第053話 依頼完了


 大変だった依頼を終え、夜にヘイゼルの家で飲んでいたのだが、フィリアは日をまたぐ前に寝てしまった。

 フィリアは元々、ヘイゼルの家に泊まる予定だったらしく、ヘイゼルのベッドですやすやと寝だした。


「お前はどこで寝るん?」


 俺はヘイゼルの寝室でフィリアの寝顔を見ながらヘイゼルに聞く。


「フィリアと同じベッド。狭いけど仕方がないわ。まあ、寝るかはわかんないけどね。全然、眠くないし」


 フィリアが寝ているベッドはシングルタイプだろう。

 いくら女2人とはいえ、狭い。


「ベッド、買えば?」

「検討中。持ち込むにしてもサイズがねー。マットレスだけ買おうかなって思ってる」


 それはいい考えだ。

 土台をこっちのベッドにし、マットレスを向こうの世界のものにすれば、もうほとんど向こうのベッドと変わらない。


「なるほどね。しかし、このベッドでは俺は寝れんな」

「あんたは帰りなさい。絶対に3人じゃ無理よ。両端の私とフィリアが落ちる」


 だよねー。


「まあ、どうせ寝れんし、朝まで飲むかな……」

「そうしましょう」


 俺とヘイゼルは寝室を出ると、リビングに戻り、再び、酒を飲み始めた。


「明日、帰る?」


 ヘイゼルが日本に帰るか聞いてくる。

 明日というか、4時間後には24時間の充電期間を終えるため、日本に戻ることができるのだ。


「やめといた方がいいな。少なくとも、ギルマスに今回の報告をしてからがいい。今、姿をくらますとマズいだろ」


 どっかの兵士を巻き込んだ事件があった次の日にそれを発見した冒険者がいなくなる。

 消されたと思われるのはまだいいが、最悪は関係者と思われることだ。


「それもそうねー。ギルマスは信じてくれるでしょうけど、不要な疑いは避けた方がいいわ」

「まあ、明日、説明に行けばいいだろ。それが終わって帰れそうなら帰ろう」

「そうしましょうか…………あんたは神父様に会わないといけないし」


 多分、祝福してくれるだろ。

 多分ね……


「ヘイゼル、こっちに来なさい」


 俺はさっきまでフィリアが座っていた隣の椅子を引き、対面に座っているヘイゼルに横に座るように言う。


「だめー。あんたの考えが透けて見えるわ」


 ダメらしい……

 まあ、隣でフィリアが寝てるしなー。


「隣に座ると良いことがあるって出たんだがなー」

「良いことが起きるのは私じゃなくて、あんたでしょ。主語を言わないあたりでわかるわ」


 そろそろ、俺の騙しの耐性がついてきてやがる……

 もう純粋だったヘイゼルちゃんはいなくなったのかなー?

 今後は手口を変える必要があるな。


「しかし、マジでやることねーな。ゲームでも持ってくりゃ良かったかね?」


 と言っても、こいつらは言葉がわからんからなー。


「あ、私、トランプを持ってる。買ったもん」


 こいつ、めっちゃ色んなもんを買ってるな……

 しかし、これはナイスだ。

 まーた、カモがネギと出汁と卵と白飯を持って、ノコノコやってきたぞ。


「しめしめ……じゃない、よしよし! じゃあ、それで遊ぼうか」

「占うの禁止ね。あと賭けもしない」


 ヘイゼルちゃんは特にツッコミもなく、真顔で箱からトランプを出す。


「占わないから賭けようよー。1時間でお前の全財産を巻き上げてやるからさー」

「絶対にしない。ってか、めっちゃ舐められてるし…………あんた、絶対に私をバカにしてるでしょ」


 バカとは思ってない。

 純粋とは思ってる。

 実際、頭は良い子だしね。


「詐欺らないからさー。イカサマもしないし、真面目にやるから」

「えっちなのが禁止ならいいわ」

「じゃあ、いいや」

「こいつは…………隣の部屋にフィリアがいるから行ってきなさい」


 先に神父様に話を通さないとマズいんだよ!


 その後、俺達は普通にトランプを楽しんだ。

 なお、ヘイゼルはやっぱり弱かった。

 顔に出すぎだね。




 ◆◇◆




 夜遅くになるまでトランプで遊んでいた俺とヘイゼルはさすがに4時くらいになると、寝ることにした。

 俺は寝る場所がないので、ヘイゼルの家に泊まるのはやめ、宿屋に帰る。


 宿屋に戻る途中でこの時間に開いてるのかなと不安になったが、宿屋はちゃんと開いており、受付にはリリーの旦那のマッチョが座っていた。

 俺はマッチョに挨拶をし、そのまま部屋で休んだ。


 翌朝、目が覚めると、朝食を食べる。

 そして、準備をし、1階の受付でリリーと世間話しながら時間を潰しているとヘイゼルがやってきた。

 今日、ガラ悪マッチョに事件の詳細を伝えるためにヘイゼルとここで待ち合わせをしていたのだ。


「よう、ヘイゼル」

「おはよー」


 俺とヘイゼルは笑顔で挨拶をしあう。

 なお、時刻は12時前だ。


「女と待ち合わせとか言ってたからフィリアちゃんかと思ってだけど、違う女だし」


 ヘイゼルを見たリリーが呆れたように俺を見た。


「3人なら幸せも3倍だよ」

「マジでなのか…………」


 こりゃ噂が流れてるな…………


「マジ、マジ。ホントはリリーももらおうかと思ってたけど、フィリアに2人まで言われちゃったわー。残念」

「金貨1万枚もらってもお断りだよ。私には旦那がいる」


 1億円でも無理らしい。


「ひゅー! リリー、かっこいい!」

「あと、あんたは好みじゃない」


 ひっで。


「どんなんがいいん?」

「旦那を見ればわかるだろ」


 マッチョか……


「この世界の男はマッチョばっかりだよ……」


 そら、俺が貧弱言われるわ……


「鍛えな」

 

 同じことを猫ちゃんにも言われたなー。


「鍛えようかな……」


 俺もマッチョを目指すべきかもしれん。


「やめなって。あんたが他の冒険者みたいにでかくなったら嫌よ」


 ヘイゼルが止めてきた。

 やはり時代は細マッチョのようだ。


「リリー、俺は鍛えない」

「惚気も冗談もいいから早く仕事に行きな。掃除の邪魔だよ」


 俺とヘイゼルは宿屋を追い出されたため、ギルドに向かった。

 そして、ギルドに着くと、受付にいるガラ悪マッチョの所に行く。


「よう! もう疲れは取れたか?」


 ガラ悪マッチョがいつもの感じで軽く声をかけてきた。


「まあなー」

「私は筋肉痛よ」


 実は俺もだったりする。

 見栄ですわ。


「…………まあいいや。ちょっといいか。奥で話がある」


 ガラ悪マッチョは俺の足をじーっと見た後、奥の部屋に誘ってくる。

 もちろん、えっちな意味ではなく、昨日の話だろう。


 俺とヘイゼルはガラ悪マッチョの後に続き、奥の部屋に入っていく。

 奥の部屋は応接室かなんかだと思っていたが、書庫だった。


「こんな所で話すのか?」


 俺はさすがに座らせろよと思った。

 足が痛いんだもん。


「あんま人に話せる内容じゃないんだ。悪いが、足は我慢してくれ」


 バレとるし……

 お前、ヘイゼルの前で言うなよ。

 かっこつけてたのに……


「依頼の件よね?」


 ヘイゼルが用件を確認する。


「そうだ。詳しく聞かせてくれ」

「わかった。まずは俺の占いで馬車を捜索し始めたんだが…………」


 俺とヘイゼルは依頼を受けた日から昨日までのことを説明し始める。


 もちろん、家に帰ってましたは言えないので、森の中に潜伏してたことにする。

 それで夜が明ける前に逃げようとし、ああなったことにした。


「うーむ…………なるほどなー」


 俺達から話を聞いたガラ悪マッチョが悩みだす。


「そっちは? 聞かない方がいいなら聞かないけど……」


 極秘事項かもしれないし、冒険者には話さないだろうなー。


「いや、ちょっとお前らの見解を聞きたい。わかってると思うけど、誰にも言うなよ」


 誰にも言うなよだって。

 意味のない言葉だ。


「うん、フィリアにしか言わない」

「そうね」


 ヘイゼルもうんうんと頷く。


「…………めんどくせーなー。言うなっての」

「お前のところで当てはめてみろ。俺がお前でヘイゼルが嫁さんAな」


 フィリア枠の嫁さんBがどう思う?


「…………こっちは悪くないのにすごい罪悪感があるな」

「だろー?」

「まあ、フィリアは修道女だし、大丈夫じゃない? 少なくとも、私達よりは信用があるでしょ」

「まあなー…………というか、お前らって、マジでそうなのか」


 何がそうなのかな?

 言わなくてもわかるから聞かないけど。


「で? 依頼主が商人の部下ってのは聞いたけど」

「私の予想では密輸ね。きっと非合法なものを売ってたのよ!」


 おー!

 ウチのヘイゼルちゃんが賢い!


「いや、行方不明の商人が他国のスパイだったわ」


 ヘイゼルちゃん、落ち込まないで!

 笑いそうになるから。


「スパイ? それで兵士か?」

「そうそう。商人はこの町を中心にこの辺一帯を調べてた。ヤツの商会を調査したら証拠がびっしりだ」

「行方をくらました原因は? 逃げた?」

「っぽいな。どうも、奥さんにバレそうになったらしい」


 それで仲もあまり良くない奥さんを捨てて逃げたのか……


「奥さんは?」

「奥さんはシロだ。というか、奥さんはこの町の出身でな……なーんも知らなかったっぽい」


 それは…………

 何か悲しいな……


「何と言ったらいいか……」

「ちょっと気の毒ね……」


 奥さん、騙されたのかな……


「まあ、その辺はしゃーない。男女のことだし、なんで結婚したかもわからん」


 あまり深くは聞かないでおこう。


「調査の依頼を出した部下は?」

「それは調査中だが、多分、そいつはクロだ。しかし、もうわからん。実は川で死体で見つかった。争った形跡もないし、自殺かな」


 商人が逃げることで仲違いしたっぽいな…………

 それで調査依頼を出したか……

 こうなってしまっては真実はもう闇の中かな。

 あとは領主様の調査次第だろう。


「他国のスパイってどこよ? この辺ってことは北のエスタか西のロスト?」

「その辺は調査中だが、エスタが有力だ。実はちょっと前にエスタのスパイらしき男が国境の関所でエスタの兵と揉めていたという情報もある。商人の関係者かもしれん」


 ……………………それ、俺では?


「きっと、そいつは商人と女3人の冒険者と一緒にいた心優しき青年だろうな」


 間違いない!


「いや、見るからに怪しい男だったそうだ………………お前かよ」

「俺はエスタに転移してきたんだけど、逃げてきたんだ。関所を抜けるために極秘任務とか言って誤魔化したな」

「はいはい、もういい。この情報はガセだったわ。じゃあ、どこかわかんねー」


 まあ、スパイもそういう証拠は残さんだろうな。


「この町、危ない?」


 ヘイゼルが心配そうにガラ悪マッチョに聞く。


「わからん。すぐに戦争ってことはないだろうが…………」


 このガラ悪、人の話を聞いてた?


「前にこの町では当分、戦争は起きないって言っただろうが」


 もう忘れたか、俺の言うことを信じてないかだな。


「え? そうなの?」

「そういえば…………」

「戦争や災害みたいな人が多く死ぬ前っていうのは暗雲が立ち込めるんだ。それがないから大丈夫だって」


 そもそも、そんなのが見えたら逃げるわ。


「なるほど…………お前、あの兵士がどこの所属かわかるか?」


 わかるよー。


「わからん。そこまでは見えん」


 政治に巻き込まれてはいけない。

 所詮、俺は占い師なのだから。


「そうか…………まあ、仕方がない。とりあえずの情報と説明に感謝する。俺はこれから領主様に報告するが、なるべく褒賞を上げてもらえるように言ってやる」

「さすがはギルマス!」

「頼りになるわ!」


 俺とヘイゼルは素直にギルマスのルーク様を称賛する。


「もしかしたら領主様に説明を求められるかもしれんからそのつもりでな」

「領主様ねー…………ヘイゼルは会ったことあるんだったよな?」


 前にそう聞いた気がする。


「そうね。女性の貴族だと女性の魔法使いを頼ることが多いから依頼で何回かあるわ」


 ならば、ヘイゼルを前面に出せばいいな。


「領主様の件は了承した。久しぶりにあの美人を見るかねー」

「やっぱり気付いてたか…………」


 そらそうだろ。

 あんな美人が庶民にいるかっての……


 あ、ちょーかわいいウチのフィリアさんがいましたね。


「まあなー。じゃあ、俺らは帰るわ。また仕事はするけど、ちょっと考える」

「あんなことがあったしな。休むのも重要だ。今日は感謝する」

「いえいえ」

「これも依頼のうちよ」


 俺とヘイゼルはガラ悪マッチョに挨拶をし、ギルドを出た。


「思ったより、すんなり終わったわね。今日はどうする?」


 ギルドを出ると、ヘイゼルが聞いてくる。


「俺は教会に行くけど、お前はどうする?」

「フィリア?」

「そのじいさん」

「行かない」


 でしょうね。


「話が終わったらフィリアを誘って帰るか……」


 ギルマスへの説明も思ったよりすんなり終わったし、帰ってもいいだろ。


「いいわね。ちょっとゆっくりしましょうよ」


 それもいいな…………

 また、両手に華状態でゆっくり飲みたいわ。


「じゃあ、家で待ってな。話が終わったらフィリアを連れていくわ」

「了解! じゃあ、頑張ってね!」


 ヘイゼルはそう言って、北区にある自宅に帰っていった。


 俺は重い足取りで教会に向かう。


 さて、あのじいさんにどこまで説明するかねー?

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