第069話 今日の俺の運勢は人生で一番良いでしょう
朝ご飯のオムライスを食べた俺達は片付けをすると、ソファーに座って一休みする。
「やっぱソファーは良いなー」
ご飯を食べる時はフィリアもヘイゼルも俺の対面に座る。
でも、ソファーだと隣にぴったりと座ってくれるので非常に嬉しい。
これを王様気分と言わず、何と言う?
「私もソファーは好きだなー。柔らかいし、ここで飲むお酒が美味しく感じる」
「前に使っていたベッドよりも柔らかいもんね。あのベッドで寝るよりこっちの方で寝た方がぐっすり眠れそう」
「だなー。ちょっとゆっくりしようぜ」
これ、2人共、もっと近う寄らんか。
わはは!
「ゆっくりするのはいいけど、電話は?」
俺が内心、お殿様ごっこをしていると、フィリアが水を差してくる。
「午後からにしようかと思ってるんだけど……」
もうちょっとゆっくりしたいし。
「お義父さまもお義母さまも外国でしょ? 時差があるんじゃかったっけ?」
あー……そういえば、そうだ
この前、朝に電話した時、向こうは夕方だった。
昼に電話したら夜になっちゃう。
下手すると、寝てるかもしれん。
「それもそうだなー。ちょっと電話するわ」
俺は電話をソファーの前のローテーブルに置き、通話ボタンを押した。
長い着信が続いていると、ようやく通話がつながる。
『はいはーい、リヒトちゃん、どうしたのー?』
母親の声だ。
そして、ものすごく上機嫌っぽい。
「機嫌が良さそうだけど、どうしたん?」
『リヒトちゃんにも見せてあげたいわー。この100ドル札の数を! あははー!』
カジノで儲けたのね…………
「良かったね。で? いつ帰るん?」
『もう帰るわよー。これ以上やると出禁か裏に連れていかれそうだしねー。この辺が引き際よ』
災害を読み、人々を救う能力である未来視をこんな風にしか使えない巫女様が僕の自慢のお母さんです。
「早く帰ってきてよー」
『あらあら。子供はいくつになってもお母さんが恋しいのねー』
何を狂ったことを言ってんだ?
「もうそれでいいからはよ帰れや。紹介するって言ってんじゃん。あと色々と聞きたいことがあるの!」
『もう帰るから…………えーっと、そっちの時間では3日後くらいかな? ちなみに、聞きたい事って? パパがシャワーを浴びてて、ちょっと時間があるから聞くわよー』
パパはシャワーだってさ。
プールでも行ってたのかな?
「じゃあ、ちょっと聞くけどさ。あんたはなんで日本語をしゃべれるの? フィリアもヘイゼルも日本語が通じないんだけど……」
『そりゃ頑張ったもん。パパに教わりながらねー。リヒトちゃんがママのお腹にいた時は必死だったわよー。子供が言葉を覚えるのにママは変な言葉でパパは日本語でしょー。リヒトちゃんが困るわよ』
なるほど。
確かにそうかも。
「母さん、日本語、上手いな。普通の日本人と変わらん」
『文法は一緒だし、実はそんなに難しくはないわよ。ママは英語もしゃべれるけど、そっちの方が苦労したわ』
英語もしゃべれるんだ。
バカみたいな雰囲気なのに優秀なんだなー。
「私らも勉強した方がいいかな?」
これまでまったく勉強をしてこなかったヘイゼルがフィリアに聞く。
「そりゃねー……やろうよ」
『教材がないからホント大変よー? 私が作ったノートがあるからあげるよ』
そんなんあるんか。
「ありがとうございます!」
「助かります!」
ヘイゼルとフィリアがお礼を言う。
『いいのよー。もう使わないしねー』
「そのノートはどこにあるん?」
『ママの部屋だけど、鍵をかけて封印もしてあるわー』
「あの謎の部屋?」
封印って……
そこまでするか?
『そうそう。あの部屋にはロストの王家のちょっとマズいやつとか、巫女時代のちょっとやばいやつとか色々とあるのよー。リヒトちゃんが入ってイタズラされると困るから人払いの結界をかけて封印してるの』
それ、ホントにちょっとか?
「家を譲ってくれるのはありがたいんだけど、その辺も片付けろよ。怖いわ」
『あー、今度帰った時に引き払うわ』
「いや、早くね? どこに住むん? マンションとか言ってたけど」
『マンションはもう持ってるわ。隠し…………倉庫代わりにしてるの』
隠し?
うん、聞かなかったことにしよう。
「まだいい?」
『いや、今度にしましょう。そろそろパパもシャワーを終えるし、ベガス最後のディナーを楽しんでくるわ』
ホント、人生を満喫してるなー。
「じゃあ、3日後ね。えーっと、24時間の充電があるから……」
明日の昼に戻って、向こうでも仕事をせずにダラダラと過ごすか。
「俺らは3日後の朝には戻ってくるから。準備あるし、昼ぐらいに帰ってきてよ」
『まあ、そんなもんかしらねー。日本に戻ったら連絡をするわ』
「はーい」
『じゃあねー、2人も会えるのを楽しみにしてるわー』
母親はフィリアとヘイゼルにも別れの挨拶をする。
「はい。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
フィリアとヘイゼルはロボットみたいに同時に頭を下げた。
『はーい』
母親の声と共に電話が切れた。
「お前ら、大丈夫? 3日後だけど…………」
「大丈夫、だと思う」
「ちょっと服を見てくるわ」
「あ、私も!」
フィリアとヘイゼルはリビングを出て、親に会うための服の確認に行ってしまった。
「ああ、お殿様ごっこがー」
寂しいね…………
◆◇◆
フィリアとヘイゼルは服を着替え、リビングに戻ってくると、俺にこれでいいかと確認してきた。
正直、何でもいいと思う。
あまりにも派手な格好はマズいと思うけど、そもそも、あっちの世界の住人であるフィリアとヘイゼルはそういった派手な服を好まない。
基本、長そで、ロングスカートだし、色だって、目立った色を買わない。
どれを着ても失礼にはならないし、そんなに気にすることではない。
とはいえ、そんなことを言ったら不評を買うのはわかっている。
これだから男は……って言われることが目に見えている。
だから、俺は『良いと思う』って言うだけだ。
あと、『似合ってる』と『かわいい』ね。
これでいける……はずだ。
「やっぱり白かなー?」
「私、黒いのばっかだからなー」
「ヘイゼルさんも白いのを買いなよ。似合うと思うよ」
「うーん、この際だから買いにいこうかな。いくら魔法使いとはいえ、黒はこういうケースではちょっと控えた方がいいかも」
あんまり俺の中身のない意見は参考にならなかったらしいね。
「買い物に行く?」
俺は後からあの時に協力してくれなかったとかいう謎の責めを防ぐために買い物を提案した。
これは偉大なる先達であるガラ悪マッチョのアドバイスである。
そういう時になると、嫁2人は結託して責めてくるからマジできついらしい。
怖いね。
「そうしようかなー」
「私もいっそ新しいのを買おうかな……」
うんうん。
「ウチの両親はそういうのを気にするタイプの性格じゃないけど、きれいにしていこうよ。俺も自慢したいし」
「自慢ねー……」
フィリアは呆れた感じで言っているが、嬉しそうだ。
素直でかわいいね。
「ま、まあ、ソフィア様に失礼があったらマズいしね!」
ヘイゼルはツンデレを発動させている。
属性の多いヤツだ。
俺はフィリアとヘイゼルを連れて服を買いに行った。
出かけた時刻は9時過ぎだったと思う。
そして、買い物を終え、家に帰ったのは夕方の7時だ。
今回は服を買いにいっただけなのにね…………
でも、偉大なる先達は嫌な顔をしてはいけないのはもちろん、積極性も見せないといけないとおっしゃっていた。
だから実際、服屋ではそのようにした。
悩んでいるようだったら別の店も見にいこうって言ったり、試着を促したり、かわいいを連呼したり…………
結果、フィリアとヘイゼルは服を買い、ご機嫌で帰宅した。
正直、めっちゃ疲れたが、嬉しそうな2人を見ると、良かったと思える。
その後、フィリアが作ってくれた晩御飯を食べ、お酒を飲みながら3人でまったりと過ごした。
いつも通り、ソファーに3人で並んで座っていたが、両隣の2人はたまにしなだれかかってきたり、ちょっかいをかけてきたりとかなり上機嫌なことがうかがえた。
男とは単純なもので、それだけで1日の疲れが取れるものだ。
夜も遅くなると、フィリアがお風呂を入れてくれ、先に入るように言ってきた。
俺は冗談で一緒に入るかー?と聞いた。
………………結果、一緒に入った。
しかも、3人で入った。
すごかったね。
感動だったね。
広めの風呂を作った両親に感謝だね。
今度からガラ悪マッチョのことをルーク様と呼ぼうと思う。
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