴族としては優秀なのかもしれない。


「まあ、黙っておくのは私も賛成だ。お家騒動など、他の貴族に隙を見せるだけだし、エーデル王への覚えも悪くなる」

「さようです。それで申し訳ありませんが、教会の方にも…………」

「わかった。貴様らは余計なことをしないだろうし、詮索もしないだろうからな。この程度のことならいくらでもみ消せる」


 母さんのことを黙ってろよ?

 言ったら潰すぞ!

 って、聞こえるのは俺だけ?


「もちろんでございます。改めまして、御三方の結婚、おめでとうございます」

「うむ。今日は実にめでたい。孫を嫁に出すのが私の最後の仕事だと思っていた」


 だから、あんたは死なないってば。

 じじいギャグか?


「ようございましたね」

「まったくだ。あとは貴様だな」

「…………放っておいてください」


 あ、領主様の顔が能面になった。

 この人、いくつなんだろう?


「コホン! ディラン殿、我らはこれで失礼します。リヒト殿達の正式な謝罪と謝礼は後日にします」

「あい、わかった」


 いや、別にいらねーんだけど。

 どうせ、安いし。


「リヒト殿、フィリア殿、ヘイゼル殿、この度は本当におめでとうございます。我らはここで失礼させていただきます」


 執事は能面のままの領主様を連れて、執務室を出ていった。


「あの人、何歳です?」

「25歳になる。あまり触れてやるなよ」


 いや、触れたのはあんたや!


 しかし、あんな美人なのにねー。

 というか、25歳って普通に若いと思う…………

 やっぱこの世界の価値観はすごいわ。

 だって、俺の嫁、16歳と17歳だもん。

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