第063話 上手くいきそうで良かったね
俺達が3人で飲みながら話をしていると、アンナがギルドに入ってきたのが見えた。
「おー! アンナだ!」
「あ、ホントだ! アンナー!」
フィリアが声をかけると、アンナが俺達のもとにやってくる。
「久しぶり、フィリア」
俺は?
「久しぶりー。元気だった?」
「まあね…………あんたも久しぶりだね」
あ、ちゃんと俺も見えてたようだ。
「久しぶり。上手くいったかー?」
「それについては後で話がある」
マジかー……
なんか悩みがありそうだな。
「ガラ悪ー! アンナのお酒ー!」
ミケがアンナの酒を注文する。
「お前までガラ悪呼ばわりすんなー。というか、お前らに言われたくない」
いや、受付に足を乗せてるマッチョはどう見てもガラが悪いだろ。
ガラ悪マッチョはすぐに酒を用意し、持ってきた。
俺達はアンナが酒を持つと、乾杯をする。
「フィリア、結婚、おめでとう」
アンナがフィリアに微笑みながら祝いの言葉を言う。
「ありがとー」
「俺には?」
ギブミー、祝福。
「お前、フィリアから金貨100枚を取るんじゃなかったのか?」
蛇の除霊料金のことだ。
よー、覚えてんな。
「無理そうだから本人をもらったわ」
「それを祝えと?」
「当人が幸せなら別にいいだろ」
俺も幸せ。
フィリアも幸せ。
「おめでとう」
「ありがとう」
アンナが真面目に祝ってくれるので俺も真面目に感謝した。
その後、アンナ、フィリア、ミケは3人でよく話していた。
よく組んでいたというし、仲の良い3人は結婚のことや冒険のことで盛り上がっている。
俺は空気を読んで、話を聞きながら酒を飲んでいた。
「フィリア、悪いけど、旦那を借りていいか?」
話がひと段落したところでアンナがフィリアに聞く。
「あー、話があるって言ってたもんねー。いいよー」
「アンナ、俺には愛する妻(複数予定)がいるので浮気はできんぞ?」
「人生を何回やり直してもあんただけはない」
ミケもお前もその言い方はどうなん?
俺も傷つくし、そんなヤツと結婚するフィリアが良い思いをしない…………って、めっちゃ頷いてるし…………
「まあいいや。フィリア、今日はヘイゼルの家に泊まらずに家に帰ると良いことがあると出た」
「その言い回し、ヘイゼルさんに聞いた。良いことがあるのはリヒトさんでしょ」
あいつ、しゃべりやがった!
「俺の占いを信じなさい」
「はいはい。待ってる待ってる」
フィリアが手をひらひらさせる。
「うわー……こいつら、殴りてーです」
猫ちゃん、殴っちゃダメ!
「じゃあ、ちょっと借りるわ。リヒト、付き合え」
「はーい」
俺はアンナに連れられて、ギルドを出た。
そして、そのまま歩いていくと、酒場に入る。
店内は薄暗く、落ち着いたお店っぽい。
俺達は店内のテーブルにつくと、お酒を頼み、飲みだす。
「俺、宿屋とギルド以外の店に初めて来たわ」
「お前は異世界人だし、あんま行かない方がいいぞ。ここは大丈夫だが、法外な金を取るところもある」
ぼったくりかな?
怖いねー。
そんなことをされたら呪ってやる。
「で? 話ってなんだ?」
大体の想像はついているけど、一応、聞いてみる。
「お前の占いな? まあ、当たったわ」
でしょうね。
「一応、謝っておく。足のことはすまん」
「やはり、そのあたりが見えていたのか…………いや、たいした怪我じゃないし、問題はない」
俺の占いではアンナが怪我をして、意中の相手と上手くいくと出たのだ。
「俺はお前が足を怪我するのは知っていた。そのことで上手くいくのがわかっていた。だが、それをお前に告げると、お前は怪我をしない。そうなれば、上手くもいかないんだ」
「わかるよ。お前がこれ以上言えないって言った意味がその時になってわかった」
「上手くいったんだろ?」
「ああ、いった」
こら、相当、上手くいったな。
「まあ、下世話だし、聞かんわ」
「いや、聞いてくれ。相談にも繋がることだ」
相談ね。
「聞きましょう。良い答えが出るとは限らないけどな」
「ああ。お前に言われた通り、2人で臨時の仕事をした。そんでもって、私のミスで怪我した」
「うんうん」
「それをヤツは自分のせいだと責めた。別にそんなことはないんだが、まあ、よくお見舞いに来てくれたな。まあ、そんなことが続いていたんだが、えーっと、そのー…………」
アンナが言いよどむ。
「はいはい。言わなくてもいいよ。わかるわかる」
いい感じになったんだね。
男がオオカミになっちゃったんだね。
わかるわー。
俺もこれからフィリアの所に行って、そうなるもん。
「別に嫌じゃなかったんだろ?」
そのために占いとアドバイスをくれてやったんだから。
「まあな…………」
「じゃあ、いいじゃん」
「いやなー、私はそうなんだが、向こうがそう思わないんだわ。あいつからしたら自分のミスで怪我した女を…………まあ、そういうね?」
「なるほど、わかった。奥手で真面目な男っぽいし、自己嫌悪にもなるわ」
最低。
別にそうでもないけど、本人はそう思っているんだろう。
「そうなんだよ…………これからどうすればいい?」
アンナはそう言って、金貨10枚を取り出した。
「それはいいわ。占うまでもない。本当は相談料を別途、取るんだけど、取らない方がいいと出てる」
フィリアがね?
ほら、あるでしょ?
そういうの。
「頼むわ」
「そいつに嫌じゃなかったって言いな」
「それは言った」
あ、もう言ったのね……
「んー? 真面目な男だし、そう言えば、責任を取りそうなもんだけどなー」
「責任か…………」
「お前、結婚する気ある? ミケは弟に触発されて、したがってたけどさ」
さっきまでミケはうるさかった。
俺がもらってやるって言ってんのに、頑なに拒否してたけど。
「ミケはそればっかだったな。まあ、弟のこともあるんだろうけど、お前やフィリアにもだろ…………私だって、あるにある。もう19歳だし、もう少しで20歳になるしな」
前にフィリアが20歳まで待たせたら刺すって言ってたし、適齢期を超えるのかね?
ホント、早いわ。
「お前、このアルトにいるけど、その男はどうしたんだ?」
「キルケにいる。私もそいつもキルケの出身なんだ」
キルケ……
クレモンがいるエスタと隣国の国だな。
鉱物の採掘権で争いになりそうな国だ。
「お前、エーデルに来ていいん? 男の傍にいろよ」
何にしても、近くにいないと進展はしないぞ。
「最近、キルケが物騒でな。戦争になんか参加したくないし、本格的にエーデルに拠点を移したんだ。クリス…………私のアレな。そいつらのパーティーもエーデルに来るんだよ。あいつらはパーティーだから動きが遅いだけ。もうちょっとしたら来るよ」
戦争かー……
クレモン、大丈夫かね?
「戦争は参加せんのん?」
「嫌に決まってるだろ。私らはモンスターを倒す専門職だぞ。盗賊や兵士崩れの野盗を殺すことはあっても人間同士の争いなんてごめんだ。そういうのは傭兵の仕事」
それもそうか……
俺だって、嫌だ。
「なるほどねー…………」
…………どうしよう?
その男、アルトに着いたらアンナにプロポーズするのが見えた。
サプライズ的には言わない方がいいかもしれん。
ただ、アンナはめっちゃ不安そうだしなー。
「私はどうすべきだ?」
待ってりゃいいよ。
「俺の占いで上手くいくって言っただろ。これで進展せんかったら、上手くいってね―じゃん」
ヤリ捨てやんけ!
「それもそうだな…………お前の占いが外れなければだが」
まあ、そういう見方もある。
「お前はもっと先のことを考えとけ」
「先?」
「結婚したら仕事はどうすんだ?」
「いや、普通に続けるよ。フィリアもそうだろ」
この世界って、嫁は家に入らないのかね?
「なあなあ、結婚しても仕事を続けるもんなん? 専業主婦的な考えはないん?」
「ああ、そういうことか。普通の仕事をしている人はそうするが、私らは冒険者だからな。動けるうちは稼ぐんだ。さすがに男女問わず、30歳を超えだすと、身体にガタが来る。35歳を超えて冒険者をしてるヤツはほとんどいないんだよ」
引退が早いのか……
だからそれまでに夫婦で稼いでおくのか。
「なるほど」
「まあ、これはお前のところみたいな冒険者同士の場合だな。そうじゃない場合はまた違う」
「引退後は?」
「それこそ色々だ。冒険者時代の伝手を頼ったり、兵士になったり、指導役になったりとかかな。まあ、女の場合はクランが斡旋してくれるから楽」
お前らのクランって、マジでホワイトじゃん。
「ふーん」
「まあ、お前らは考えんでもいいだろ。お前らは冒険者をしなくても稼げそうだ」
俺は占い、ヘイゼルは魔法、フィリアは…………あいつは修道女でいいのか?
「わかった…………これ以上、占いは必要ないし、1つアドバイスをやろう」
「なんだ?」
「結婚熱が高まっているミケへのフォローを考えとけ」
弟から始まり、友人2人が立て続けに結婚する。
荒れはしないだろうが、焦りだす猫ちゃんが占わなくても見える。
「…………ああ、そうする」
「友情は大切にした方がいいぞ?」
「知ってる。リヒト、ありがとう。そして、改めて、おめでとう。フィリアと…………あと、ヘイゼルとお幸せに」
アンナが改めて、祝福してくれた。
「ありがとう。金貨100枚ははした金だったわ」
「おかげさまで、その惚気を聞いても穏やかな気持ちで良かったなって思えるよ」
「ミケを大切に」
「…………そうだな。相談に乗ってくれて感謝する。もう行っていいぞ」
アンナがしっしっと追い払いように手を振る。
「俺は虫か」
「フィリアが待ってんだろ?」
「じゃあな」
「早く行け」
俺はアンナと別れ、教会に向かう。
時刻は夜の9時を回っており、酒場や宿屋の多い西区ではまだ騒がしい。
俺はそんな喧騒を抜け、教会にやってきた。
教会はすでに明かりもついておらず、暗い。
俺は宿舎の方に回り、扉を開けた。
鍵がかかっていなかったが、多分、フィリアだろう。
俺は中に入り、鍵を閉めると、すぐ近くの扉をノックする。
「どうぞー」
フィリアの許可が出たので中に入る。
「お邪魔しまーす」
俺は部屋に入り、ベッドに腰かけているフィリアの隣に座った。
「アンナは何て?」
興味津々なフィリアが早速、聞いてくる。
「まあ、想像はついてると思うが、俺が占ってやった後の続き。まあ、上手くいきそうだわ」
「ホント!? よーし! 問い詰めよう!」
この町の人間はホントに……
「お前って将来はどう考えてるの?」
「将来? え? お金儲けだけど、どうしたの?」
「ちょっとアンナに聞いたんだけど、お前らって、引退後もクランが職を斡旋してくれるんだろ? どう思ってんのかなって」
ヘイゼルは聞かなくてもわかる。
あいつは魔法使いだから研究と魔法士ギルドの仕事だろう。
「私はやっぱりお金儲けというか、商売だね」
「修道女は?」
「いや、修道女ってお金になんないし。前にも言ったけど、私は家が教会だったから手伝い感覚でやってるだけで、敬虔な信者じゃないよ。まあ、実家だし、これからも手伝いはするけど、お金は取らない」
だから商売かー。
「引退って30歳を超えたら?」
「うーん、場合による。子供のこととかあるし、女性冒険者は体力だけじゃなくて、そっち方面もあるんだよ」
あー、それもそうだわ。
結婚すれば、子供だ。
子供……どうしようかねー?
「なるほどね」
「まあ、子供はいずれかな? いつかは欲しいけど、私らは跡取りが必要なわけじゃないから焦んなくてもいいし」
「やっぱ商家や貴族は跡取りがあるから焦るんかね?」
なんか嫌な空気と言うか、義務感があって嫌だな……
「そうだよ。というか、親や周りが急かしてくるんだと思う。そういうのはゲルドさんとかが詳しいかな?」
「いや、ドロドロしてそうで聞きたくないわ」
絶対に嫌!
庶民で良かった!
「だよねー。絶対に嫌だよ。だから正妻はヘイゼルさん」
「お前らさ、その争いを俺の前ですんな。すげー、へこんでくるから」
正妻の地位の奪い合いでも嫌なのに譲り合いって……
「ごめん、ごめん。私ら庶民に正妻とかないし、半分は冗談だから」
半分は本気らしい。
「お前、たまにひどいよな」
「ごめんってー」
フィリアはそう言って俺の首に両腕を回してくる。
フィリアの顔が近い。
「罰として、泊まっていくわー」
「罰になんないね。というか、最初からそのつもりでしょ」
そらね。
当たり前じゃん。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます