第073話 両親に紹介(2)


「これね、多分、女神様の力だわ」


 母さんはそう言うと、俺にスマホを返してくる。


「わかるん?」

「いや、わかんない」


 殴っていいかな?


「真面目にやれや」

「いや、真面目。ママはね、巫女だったし、それはすごい力を持っているの。だから大抵のことはわかる。リヒトちゃんが今日の夜に幸運が訪れるのもわかる」

「ママ! 僕、魔法を覚えたから見せてあげるよ!」


 顔面に食らわしてやるわ、ボケ!


「やめさなさい。いやね、本当にわかるの。精霊だろうとなんだろうとね。でも、これはわからない。つまり、それ以上の力を持った存在よ」

「それが女神様?」

「そういうこと。でも、ギフトとは違うわね…………リヒトちゃんをあっちの世界に呼びたい理由でもあったのか…………」


 ただ会いたいって思ったわけじゃないだろうな。

 仕事をさせる気?


「やだよ。仕事したくない。女神とか教会に関わりたくない」


 絶対にめんどいじゃん。


「そのうち啓示でも来るかもね。断れないわよ? だって、あなた達はこれから祝福をもらうんだから」


 実はもうもらってたりする。


「うーん、来ませんように」

「そうだといいね!」


 母さんがニコッと笑った。


 あ、来るんだ。

 未来視で見たんだ。


「保留」

「リヒトちゃんはいっつも保留するね」


 悩んでも仕方がないことは保留だろ。


「まあまあ、女神様も悪い人じゃないんだよ? 父さんもギフトをもらったし」


 俺にはくれませんでしたけどね!


「いいなー、ギフト。他にはどんなんがあるの?」

「他の人ねー。よくわかんないなー。あまり接触してないし」


 ん?

 世界中を旅してたんじゃねーの?


「そうなん? 結構、いるらしいけど」

「あー……他の転移者にはあまり接触しない方がいいよ?」

「なんで?」

「ギフトをもらって増長する人間もいるんだよ。すごく感じが悪かった」


 調子に乗ったわけかー。

 接触も考えてたけど、避けた方がいいかもな。


「あー、私を口説いてきたヤツもいたわねー。身の程を知りなさいっての」


 いや、それ、パパもじゃね?


「母さんはモテたもんねー」

「もう! リュウジさんったら!」


 そのやりとりはさっき聞いたからもういいよ。

 フィリアとヘイゼルがどんな表情をしていいか困ってるだろうが。


「遅れてきた反抗期になりそうだからもういいよ。それよかさ、母さんって戸籍はどうしたの?」

「戸籍? ああ、買ったわね」


 え? 戸籍って買えるん?


「買ったん?」

「リヒトちゃんを産む時に困るし、パスポートとかあるしねー」

「どこで買えるん?」


 コンビニ?


「何のための親分さんがいるのよ」


 あ、やーさんから買ったのか。


「フィリアとヘイゼルも買える?」

「買えるんじゃない? 聞いてみれば?」


 聞いてみるかー……


「まあ、考えておくわ」

「それでさっきの話に戻るけど、入籍はどうするの? 2人は無理よ?」


 と言っても、どっちかだけにするのはマズいよなー。


「内縁の妻でいい?」


 俺はフィリアとヘイゼルに聞く。


「私はそもそも、その制度がよくわからないからどうでもいいわよ。女神様の祝福をもらえればそれでいいし」


 ヘイゼルは問題ないらしい。


「私の戸籍があるなら子供の認知だけをしてくれればいいよ」


 フィリアはどこでそんなことを学んだんだろう?


「籍はいいや。女神様に祝福をお願いするだけにしとく」

「わかったわ。式もあげない?」

「呼ぶ人がいねーし」

「うーん、別に当人達だけでできるけど、式場の人が引くかもね。だったらせめて、写真くらい撮ったら?」


 写真?

 

「何それ?」

「フォト婚って言うのかな? ドレスをレンタルして写真を撮るの。この歳になるといい思い出になるわよー」

「撮ったん?」

「見る?」


 別に親のなんか見たくねーな。

 でも、フィリアとヘイゼルにお伺いをしないといけない。


「じゃあ、見せて」

「ちょっと待っててねー」


 母さんはそう言うと、立ち上がり、リビングを出ていった。


「俺があっちの世界に行ってることは知ってたん?」


 母さんが席を外したので父さんに聞いてみる。


「母さんがそう言ってた。リヒトちゃんの霊圧が消えた……とかなんとか」


 その言い方は嫌だなー。


「このスマホを買い替えたらアプリは引き継げるのかな?」

「本当に女神様が与えたものだとしたら大丈夫だと思う。僕らはこっちの世界の生まれだから理解しにくいけど、あっちの世界における女神様の力は本当に強いんだよ」

「女神様は母さんを連れ戻すとか考えなかったのかね?」


 それくらいできそうだ。


「母さんも言ってたけど、母さんほどの力はなくても巫女候補は他にもいるからね。やる気のない者を無理に連れて帰っても仕方ないでしょ」


 その理論でいくと、俺はやる気があると思われたんか?

 まったくありませんよ!


「お待たせー」


 母さんがアルバムっぽい本を持って、戻って来た。


 母さんは席に着くと、俺にアルバムを渡してきた。

 俺はアルバムを開き、写真を見る。


 写真には白いウェディングドレスを着た若き母とグレーのスーツを着た父が写っている。


「若いなー」

「そら、17歳か18歳の時だもん」

「懐かしいねー」


 しかし、若すぎて、母親はともかく、父親の背伸び感がすげーな。


「よく考えたらこいつら、俺の親のくせに俺より年下じゃん」

「当たり前のことを言うわね」

「いや、違和感がね…………はい、こんなんを撮ったらだってさ」


 俺はアルバムをフィリアに渡した。

 フィリアはアルバムを受け取ると、ヘイゼルと共に見る。


「このドレス、すごくない?」

「こんなの見たことない。すごく高そう…………」


 実際、買ったら高いだろうね。


「レンタルだからそこまでじゃないと思う」


 数万くらいだろ。


「えーっと、こんな格好をして、写真を撮るの?」


 フィリアが聞いてくる。


「だなー。こっちの世界ではこんな感じの格好をして、友人や親族にお披露目をするんだ。そっちの世界の貴族のパーティーとやらがどんなもんか知らんが、似たようなものだと思う」

「いいの?」

「お前らがしたいならする。一生に一度のことだし、悩むくらいならやった方がいいかなー」


 あとで文句を言われたくない。

 それに単純に俺がフィリアとヘイゼルのウェディングドレス姿を見てみたい。

 母親のことだからあんまり褒めたくはないが、ウェディングドレスを着た母はきれいだと思うし。


「じゃあ、せっかくだし……」

「そうねー。そこまで高額じゃないなら……」

「それがいいわよー。あとで撮っておいて良かったって思うからねー。年を取ると、ホントに…………」


 もうアラフォーのおばさんだもんね!


「ソフィアはいつでもきれいなままだよ」


 父さんがイケメンなことを言っている。

 ふふっ。


「ありがと…………笑ってる息子を殴りたいわー」

「殴んなや。あんたの美しさとか若さを一番興味ないのが俺なんだからしゃーないじゃん」


 親の美醜とかマジで興味ない。

 絶世の美人だろうが、すっぽんだろうが、この人達は俺の親であり、それ以上でも以下でもない。

 俺、結構、良いことを言っているんだぞ。


「まあ、いいわ。じゃあ、行ってきなさい」

「ん? 今から?」


 急すぎない?


「平日だし、いきなり行っても大丈夫よ。写真の受け取りは後日だろうけど」

「いや、無理じゃね?」

「電話してみなさい。あんたらが出かけている間にこの家を片付けておくから」

「いや、それこそ無理じゃね? 引っ越し業者は?」


 もしかして、もう頼んだの?


「ふっふっふ。リヒトちゃんは私が素晴らしい能力を持っていることを知らないのね…………」

「もしかして、収納魔法を持ってんの?」

「…………つまんない子」

「マジで!? 母さん、すげー!」

「ふふっ、かわいい子」


 どっちやねん。


「基本的に家具とかは置いておくから好きにしていいよ。服とかの私物を持っていくから」


 喜怒哀楽の激しい母さんを無視し、父さんが言ってくる。


「じゃあ、ちょっと店を探して電話してみるわー」


 俺は店を探し、電話をすると、今からでもオーケーな店がすぐに見つかった。


 場所も割かし近かったので、フィリアとヘイゼルを連れて出かけることにした。

 店に着くと、いくつかある衣装から選んでいくのだが、やっぱり女2人は時間がかかる。

 俺はさっさと決まったので、男の店員さんと話をしながら待っていた。


 なお、2人は珍しいか聞くと、初めてだと言われた。

 すごいだろーっと自慢をすると、苦笑いだった。

 まあ、そうだよね。


 長々と悩んでいたフィリアとヘイゼルもドレスを決めると、一緒に写真を撮る。

 若干、カメラマンさんが戸惑っている気もしたが、ここはスルーだ。


 撮影も終わり、アルバムを後日、受け取ることにすると、帰りにお茶を飲んだ後、家に帰った。

 家に帰ると、母親が料理をしており、フィリアが慌てて手伝いにいく。

 俺とヘイゼルは2階に行き、父親の荷物の整理を手伝った。


 そして、夜になると、両親を交え、5人で食事をする。


「フィリアちゃんは料理が上手だねー」


 母親が料理を手伝っていたフィリアを褒める。


「ありがとうございます」

「でも、やっぱり言葉がわからないと難しいでしょ?」

「ですね…………」


 レシピが読めないし、香辛料とかもわからんしなー。


「あ、教材とやらをくれよ」

「あとで渡すわよ。あんたは加護があっていいわねー。パパもだけど、英語だろうとなんだろうと通じちゃうのよ?」


 女神様の翻訳〇んにゃく、すげー!

 俺、これで大学の英語もドイツ語も100点だわー。


「これで外人も騙せるなー」

「宗教には気を付けなさいよ。たまに熱心なのがいると、怒るから」


 まあ、そもそも外国に行くことがあまりないか。


「やめとくわー…………あー、それとさ、神父様との顔合わせはいつにする? それが終わったらすぐにでも神父様が儀式とやらをしてくれるって言ってるけど」

「いつがいいの?」

「そら、早い方がいい」

「じゃあ、明日? 明日の朝には24時間経つんでしょ?」


 こっちに来たのは朝の6時前だったし、問題ないな。


「明日の朝に転移すれば昼かな? そういや、なんで時差があんの?」

「知らないわよ。というか、ぴったりの方が不自然でしょ」


 そらそうだ。


「朝に帰るってことでいい?」


 俺はフィリアとヘイゼルに聞く。


「いいよ」

「向こうの昼ならちょうどいいと思う」


 フィリアもヘイゼルも問題ないらしい。


「じゃあ、朝でいい?」


 俺は両親にも確認する。


「いいわよ。パパもいいわよね?」

「いいよ。僕らはご飯を食べたらマンションに帰るから明日の朝にまた来るよ」

「俺のアプリで一緒に転移すんの?」


 俺、父さんのルー〇を見たいんだけど……


「僕はエーデルに行ったことはあるけど、アルトはないんだ。頼むよ」


 あー、なるほど。


「じゃあ、それでいこう」


 俺達は明日の予定を決めると、食事を再開した。

 そして、食事を終えると、洗い物を誰がするかの格闘があったものの、両親は大人しく帰っていった。


 両親が帰り、片付けも終えると、俺達3人はソファーに座り、一息入れる。


「疲れたー」

「ホントねー」


 フィリアとヘイゼルは完全にだらけきっており、ソファーに背中を預けきっている。


「お疲れ様。緊張した?」

「そらねー」

「ソフィア様だもん。巫女とか関係なく、王族はキツいって」


 ヘイゼルは同じロストだもんなー。


「ホント、お疲れ。今日は風呂に入って、早めに寝ようよ」

「そうねー。お酒もやめとく」

「疲れたし、明日もあるしね」


 俺達は順番に風呂に入ると、就寝するために2階の部屋に行く。

 フィリアとヘイゼルが俺の部屋で寝て、俺が両親の寝室で寝る。


 いつものことだ。


 だが、俺は両親の寝室の扉を開けて、固まった。


「どうしたの?」

「ん? 何かあった?」


 パジャマに着替えている2人が聞いてくる。


「何もないね…………」


 両親の寝室には何もなかった。

 ベッドもない。


「え? ホント?」

「全部、持ってっちゃったの?」


 フィリアとヘイゼルが寝室を覗き込む。


「な? マジだろ?」

「ホントだ……」

「私物を持っていくとは言ってたけど、一気に全部とはね……」


 早いに越したことはないんだが、俺の寝る場所がねーよ。


「ソファーで寝るかなー……」

「いや、それはちょっと……」

「うん……」


 と言っても、こいつらをソファーで寝かすわけにはいかない。


「1日くらい大丈夫だって。今度、こっちに戻ってきた時にベッドとかを買いに行こうぜ」


 カーペットとかも買いたいし、今度、帰ってくる時は買い物づくしだな。


「うーん、一緒に寝る?」

「さすがに旦那をソファーに寝かすのはねー」

「いや、狭くない?」


 俺のベッドは広めのベッドではあるが、無理くね?


「いけるって」

「試してみましょう」


 2人に言われたので、3人で俺の自室に行き、ベッドで横になってみる。

 こういう場合、しゃーないんだけど、俺が真ん中になる。


「狭くない?」


 俺は2人に挟まれながら聞いてみる。


「思ってたより狭くはないかな」

「あんたが筋トレを3日で辞めたおかげねー」


 俺、そんなにヒョロくないんだけどなー。


「寝れるかな?」

「余裕でしょ」

「このくらいならねー」

「いや、そういう意味じゃないんだけどね」


 近いねん。

 押しつけんなや。

 いや、押しつけて正解なんだけど!


「明日も早いし、寝れるといいな」

「あー……そういう意味ね」

「え? マジ?」


 母さーん、あんたの占い通り、夜に幸運が訪れたよー。

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