第070話 異世界で食べるカップラーメンはいつも以上に美味い。試してみ?
フィリアとヘイゼルを両親に紹介する日を決めた翌日、朝に起きた俺達は朝食を食べ、準備を終えると、リビングでソファーを見ていた。
「ヘイゼル、大丈夫か?」
「やめた方がいいような…………」
俺とフィリアはソファーを見た後、やる気満々のヘイゼルを見る。
「任せときなさいって!」
大丈夫かな……?
「収納魔法は?」
「枕とか掛け布団とか食材とか色々入ってるからもう入んない」
あー、枕や掛け布団も持っていくのね。
まあ、あっちの世界の枕や掛け布団もそれほど悪くはないと思うけど、こっちの方がいいか。
「合図をちょうだいね」
ヘイゼルが屈伸や腕を回し、準備運動をする。
そんなヘイゼルを見た俺とフィリアはお互いの顔を見て、苦笑した。
「じゃあ、いくぞー」
俺がそう言うと、右隣にいるフィリアが俺腕に抱きつき、左隣のヘイゼルが右手で俺の腕を掴んだ。
そして、左手をソファーに置き、左足をソファーの下に入れる。
「いつでもオッケー!」
「いっせーの、で!」
俺はそう言いながらアプリを起動した。
ヘイゼルはスマホの画面を見ながらソファーの下に入れた足でソファーを浮かせると、左腕で持ち上げる。
「ぬぬ!」
ヘイゼルの妙な気合の入った声が耳に届いた同時に視界が真っ白になった。
視界が元に戻ると、ヘイゼルの家のリビングに帰ってきていた。
俺は今回も無事に転移できたなと思っていると、左からドンッという音が聞こえた。
俺が左を見ると、ヘイゼルと共にソファーが置いてあった。
「あー、重かったー。でも、持ってこれたわー」
ヘイゼルがふぅっと息を吐き、ソファーに座った。
「ご苦労さん。あっちに置こう」
「そうね。フィリアー、こっち持ってー」
「わかったー」
俺達は3人力を合わせて、ソファーを決めていた場所に置く。
ソファーを置くと、3人並んで座ってみた。
「うん、やっぱりいいねー」
「これがないとねー」
「だなー。しかし、違和感があるな」
なんだろう?
向こうとは何かが違う気がする。
「土足だからじゃない? 私もすごく違和感がある」
「あー、確かに」
「それかー……」
向こうの世界では、当然、家では靴を脱ぐ。
だが、こっちの世界は土足だ。
「いっそ、あっちと同じで家では靴を脱ぐ?」
フィリアが提案してくる。
「正直、俺はそっちがいい。俺の国では基本、家では靴を脱ぐし」
「私もそっちでいいわよ。このままではソファーに足を置けないし」
ヘイゼルも同意してくれる。
「じゃあ、そうしよっかー」
「だなー。まあ、掃除して、何だったら今度帰った時にカーペットでも買えばいいしなー」
「それだ! リヒト、天才!」
「わはは! そうかー?」
俺、天才だったのかー。
「はいはい、天才さん達はあっちの部屋に行っててねー。私が掃除をするから」
俺とヘイゼルがキャッキャしてると、フィリアがヘイゼルの部屋を指差し、移動するように言う。
「お前、1人でやんの?」
「手伝うよ?」
「いや、掃除道具は1つしかないの。2人がいてもやることないし、あっちでトランプでもしててよ」
まあ、掃除のテクニックレベルで言えば、フィリアが一番高いのは確かだ。
「じゃあ、あっちに行ってようか」
「そうね。トランプしましょう」
「罰ゲームありかな」
「あ、私が掃除してるのに隣の部屋でイチャイチャしだしたら怒るからね」
ひえっ!
「罰ゲームはナシでいこう」
「そうね。神経衰弱をしましょう。あれなら勝てるし」
ヘイゼルは記憶力が良いからなー。
俺とヘイゼルはヘイゼルの部屋に移動すると、ベッドの上で神経衰弱をすることにした。
「この世界ってさー、どこも家では土足なん?」
俺は神経衰弱をしながらヘイゼルに聞く。
「そうね。少なくとも、靴を脱ぐ風習は聞いたことないわ」
そうなのかー。
まあ、あっちの世界でも欧米なんかは家でも土足だ。
「逆に靴を脱ぐことに違和感はないん?」
「あんたの世界で慣れた。まあ、あのきれいなフローリングを見ればねー。確かにあそこで土足はないわ。あと、私とフィリアが寝ているあんたの部屋のカーペットが気持ちいい。あそこでも寝れるわ」
こいつら、俺の部屋で何をしているんだろう?
「この家、どんどん人を呼べない家になっていくな」
ソファーにカーペット、しまいには電化製品まである。
そのうち、扇風機とか持ってきそう。
「人なんか呼ばなくていいでしょ。こうなったらとことん快適にすべき」
異世界味がどんどん薄れていくが、まあ、快適の方が良いことは確かだ。
「そのうち、ここでテレビゲームとかしそうだなー」
ポータブル電源があればできるだろうし、最悪、携帯ゲーム機は問題なく使える。
「まあ、その辺は言葉を覚えたらでしょうね」
「言葉なー。俺は加護があるけど、お前らは勉強かー…………大変だな」
「私は別に大変じゃないわ。語学を学ぶなんて苦じゃない。実際、私は魔法文字、古代文字も読めるもん」
そういえば、ヘイゼルさんは魔法学校に通っていたエリートな才女でしたね。
「お前、すごいなー…………しかし、ベッドにいると、罰ゲームをしたくなるな」
「フィリアがガチギレするわよ」
「バレなくない?」
お前が声を出さなきゃいい。
アイアム、さいてー。
「掃除ってリビングだけじゃないでしょ。フィリアの部屋もだし、この部屋もよ」
「それもそっかー。大人しくしてるか」
「そうしなさい。あ、これはあそこだわ」
ヘイゼルが嬉しそうにトランプをめくった。
神経衰弱は強いんだよなー。
ババ抜きはめっちゃ弱いくせに…………
俺とヘイゼルがトランプを続けていると、フィリアが部屋に入ってきて、ヘイゼルの部屋の床を掃除し始める。
「何か悪いなー」
俺はフィリアが掃除をしている横でヘイゼルとトランプで遊んでいることに罪悪感を覚えてきた。
多分、ヘイゼルもだろう。
「まあ、床だけだし、そこまで大変じゃないよ。それに今日の晩御飯は簡単だしねー」
何だろう?
まあ、どうせヘイゼルのリクエストだろう。
「晩御飯は何?」
「カップラーメン」
「ん? カップラーメン? 別にいいんだけど、なんでそれ?」
「ヘイゼルさんが食べてみたいんだってさ」
やっぱりお前か…………
「まあ、美味いとは思うけど、普通の料理の方が美味いぞ?」
「あんたは舌が肥えてるから信用できない。あれは絶対に美味しいやつよ。それにね、お湯だけでいいなら外でも食べれるじゃん。旅をすることはないかもだけど、便利よ」
我が師匠は魔法で簡単にお湯を出せる。
たいして美味くもない干し肉をかじるよりはインスタント食品の方が良いとは思う。
「いや、美味いのは確かだよ。実際、料理をロクにしない俺はよく食べてたし」
コンビニ弁当、カップラーメン、冷凍食品、パスタ、外食。
大体、このローテーションだったと思う。
今は違うけどね。
フィリアがいるから!(自慢)
「リヒトさん家の棚にいっぱいあるもんねー」
「それそれ。お前ら、箸は使えるん?」
スプーンとフォークしか使ったところを見たことがない。
「フォークでいいじゃん」
「練習する? 日本って箸がメインでしょ?」
「どっちでもいいと思う」
こいつらは外人だと思われるだろうし、お店とかに行っても、言えば、フォークとナイフを出してくれる。
「まあ、試してみればいいか」
「それもそうね。一応、そう思って、割り箸は持ってきてるし」
なんでだよ……
その後、ヘイゼルの部屋を掃除し終えたフィリアは自分の部屋も掃除し終えた。
俺達は今後、玄関に靴を置くことにし、家では素足というか靴下になった。
ちょっと床に違和感を覚えるが、今度、帰った時にカーペットを購入するので良しとする。
掃除を終えたフィリアもトランプに加わり、夜まで3人で遊んだ。
そして、夜になると、リビングに行き、カップラーメンを食べる。
正直、異世界の家のテーブルの上にカップラーメンが置いてある光景は異様だ。
「お前、味噌ラーメンで大丈夫か?」
俺はヘイゼルの前にあるカップラーメンのパッケージを見て、確認する。
「いや、わかんないし」
「私のは?」
フィリアもわからないらしい。
「お前のはしょうゆ。俺のもだな…………」
こいつらに味噌とかしょうゆは大丈夫なのだろうか?
まあ、今さらか……
「わかんないから食べてみよー。いただきまーす…………フィリア、フォーク」
ヘイゼルは蓋を取り、箸を持ったが、すぐに箸を諦めた。
「私もフォークにする。無理無理」
フィリアがフォークを取りに行く。
「あんたはよく器用に持てるわねー」
「慣れだよ。物覚えがついた時からこれだもん」
よく考えたら母親の箸の持ち方はちょっと変だったな……
多分、苦労したんだろう。
「はい、フォーク」
「あんがと」
フィリアがフォークを2つ持ってくると、ヘイゼルに渡した。
2人はフォークで巻いて、ラーメンを食べだす。
「うん、美味しい! ほらね、絶対に美味しいと思ったわ」
なんとなくわかってきたが、ヘイゼルは何でも食べる子だな。
多分、好き嫌いがない子だろう。
「確かに美味しいねー。しかも、お湯を入れるだけってのがすごいわ。めっちゃ簡単に美味しいものが作れる!」
子供舌のフィリアも美味しいと思うらしい。
間違って激辛を選んでたらどうなっていたんだろう?
「フィリア! 今度からご飯を作るのがだるいなーって思ったら私に任せなさい! 作ってあげるから」
ヘイゼルちゃんがカップラーメンを作ってくれるらしい。
まあ、お湯を出しているのはヘイゼルだから作ってるのはヘイゼルだろう。
でも、これ料理かな?
「そうするよー」
「積極的にだるくなってもいいからね!」
そんなに気に入ったか…………
でも、毎食、カップラーメンは嫌だぞ。
いや、美味いんだけどね。
うーん、あとでヘイゼルに冷凍食品の存在を教えるか…………
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