第068話 やる気はあるヘイゼルちゃん


 神父様に色々と頼んだ俺とヘイゼルは教会を後にし、家に戻った。


 時刻はまだ昼の1時であり、俺達はパスタをゆで、パスタソースを混ぜただけの昼食を作った。


「ご飯をいつもフィリアが作ってるけど、私も作った方がいいのかしら?」


 ヘイゼルがパスタを食べながら聞いてくる。


「なんで? そもそもお前、料理できるん?」


 できねーだろ。

 俺を置いていくんじゃないよ。


「いやさ、料理もだし、掃除もだし、洗濯もなんだけど、全部、フィリアがやってるじゃん。私、何もしてなくない? じゃあ、稼いでくるのかって言うと、フィリアが物を売った方が儲かるし…………」


 ヘイゼルが触れてはいけないことに気付いた。


「…………それを言うなよ。俺だって気にしてんだから」


 最近、俺の優位性が下がっている。

 俺の優位性はあっちの世界に詳しいこと。

 でも、最近、こいつらの方が詳しい気がしてきた。


「あんたはまだ転移があるじゃん、占いというか、未来視もあるし。私は? 魔法?」

「魔法。俺もフィリアも弱いんだからお前の高火力な魔法頼り」

「うーん……でも、ほら、嫁としての立場がね? 私にあのオムライスが作れるんだろうか?」

「今度帰ったら作ってみるか? 俺も作ったことないし」


 卵焼きすらねーわ。


「そうしようかしら? 試すことが重要だし、一歩を踏み出すことが重要!」


 ヘイゼルが何か良いことを言っている。


「ちなみに、今日の晩御飯は何かねー?」

「カレー! 私が頼んだ!」


 それを自分で作ればいいのでは?


「お前、カレーは食べれるん?」

「カレーパンは美味しかったから大丈夫だと思う。フィリアが辛いのがダメだから甘口らしいけど」


 そういえば、こいつ、よくカレーパンを食べてるな…………


「ふーん……フィリアはまだ冒険だよな?」


 家事全般をやっているフィリアは今、仕事中。

 一方で我らは何もしてない。


「早めに帰ってきて、アンナとミケの3人で飲むんだってさー。夕方になったら迎えに行こうよ」


 フィリアも大概だったわ。


「そうするか……夕方まで何をしようか? 出かけるか?」

「さっき、危ないみたいなことを言ってたじゃない」

「昼間の町中はないだろ」


 というか、今日の俺の運勢はとても良いと出ている。

 襲われることはないだろう。


「うーん、出かける気分じゃないなー。そうね…………トランプをしましょう!」


 ホント、好きだね…………


「まあいっかー。じゃあ、お前の部屋でやろう」

「私の? いいけど…………」

「罰ゲームありな」

「…………! かかってこい! 私は必勝法を見つけたのよ!」


 トランプに必勝法ってあるか?

 イカサマでもする気かな?


 俺とヘイゼルはパスタを食べた後、ヘイゼルの部屋でトランプなどをして遊んだ。


 夕方になると、俺とヘイゼルは冒険者ギルドに向かう。


「結局、必勝法って何だったんだ?」

「うるさいわねー。あんた、少しは手加減をしなさいよ」

「ヘイゼルちゃんのサービスが素晴らしいから本気になっちゃった」

「あんたが私のことをちゃん付けで呼ぶ時ってバカにしてる時よね?」


 ………………気のせいだよ。


「フィリアちゃんはいっぱい飲んでるかなー?」

「誤魔化すの下手か! というか、フィリアちゃんって初めて聞いたわ。あの子はそら飲んでるでしょ」


 俺も初めて言った。


「うわばみ姫が何杯飲んでるか賭けようぜ。俺は10!」

「8!」


 俺とヘイゼルは賭けをしながら歩いていくと、ギルドに到着した。

 ギルドに着くと、結構な冒険者が騒いでおり、繁盛しているようだった。

 俺とヘイゼルはその中から女3人で飲んでいるテーブルに向かう。


「おつかれー」


 俺はテーブルに身を乗り出してアンナに絡んでいるフィリアに声をかけた。


「あ、リヒトさん! ちょっと待ってね! もうすぐでアンナが吐くから!」

「そうです! さあ、アンナ、そろそろ言っちゃいなさい!」


 フィリアとミケは結構、出来上がっているようだ。

 いや、いつも通りか…………


「お前ら、アンナが困ってるだろー。ミケ、俺の素晴らしい恋愛話を聞かせてやろうか? きっと惚れるぞ」

「それはフィリアから何度も聞いた。惚気はもういいし、すでに決まった恋愛話に興味はない。それよか、これからのアンナだよ」


 そんなことより、自分の…………いや、やめておくか……


「アンナはそのうち進展があるだろうし、その時になったら聞けよー」

「ってか、カレー……」


 ヘイゼルがボソッとつぶやいた。


「あ、そうだった。ごめんけど、帰るねー」


 ヘイゼルの悲しそうなつぶやきを聞いたフィリアはアンナへのウザがらみを止め、立ち上がる。


「こうやって友情は消えていくのです。女は結婚すると、こうなる…………」


 ミケさんや、切ないことを言うなや。

 あと、男もあんま変わらんと思う。


「ごめんねー。アンナへの追及は今度にしよう」

「そうします」


 いや、お前らの友情ってそんなんなんか?

 アンナを酒の肴にして盛り上げるのが友情か?

 ひでーヤツらだわ。


「大丈夫。あと、1週間ってところだから」


 多分、そのくらいの時期にこの町にやってくると見た。


「良いことを聞いたぞ!」

「よーし、その辺りで張ろう」

「…………お前ら、マジでひどいな……」


 アンナの呆れ切ったつぶやきで3人の飲み会はお開きとなった。


 俺とヘイゼルはフィリアを連れて家に帰ることにした。

 なお、フィリアはギルドで俺達の予想を超える12杯も飲んでいたらしく、さすがと思った。

 だが、それでも普通に歩いているし、家に帰っても普通にカレーを作っていた。

 マジで酒に強い子だわ。


 フィリアのカレーが完成し、3人でテーブルに座り、食べだすと、俺はカレーを食べながら今日あったことをフィリアに説明した。


「じゃあ、騎士団の人が護衛してくれてるのかな?」


 説明を聞いたフィリアが聞いてくる。


「多分、そうじゃないかなーっと…………もうしてるのかな? 見てないけど」

「してると思うよ。騎士団って言うけど、皆が皆、鎧を着てる騎士じゃないからね。隠密的な事が得意な護衛役もいる」


 隠密的って言うと、護衛役ではなく、暗殺系が思い浮かぶんですけど…………


「うーん、教会を敵に回すと、速攻で殺されそうだなー」

「敵に回んないでしょ。あったとしても、幽閉かな」


 どっちみち、嫌だわ。


「ちょっと町の外に出る依頼は避けた方がいいかもね」


 ヘイゼルがカレーを食べながら提案してくる。


「いくら護衛がいたとしても森の中は危険が多いかー」

「というより、その護衛とやらに見られたくない。私の収納魔法もだけど、あんたの謎の不思議パワーとやらもね」


 あー、そうかもー。

 ということは収納魔法を使う氷も売れんな。


「当面は大人しく過ごすか」

「だねー。色々と準備を進めようよ」


 確かにいい機会かもしれんな。


「今日はこっちで休んで、明日の昼に帰るかー。ちょっと親に電話して、いつ帰ってくるか確認したいし。あと、今度こそソファーを持ってきたい」

「いいと思う」

「そうだね。じゃあ、そうしよっか」


 俺達はこの日の夜、ご飯を食べた後に軽く飲み、就寝した。

 そして、翌日、昼前になると、スマホのアプリを使って帰還した。


 帰還すると、俺の左隣にいるヘイゼルの横には買ったばかりのソファーが置いてあるのが見える。


「触ってるだけじゃ無理だったのよねー」


 ヘイゼルがそう言いながら俺から離れ、ソファーに座る。


「やはり持つということが重要なのかもしれん」

「よーし! 帰りは私のパワーを見せてあげましょう!」


 ヘイゼルが細い腕で力こぶを作って見せる。


 言うて、フィリアとどっこいどっこいだからなー。


「今は朝の6時前かー……向こうは昼だったし、お風呂に入ったら何かを作るよー」


 フィリアが朝ご飯(昼ご飯)を作ってくれるらしい。


「まーちなさい! フィリア、ご飯は私とリヒトが作るわ」


 ヘイゼルが右手を突きだし、フィリアを止める。


 あー、マジで作るんだ……


「え? パスタ?」

「オムライス!」

「…………大丈夫?」


 自信満々のヘイゼルを見たフィリアが不安そうに俺を見てきた。


「何事も経験らしい。やってみることが重要だってさ」

「じゃ、じゃあ、お願いしようかなー」


 俺達はフィリア、ヘイゼル、俺の順番で風呂に入ると、料理を開始した、


 ヘイゼルの手つきはどう見ても理科の実験だったが、そこまで多くの失敗はしなかった。

 多少、卵が焦げたり、ケチャップライスがコンロ周りに散らばったりはしたものの、味は普通においしく、悪くはなかったと思う。


 だが、料理の過程をハラハラと心配そうに見ていたフィリアの様子を見る限り、今後はあんまり料理はさせてもらえそうにないなーと思った。


 だって、ヘイゼルの包丁の持ち方が怖いんだもん。

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