第062話 猫ちゃんはお魚が好き?


 ヘイゼルが領主様の屋敷に向かった後、俺とフィリアはギルドで乾杯をしていた。


「儲かったねー」


 フィリアは嬉しそうだ。


「だなー。こんな感じで仕事をしつつ、氷を売っていけばそれだけで生きていくには十分すぎるな。あとはどれだけ儲けるか…………」

「何を売るかだよねー。いっそ領主様にたっかいのを売りこんじゃう?」


 フィリアは楽しそうにキャッキャと笑う。


「鏡とかガラスか?」

「そういうの、そういうの」

「まあ、お前が前に言ってたように1個だったらいいかもなー。ダンジョンから発掘したとは言わなくても普通に持ってたやつって言えばいいし」


 コップや鏡を持っていてもそこまで変じゃない。

 これが10個や100個もあれば不自然すぎるけど。


「そうそう。ヘイゼルさんに話を通してもらえばいいし、アリだと思う」

「そうだなー。今度帰ったら買いに行くか。ヘイゼルの親の所にも贈るつもりだし」

「そうなの?」

「お前のじいちゃんが挨拶は行かなくてもいいけど、そういうのを贈っておくと、向こうの親御さんも安心するから贈った方がいいって言ってたんだよ。贈る余裕があるってことは財力があるから娘が苦労することもないだろうってことらしい」


 俺は貴族じゃないから見栄もないし、単純に余裕と礼儀と受け取ってくれるだろう。

 会うことはないかもだけど、嫁の親に悪い印象を与えるよりは良い印象の方がいい。


「なるほど。まあ、財力って言っても100円で買えるんだっけ?」

「そう思ってたんだけど、さすがに俺の気持ち的にはもうちょっと良いのを贈るよ」


 100均はさすがに味気ない気がする。


「まあ、良いと思うよ。私も行こうかな? 昨日、ヘイゼルさんと部屋をどうしようか考えてたし」

「部屋?」

「昨日、リヒトさんがソファーを持ち込むって言ってたみたいだけど、他に向こうの世界で使えそうなものを持ち込むの。あの家にキッチンはないけど、ガスコンロがあれば料理は出来るし、キャンプ用品とかで色々出来そうじゃん」


 なるほど。

 ホント、君ら、俺よりも詳しいというか、異世界を満喫してるね。

 俺、マヨネーズやポン酢で肉の味変ぐらいしか思いついてなかったよ…………


「いい考えだと思うわ」

「でしょー? 今度帰ったらその辺を買って持ち込む予定。ヘイゼルさんは計量カップや重さを測るものを買うってさ、錬金術で使うらしい」


 そういうのもあっちの世界が進んでいるのか…………

 でも、体重計は買わないでね。

 君らは痩せない方がいいから。

 ダイエットして痩せるのは痩せたらダメなところだからね。


 俺とフィリアが飲みながら話していると、次第に冒険者達が仕事を終えて、ギルドに戻り始めている。

 ギルドがそこそこ込みだすと、知り合いがギルドに入ってきた。


「あ、猫ちゃんだ」

「え? ミケ?」


 俺はギルドに入ってきた猫ちゃんを指差すと、フィリアが振り向く。

 それと同時に猫ちゃんも俺とフィリアに気付き、こちらにやってきた。


「久しぶりです、フィリア。あと、貧弱詐欺師」


 ミケはちょっとひどい事を言いながら俺達のテーブルに着く。


「ガラ悪ー! こっちの海に落ちて溺れかけた憐れな猫ちゃんにお酒ー!」


 俺が大きな声で注文をすると、周りの冒険者達が笑いだした。


「だっせー!」

「おい、ミケ、相変わらず、泳げねーのか?」


 冒険者達がミケを煽る。


「クソ詐欺師! なんで知ってんだよ!!」


 ミケが髪の毛を逆立てて怒った。


「弟が釣った魚を取ろうとして落ちたんだっけ?」


 魚に目がくらんで足元を見てなかったのかな?


「バカだー! アハハ!」

「がはは! やめろ、詐欺師! 笑わせんな!」

「ひー! ウケる! 今日一で笑った!」

「お前ら、殺すぞ!!」


 ミケが笑っている冒険者どもを睨む。


「落ち着け、ミケー。ほら、酒だー」


 ギルマスが酒を持ってくると、ミケはイッキをする。


「良い飲みっぷりだねー。ガラ悪、おかわりをあげて」

「あいよー」


 ガラ悪に頼むと、すぐに持ってきてくれた。


「ミケ、弟には会えたみたいだな」


 俺は2杯目の酒をごくごくと飲んでいるミケに言う。


「うん。会えた。占ってくれてありがとう。ちゃんと会えたよ」


 ミケは素直に感謝する。


「ちゃーんと、酒場にも行ったか?」

「行った。奥さんと子供までいた。私、おばさんって呼ばれた」

「良かったな」

「笑うな! クソ詐欺師!」


 ミケがまた怒った。


「悪い、悪い」

「まあ、でも、幸せそうでよかった。行方知れずだったけど、会えて本当によかったよ」


 よかったねー。


「それで帰ってきたの? もういいの?」


 フィリアがミケに聞く。


「弟達は問題なくやってたし、いっぱい話せたよ。甥っ子もかわいかったし、奥さんもいい人だった。弟もいつの間にか大人になったんだなーって思ったし、あとはあっちの家族のことだからもう大丈夫」


 ミケはしんみりと酒を飲んだ。


「なあなあ、お前、何歳? というか、弟君、何歳だよ?」


 ミケは猫耳が生えてるけど、中学生にしか見えんぞ。

 その弟が子供持ちって…………


「私は16だよ。弟は13」


 13歳……!?

 中学生の癖にガキをこしらえやがった!


「マジ!? その年で結婚して子供を作るって、俺の国ではめっちゃ早いわ」

「いや、さすがに13歳はこっちでも早い。でも、デキちゃったらしい」


 乱れてますわー。

 性の乱れですわー。


「奥さんは?」

「14歳」


 子供がいくつか知らんが、すげーな……


「すげーなー」

「私もそれは思う。だからこの歳でおばさん。ショック」


 しかも、兄じゃなくて、弟だもんなー。

 もっと言えば、3人いる弟の一番下の弟だ。


「ご愁傷様」

「結婚で思い出したけど、噂は本当なんだねー……」


 ミケがフィリアの胸を見る。

 いや、見てるのは首からかけられたネックレスだ。


「お前の友人は詐欺師に騙されたんだ」


 かわいそうに。

 一生逃がさないからなー。


「何よ、それ?」


 フィリアが半笑いで俺を見る。


「いや、どっちかというと、守銭奴が金の匂いがする詐欺師を捕まえたって噂を聞いた」

「何それぇ!?」


 ひっでー……


「フィリアって、町の人からそういう認識なんだな……」

「あー、言ってたのは商人連中だね。砂糖を高値で売ったんだって?」

「そっちか…………」

「覚えてろ……! 砂糖はまだ始まりだからな!」


 おーい、神に仕える修道女さーん?

 帰っておいでー。


「ちなみに、ヘイゼルのことは何て?」

「あ、そっちが詐欺師に騙された方。世間知らずがちょっとした刺激と話術で騙されたって」


 俺はホストか!


「ミケもウチにくるか? 今なら魚をつけるぞ?」

「お断りだ、詐欺師! ってか、魚に触れるな!」


 断られちゃった……


「ミケはこれからどうするの?」


 フィリアがミケの今後を聞く。


「当分はこの町にいるよ。一応、リードからも近いし」


 猫ちゃんはこの町に滞在するらしい。


「そういえば、お前って、どこ出身なん? ここ?」

「いや、私は南のシエーナって小さい国」


 知らね。

 当たり前だけど。


「シエーナは獣人が多く暮らす国だよ。土の巫女様がおられるサウスの隣国」


 よし!

 獣人に興味があったけど、行かない!


「遠そうだし、いいや。ミケはソロか?」


 危ないよ?

 悪いおじさんに連れていかれるよ?


「いや、アンナと組むよ」

「あいつ、何してんの?」

「今日、帰ってきた。ここで待ち合わせてる」


 いや、来るのかーい!

 はえーよ!


 さて、どうなったか…………


「アンナも帰ってきてるんだ?」

「そうそう。アンナと適当にやるつもり」

「俺、外そうか? 仲良し3人で飲めよ」


 俺はヘイゼルの所に行くから。

 本当はフィリアの宿舎に泊まる予定だったけど……


 なお、フィリアの許可は得てない。

 酔った勢いで家まで送っていき、そのまま泊まる計画である。


「いや、アンナがリヒトに話があるんだってさ」

「まさか、あいつ、失敗したか?」


 人がせっかく占ってやったのに…………


「その辺はわかんないけど、とりあえず、いてよ。あとちょっとで来ると思うし」

「うーん、じゃあ、待ってるか……」


 一応、気になるし。


「そうして。でも、フィリアはよくこんな胡散臭いのと結婚する気になったね」

「おい、猫! 結婚できなくなる呪いをかけてやろうか!?」

「ごめん! お願いだからやめて! 私、弟夫婦を見て、結婚熱が高まってるところだから!」


 だったら口を慎みたまえ!


 まったく…………そんな怖いことを聞くんじゃないよ!

 俺だって、なんでって思ってるんだから……

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