第072話 両親に紹介(1)


 突然訪問してきた領主様だったが、話が終わったらさっさと帰っていったので、俺とヘイゼルは勉強を再開し、フィリアも編み物を再開した。


 この日は完全なオフなため、外にも出ないで過ごし、就寝した。

 そして、翌日の昼前になると、あっちの世界に帰った。


 今日はウチの両親にフィリアとヘイゼルを紹介する日である。

 俺は帰ってくると、すぐにスマホのメールをチェックする。


『昼過ぎに帰るよ~ん。よろしくー』


 俺がこの内容をフィリアとヘイゼルに伝えると、2人は慌てて準備をしだした。

 フィリア、ヘイゼルの順番に風呂に入り、ご飯を食べると、2人は部屋にこもりだした。


 俺はリビングの掃除をしながら2人を待っている。

 そのまま掃除を続けていると、リビングの扉が開いた。


「お待たせー」

「掃除を任せてごめんねー」


 準備を終えたヘイゼルとフィリアがリビングに戻ってきた。


 2人共、この前買った白を基調とした服を着ており、長い髪を上げている。


「2人共、似合ってるよー。でも、なんで髪を上げてるの? お前らが寝る時以外に髪を上げてるのを初めて見たわ」


 いつもそのまま伸ばしっぱなしか後ろで一本に結んでいる程度だ。


「既婚の女性は公の場では上げるものなの!」

「私も知らないけど、貴族ルールらしいよ」


 へー……

 ヘイゼルは貴族だし、ルールに従ったのかね?

 まあ、母親が王族だし、そうしたんだろう。

 何にしても似合ってるからいいや。


 俺はフィリアの前に回ると、そのまま抱きしめる。


「すごくきれいだよ」

「ありがと…………」


 俺はフィリアから離れると、そのままヘイゼルを抱きしめた。


「お前もすごくきれいだけど、白い服に違和感を覚える」

「自分でもそう思ってるわよ」

「でも、似合ってるよ」

「ありがとう」


 俺はヘイゼルから離れると、時計を見た。

 時刻は11時になっている。


「まだちょっと時間があるなー」

「大人しく待ってましょう」

「そうね、髪を上げたし、動きたくない」


 俺達はソファーに座りながら雑談をし、両親を待ち続けた。

 そして、昼の1時を回ったところでチャイムが鳴った。


「あ、帰ってきた。自分の家だからそのまま入ってくればいいのに」

「私は助かる」

「よし、最後に深呼吸をしよう」


 俺は2人が揃って深呼吸を始めたので玄関に行き、ドアを開ける。

 そこには子供の頃から知っているおじさんとおばさんが立っていた。


「おかえりー」

「ただいまー」

「帰ったよー」


 両親は母親がバッグを持っているくらいで何の荷物も持っていなかった。


「荷物は?」

「マンションに置いてきた。まあ、あとで説明するわ」

「2人の準備はいいかい? 入ってもいい?」

「いいと思う」


 俺は両親を連れてリビングに戻った。

 リビングに戻ると、両親とフィリア、ヘイゼルが対面する。


「…………………………」


 ん?


「………………リヒトちゃん、夫であるあなたが紹介するの。それが貴族のルール。というか、普通、そうでしょ」


 普通?

 知らない……


「どっちから?」

「常識で考えなさい」

「リヒト君は常識が皆無だからなー。普通は親に紹介するのが先」


 育てたヤツが悪いんだよ。


「えーっと、電話で説明したと思うけど、俺はこの2人と結婚しようと思ってる。こっちの金色がフィリア」

「フィリアと申します。教会で修道女をしております。本日はお時間いただきありがとうございます」


 俺が紹介すると、フィリアが一歩前に出て、微笑みながら頭を下げた。


「えーっと、こっちの黒いのがヘイゼル」

「ヘイゼルです。今はバーナードを名乗っておりませんが、バーナード家に連なるものです。本日はよろしくお願いいたします」


 ヘイゼルもまた頭を下げる。


「……………………あ、両親」


 俺はフィリアとヘイゼルを見ながら適当に両親を指差した。


「はじまして。リヒトの父です」

「電話では話したけど、はじめまして。リヒトの母です」


 両親もまた揃って頭を下げる。


「……………………終わった?」

「立って話す気?」

「俺が司会やんの?」

「当たり前でしょ。真面目にやんなさい。仕事だと思ってやりなさい」


 そうなのか…………


「じゃあ、立ち話もなんだから座りましょう」


 俺は皆をテーブルに誘導すると、まず、両親を座らせ、次にフィリアとヘイゼルを座らせた。

 そして、俺も自分の席につく。

 俺、フィリア、ヘイゼルが並び、対面に父親、母親の順に座っている。


「父さん、母さん、さっきも言ったし、電話でも話したけど、俺はこの2人と結婚をしようと思ってる」

「まずはおめでとう。父さんも母さんも反対する気はない。むしろ、さすがは我が子だと感心す………………足を踏まないでよ」


 ほらー、パパは褒めてくれると思ったもん。


「ゴホン! パパは置いておきます。リヒトちゃん、パパも言ったけど、特に反対はしません。ママだって、一夫多妻な世界に生きてきましたし、ママのパパであるロスト王には何人もの側室がいました」

「へー。さすが王様」


 何人もだってさ。

 よく持つなー。


「ですが、理解しておくように。日本は重婚を認めていません。つまり、あなた方は女神様からの祝福はもらえるでしょうが、こっちの世界の戸籍上ではどちらかは夫婦とは認められないのです」

「あのさ、その辺をまず聞きたいんだわ」

「なーに? 話の腰を折らないでよ」


 母親が文句を言ってくるが、まずは説明がほしいのだ。


「聞きたいことや説明してほしいことがいっぱいあるんだよ。まずさ、確認なんだけど、母さんはあっちの世界の住人で合ってんの?」


 そもそも俺はそこから知らねーんだよ。

 普通に世界のどっかにイースって国があるかと思ってたわ。


「そうね。まずがそこからでしょう。ママはね、異世界の人間だったのよ!」

「ロストのお姫様?」

「元ね。今はパパに嫁いだから庶民。あ、巫女もやってたわ」

「知ってる。3日で逃げたクズね」

「…………………………」


 黙ったし……


「母さんだって、苦渋の決断だったんだよ」


 父親が助け舟を出すと、母親がうんうんと頷きだした。


「苦渋ねー……」


 3日で?


「ま、まあいいじゃない。ママの代わりの巫女候補はいくらでもいる。でもね、パパの奥さんは私にしかなれないのよ」

「そうそう!」


 別に父さんだって違う人と結婚したんじゃね?

 言ったら怒りそうだから言わないけど。


「それでどうしたの? フィリアのじいちゃんである神父様は捜索したけど見つからなかったって言ったけど」

「それね。まあ、逃避行がめんどかった。せっかく家に住み始めて新婚生活を満喫してても、すぐに追っ手が来るんだもん。うぜー、うぜー」

「それで日本に逃げたん? 父さんのギフトだっけ?」

「そうそう。パパはね。転移のギフトをもらってたの! すごい! 女神様、感謝!」


 ちょっと黙っててくれないかな……


「父さん、父さんも異世界に行ってたの?」

「そうなんだよ。父さんが17の時かな? 学校からの帰り道でいきなり飛んだんだよ。本当にビックリだった。そこで女神様からもらったのが転移のギフト。行ったことある場所に飛べるスキルだよ」


 マジでルー〇じゃん。


「それ、すごくね?」

「いや、本当にすごいよ。父さんはこのスキルで宅配便みたいな仕事をして一財産を築いたんだよ」


 俺もそんなスキルが欲しかった。


「へー。母さんとは?」

「父さんのスキルは人も運べるんだよ。だからタクシーでもやろうかと思ってね。当時は巫女のいる東西南北の4国の巡礼みたいなのが流行ってて、これだ!と思った。簡単に言えば、4国を一瞬で移動できる商売で儲けようと思ったんだ。そこでイースに行き、母さんに出会ったんだよ」

「ふーん」


 惚気の予感がするからもう切ってもいいな。


「母さんはそれはもうきれいだった。あ、今もだけどね」

「もう! リュウジさんったら!」


 うぜ!

 両親のイチャつきほど、イラっとするものはないわ。


「そこは飛ばしてもいいわ。で? その転移で日本に帰れたん?」

「そうなんだよ。いや、まさか本当に帰れるとは思わなかった」


 はよ気付けや。


「こっちでは使えないの?」

「使えないというか、あっちの世界の行ったところならどこでも転移できる。でも、こっちはダメだね。今でも向こうに行けるんだけど、帰って来るところは転移した場所になる」

「へー。こっちでも使えたら便利そうだけど」


 交通費が浮くな!


「まあ、それは仕方ないよ。それで、父さんも聞きたかったんだけど、リヒト君はスマホで移動してるんだって? 意味がわからないんだけど」

「あ、それそれ! ママも思った」

「これなんだけど」


 俺はスマホを取り出し、アプリを起動させた。

 スマホ画面にはカウントダウンが表示されている。


「何、このカウントダウン?」


 父さんが聞いてくる。


「このスマホで転移できるんだが、24時間の充電期間がいるんだよ。その表示」

「へー。最近のスマホはすごいね」


 ねー。


「ちょっと見せて」


 母さんはそう言って、スマホをジーっと見る。


「何かわかる?」

「これね、多分、女神様の力だわ」


 はい?

 マジでこれが俺のギフトなの?

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