第074話 親が新居に来るのは嫌
俺の自室にあるベッドで3人仲良く寝た翌朝、俺達は早めに起きて、風呂に入った。
いつもの順番はフィリア、ヘイゼル、俺だが、今日は俺が先に入る。
理由はフィリアとヘイゼルのどっちかが先に風呂に入ると、残された2人が何かをしだすからでしょうね。
だって、服を着てないんだもん。
俺はさっさと風呂に入り、軽くシャワーで汗とかを流すと、リビングで2人を待った。
しばらく待っていると、フィリア、ヘイゼルの順番でリビングにやってきたので、朝ご飯を食べる。
服はあっちの世界に帰るため、フィリアが修道服でヘイゼルが黒ローブだ。
俺達は朝ご飯を食べ終えると、準備をし、コーヒーを飲みだす。
フィリアは飲めないので野菜ジュースだけど。
「リヒトさんはわかるんだけど、ヘイゼルさんはその苦いのをよく飲めるね」
「慣れたら良い苦味じゃない? 特別、美味しいってわけじゃないけど、癖になるって感じ」
「私は無理だなー」
子供舌のフィリアと何でも食べるヘイゼルの差だろうなー。
俺達が出発前のティータイムを楽しんでいると、チャイムが鳴る。
俺は立ち上がり、玄関に向かうと、両親が立っていた。
「おはよー」
「おはよう」
両親が俺に挨拶をしてくる。
「ああ、おはよ」
「もう準備はできてる?」
母さんが聞いてくる。
「できてるよ」
「そう? じゃあ、悪いんだけど、2階の部屋を借りるね」
「ん? なんで?」
「この格好であっちには行けないよー。着替えてくる」
あー……確かに。
父さんはTシャツにジーパンだし、母さんは年甲斐もなく、白のワンピースを着ている。
向こうでは目立つな。
「外に出なくてもよくない? 神父様は家に来るって言ってたし」
「顔合わせはそれでいいでしょうけど、その後、教会で祝福の儀をするんでしょ? ママとパパにも見せてよ」
えー……
まあ、いいか。
親だし。
「じゃあ、勝手に2階に行って、着替えてきなよー」
「ありがと」
「じゃあ、もうちょっと待っててね」
両親が階段を上がっていったので、俺はリビングに戻る。
「あれ? 1人?」
「お義父さまとお義母さまは?」
俺が1人でリビングに戻ると、フィリアとヘイゼルが疑問に思ったらしく、聞いてきた。
「上で着替えてる。あっちの格好で行くんだってさ」
「あー……なるほど」
「え? お義父さまはともかく、お義母さまはマズくない? ソフィア様じゃん」
「うーん、言うても20年以上前だろ? 知ってるヤツいるか? あっちの世界には写真もないし、本人も20年経って、おばさんになってんだぞ」
さすがに大丈夫だと思う。
「そうかなー? おばさんはひどいけど」
「どこがひどいんだよ。20歳の息子がいるんだぞ。俺らに子供が出来たらおばさんを越えて、おばあちゃんだわ」
そう思うと、ウチの両親ってマジで若いな。
母さんは39歳だもん。
「最悪な事実を聞いたわー」
後ろから声がしたので振り向くと、あっちの服に着替え終えた母さんがげんなりしていた。
どうでもいいけど、着替えるのはえーな。
魔法か?
「しゃーないだろ」
「まあまあ」
父さんが母さんを慰める。
「おはようございます。昨日はありがとうございました」
「おはようございます。本日も引き続きよろしくお願いいたします」
フィリアとヘイゼルが挨拶をする。
「はい、おはよう」
「よろしくねー。あー、本当に修道服だ」
「修道女ですので…………一応」
一応ね。
本業は商人…………じゃなくて、冒険者。
「そして、ヘイゼルちゃんは魔法使いかー。いかにもね」
「魔法学校に通っていたんです。中退ですけど」
それはしゃーない。
落第じゃなくて、逃亡だからなー。
「優秀なのねー…………」
「僕は魔法は全然ダメだったなー」
父さんが意外なことを言った。
「え? そうなの? でも、ルー〇を使えるじゃん」
「これはギフトだよ。僕だって、魔法を使いたくて知り合いに頼んだんだけど、無理だってさ。才能ナシ」
「パパは魔法はちょっとねー……まあ、パパは魔法よりもすごいギフトがあるからいいと思うわ」
ホント、ホント。
暗殺だろうと盗みだろうと何でも出来そうだもん。
「父さんの転移って、制限とかないの? 俺のスマホは24時間の充電期間があるけどさ」
24時間さえなければと何度思ったか……
特にヘイゼルと一緒にピンチなったあの時はマジで思った。
「父さんのギフトは充電期間はないね。制限は人数が5人までなこと、飛ぶ人や物は触れてないといけないことだね」
「俺のスマホより高性能じゃん。触れても飛べなかったし」
おかげで貧弱なヘイゼルちゃんがソファーを頑張って持ち上げるハメになった。
「多分だけど、そのスマホと父さんのギフトは同一だと思うよ。触れるだけじゃダメなんだ。これも一緒に転移するって意識がいる」
「意識?」
何ぞや、それ?
「人にしても、物にしても、運ぶ時に心の中で指定する必要があるんだ。例えばだけど、僕が君らに触れてたとして、人数制限は5人だから全員飛べる。でも、リヒト君は置いていくって思えば、例え、リヒト君が父さんにしがみついても飛べないんだ。物も一緒」
「へー……ヘイゼル、最初にソファーの運搬に失敗した時のことを覚えてるか?」
「確か、あの時はあんたにソファーを触るように指示されて、それに従った気がする。言われてみれば、持っていこうとは思っていなかったかな?」
でも、2回目のヘイゼルは持っていく気満々だった。
フィリアのマットレスにしてもそうだ。
「なるほど。それっぽいな……」
「確かめてみる? 何か触ってようか?」
フィリアが聞いてくる。
「そうだなー……やってみるかー。じゃあ、このローテーブルにしようか」
ローテーブルは向こうでも設置しようという話になっていた。
お酒を置くところがないんだもん。
「いいと思う。こっち用のやつは新しいのを買えばいいし」
「じゃあ、それで。行ける?」
俺が運ぶ物をローテーブルに決めると、全員に確認をする。
すると、全員が頷いたので、俺はローテーブルの方に向かった。
「フィリア、ローテーブルに触ってて」
「はーい」
フィリアはしゃがんでローテーブルに触れると、空いた手で俺の右手を握った。
ヘイゼルは俺の左腕を触る。
「触れていればいいんだっけ?」
俺は父さんに確認する。
「そうそう」
父さんは俺の問いに肯定し、背中を触ってきた。
母さんもまた背中に触れる。
「ママだけを取り残していくっていうしょうもないボケはいらないからね」
ちょっと思ってた。
父さんがいれば迎えに行けるし…………
「じゃあ、行くよー。スマホの画面を見てねー」
俺はスマホを操作し、アプリを起動させた。
すると、いつものぐるぐる画面が表示される。
「気持ち悪いなー」
「何それ? 酔いそうだわー」
初めてぐるぐる画面を見た両親の声が聞こえてきたと同時に視界が白く染まった。
◆◇◆
視界が元に戻ると、異世界にあるヘイゼルの家に戻ってきた。
なお、この家をヘイゼルの家から我が家と呼び変えるまであとちょっとだ。
「おー、ホントに転移した」
「ローテーブルもあるね」
俺は父さんの言葉を聞いて、フィリアの方を見る。
すると、フィリアの腕の先にはローテーブルが置いてあった。
「このアプリは父さんのルー〇と同じ仕組みか……」
「みたいねー。あっちに持っていこうか」
「だなー」
俺はフィリアに言われて、フィリアとヘイゼルの3人でローテーブルを持とうとした。
「あ、父さんがやるよ。あそこのソファーの前でいいかい?」
「え? そうだけど……」
「任せといて」
父さんはそう言うと、一度、ソファーの前に行き、戻ってくる。
そして、ローテーブルに触れたと思ったらローテーブルごと父さんが消えた。
「あれ?」
「え?」
「消えたし……って、出てきたし」
父さんは消えたと思った瞬間、ローテーブルと一緒にソファーの前に現れた。
「これが父さんのギフトだね」
「ズルくね? このスマホよりも高性能すぎん?」
テレポートかと思ったわ。
「便利ではあるね」
「引っ越しも楽そうだなー」
「母さんの収納魔法があればいらないけどね」
それにしてもすげーわ。
「俺のスマホはなんで制限があるんだろ? というか、なんでスマホなんだろ?」
「リヒトちゃんにギフトをあげてもロクなことに使わないからじゃない?」
「ひど」
女神様、もう少し、俺を信用しようよ。
まあ、100パーセント、詐欺師から怪盗に転職しますけど!
「ここがアルトの町でいいんだよね?」
父さんが聞いてくる。
「だなー。あ、神父様を呼んでこないと」
「私が呼んでくるよー」
フィリアが手を挙げる。
うーん、身内が行った方がいいか。
「頼むわ」
フィリアに危険はないし、任せよう。
「じゃあ、ちょっと行ってくる。お義父さま、お義母さま、少々、お待ちください」
フィリアは俺の両親に頭を下げると、家を出ていった。
「じゃあ、待ちますか…………しかし、リヒトちゃん達は好き勝手してるねー。家電がいっぱいあるし」
母さんが部屋を見渡しながら呆れる。
「ポータブル電源とかいう便利なものがあるんだってさ。すごいわ」
「カップラーメンまであるし…………父さんがこっちに来た時はこういうのが恋しくて仕方がなかったよ」
だろうねー。
俺も最初の頃に干し肉ばっか食べてた時には恋しくて仕方がなかった。
「わかります」
ヘイゼルがうんうんと頷いた。
フィリアもだが、ヘイゼルはもう元の生活には戻れそうにないな……
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