第052話 超優良店だわ!


 俺とヘイゼルはピンチになり、覚悟を決めたが、いい所でガラ悪マッチョと性病野郎が救ってくれた。


 馬に乗っていた2人は俺達のもとに来ると、ポーションを渡してくれる。

 俺とヘイゼルはポーションを飲み、一息ついた。


「お前ら、やけにいいタイミングだったな?」


 俺はポーションを飲み、空瓶を返した後に気になっていることを聞く。


「え!? あんたら、もしかして、もっと前からいたの!?」


 ヘイゼルも俺の言いたいことがわかったらしい。


「いや! 俺はお前らのピンチだし、早く助けよーぜって言ったんだぜ! ヘイゼルもお前も冒険者仲間だし、例の恩があるからな」


 ケインはまともなことを言っている。

 冒険者らしく、口は悪いが、考えは非常に仲間想いな男だ。

 しかし、こいつ、酒を飲んでなかったらマジで普通だな。

 俺やヘイゼルにフラフラ状態で絡んできた酔っ払いと同一人物とは思えない。


「お前か?」


 俺はガラ悪マッチョを見る。


「お前らがどこまでやれるかを見てたんだよ。いい成長になるし、いつでも援護できるようにはしてた。実際、助けてやったろう」


 ガラ悪マッチョは悪びれずに告げた。


「いつから見てたのよ?」


 ヘイゼルもガラ悪マッチョを睨む。


「お前らが5人を相手にしてるところ 」


 最初じゃねーか!


「ヘイゼル、魔法封じは解けたか?」

「まだよ。あとちょっとだろうから待って」

「攻撃してくんなっての! いや、5人相手に見事だったぜ。ちゃんと敵を近づけないようにしてた。お前はよえーくせにそういうのは得意だなー」


 ガラ悪マッチョが誤魔化すために褒めてきた。


「死活問題だからな。近づいてこられたら絶対に勝てん。だから最後は道連れ覚悟だったわ」

「だろうなー……まさか魔法封じの杖を持ってるとは……ヘイゼルがお前の服を掴んだところなんて感動の悲劇を見てるようだったわ」


 ヘイゼルが怒るぞ。


「早く解けないかな……」


 ほら、ヘイゼルがめっちゃ睨んで物騒なことをつぶやいてんじゃん。


「冗談じゃねーか。それよか、あいつらはなんだ? なんで魔法封じの杖なんか持ってる? あれは簡単に手に入れれるもんじゃねーぞ」


 ガラ悪マッチョはようやくギルマスの仕事をし始めた。


「ギルマス、あれは盗賊や冒険者じゃねーぞ。訓練をしてきたヤツらだ」


 実際に戦ったケインもそう思うらしい。


「装備的に見ても傭兵でもないな……チッ! 軍か……」

「森の中にアジトらしき小屋があるんだが、調査中のファーストコンタクトで気配や音を消す魔道具でヘイゼルが襲われたな」


 俺は一応、ギルマスに昨日のことも伝えておく。


「魔道具を2つも…………どっかの軍で決定だな……」

「アルトの軍か?」

「いや、ちげーな。見た事ねーし。おい、ケイン、お前は町に戻れ! 門番に言って領主様に伝えてこい」

「おう!」


 ギルマスはケインに指示を出すと、ケインは了承し、馬に乗って街道を走っていった。


「ところで、お前らは2人で何してたん? デートか?」


 ケインを見送った後、一応、ギルマスに聞いてみる。


「半日で帰ってこなかったら援軍を送るって言ったろ? ケインを送ったんだが、お前らが全然見つかんねーし、帰ってもこないから俺もケインと合流して、捜索してたんだよ。そうしたらこっちの方向で光が見えたからな。ヘイゼルの火魔法と踏んでやってきたんだ」


 なるほど。

 あの馬車を燃やしたやつか。

 まだ暗かったし、こいつらへの合図になったんだな。


「計算通りだったな」

「そうね。私たちの機転も中々だわ」


 俺とヘイゼルはそんなことはまったく考えていなかったが、そういうことにしておく。


「嘘くせーなー」


 やっぱり、わかるらしい。


「どうでもいいけど、もうちょっと早く来いよー。あと、人数が2人は少ねーだろ」

「まあ、お前が不幸になるけど、大丈夫的な事を言ってたしなー。思ったよりピンチだったけど」


 俺も思ったよりピンチだったと思うし、不幸だった。

 本当にこれをしておいて良かったと思う日が来るのだろうか?


「まあ、何にしても助かったわ。ありがとよ。でも、報酬は上げろよ」

「それな。実はちょっと厄介なんだわ」

「何が?」

「依頼主が行方不明」


 まさか…………


「なあ、依頼主って誰だ? 俺はてっきり奥さんとかの家族と決めつけてたけど…………」

「商人の部下だ」

「めんどくさい予感……」


 占わなくてもわかる。


「俺もそう思う。まあ、この後の調査は領主様の仕事だからな。また後日、詳しい話を教えてくれ。依頼料は出ないが、多分、それ以上の報酬が領主様からもらえると思う」


 元々の依頼料が金貨15枚。

 これで領主様からの褒賞が金貨16枚だったら泣くな。


「後日な。俺は疲れたわ」

「私も…………人生で一番疲れた日」


 ホント、ホント……


「まあ、お疲れさん。お前らは帰ってもいいが、俺の馬を貸してやるぞ。ヘイゼルは乗れるだろ?」

「ローブだから無理」


 この前もそうでしたね。


「…………お前は?」


 ヘイゼルの言葉を聞いたガラ悪マッチョが俺を見てくる。


「乗れねーっての」

「お前らって、できることとできないことの差が激しいな…………」


 霊媒師(詐欺……占い師)と魔法使いだぞ。

 当たり前だろ。




 ◆◇◆




 俺とヘイゼルは疲れ切った身体に鞭を打ち、町まで歩いていった。

 そして、解散し、各自の寝床に帰る。


 俺は宿屋に着くと、サラに飴玉をあげ、頭を撫でさせてもらった。

 すぐにやってきたリリーにも飴玉をやると、部屋に行き、泥のように眠る。


 俺が目を覚ました時はすでに夜の8時を回っていた。

 何時に宿屋に戻ったかは覚えていないが、12時間以上は眠っていたと思う。


 俺は1階に下り、晩御飯の肉セットを食べると、再び、部屋に戻った。


「…………どうしよ。全然、眠くないし、今日はもう寝れんわ」


 前日のように人を殺したから眠れないということではない。


 今日だって、あの兵士を銃で撃ったし、ヘイゼルが魔法で焼却処分をしていたところを見ていた。

 だが、心には何も感じることはなかった。


「ホントに1日で何も思わなくなった…………いや、昨日のヘイゼルのおかげか」


 人は自分のために人を殺せなくても、人のために人を殺せる。

 それが自分の身内ならなおさらだろう。


「でも、眠れんな……」


 理由は簡単。

 12時間も寝たから。


「こっちの世界はマジでやることがない…………ヘイゼルの家でも行こうかな……」


 ヘイゼルも同じように家に帰ったら寝ただろうし、もしかしたら同じように寝れずに悩んでいるかもしれない。

 ヘイゼルの家には酒もあるし、飲みながら話をすれば、そのうち眠れるだろう。

 あと、またサービスをしてくれるかも……


「行くか……」


 俺は1階に下りると、宿屋を出る。


 そして、薄暗い町中を歩き、ヘイゼルの家に向かう。


 夜の町は所々にかがり火が焚かれ、飲み屋もどことなく明るい。

 冒険者や娼婦か飲み屋のねーちゃんらしき女性がちらほらいる西区を抜けると、北にある商業区に入った。

 商業区はその名の通り、店が並んでいる区域であるため、夜はほとんどやっていない。


 以前、ヘイゼルが静かでいいと言っていた通り、宿屋や酒場が集まる西区のうるささもなく、静かだ。


 俺はまっすぐヘイゼルの家に着くと、玄関の扉をノックする。


「はーい?」


 中からヘイゼルの声がする。

 どうやら起きていたようだ。


「ヘイゼルー? 今、大丈夫か?」

「リヒト? ちょっと待ってね!」


 ヘイゼルの声がして、ちょっとすると、扉が開き、ヘイゼルが顔をのぞかせる。


「よう」

「あんた、こんな時間にどうしたのよ?」

「さっき起きたんだけど、もう寝れん。酒をくれ」

「あー……あんたもか……まあ、あがってよ」


 俺はヘイゼルに招かれて家に入る。

 すると、リビングには金髪の女がテーブルにつき、缶酎ハイを飲んでいた。


「リヒトさん、こんばんはー。酒場ヘイゼル亭へようこそー。お客さんははじめて? まあ、座ってよ。いい子をつけるからさ」


 フィリアが笑いながら手招きをしている。


「ぼったくり臭いなー」


 俺はそう言いながらもフィリアの隣に座る。

 家主であるヘイゼルは俺の分の酒を持ってくると、俺とフィリアの対面に座った。


「はい」


 ヘイゼルは魔法で冷やしてくれた酒を渡してくれる。


「ありがと。お前はいつからいるん?」


 俺はヘイゼルにお礼を言うと、隣のフィリアに聞く。

 何故なら、テーブルの上には空き缶が6本も置いてあるからだ。


「えーっと、2時間前かな」

「寝てたのに起こされたわ……」


 それはご愁傷様。


「ヘイゼルさんに聞いたけど、大変だったみたいだねー」

「マジでな……宿屋に戻ったら速攻で寝たわ。それでさっき起きたんだけど、さすがにもう眠れない。こっちの世界は夜にやることねーし、飲みにきた」


 俺はそう言って、酎ハイを開け、飲みだす。

 冷えた酎ハイは一昨日飲んだ時よりも美味かった。


「私も速攻で寝た。今日はもう眠れそうにないわ…………」


 ヘイゼルも俺と同じらしい。


「じゃあ、飲もー、飲もー。こっちで3人で飲むのは初めてじゃん」

「そうね。仕事が終わったら3人で飲む予定だったし」

「ここは良い店だな。かわいくて良い子を2人もつけてもらったわー」

「優良店ですから」


 俺達はなんとなく乾杯をし、再び、飲みだした。


「フィリア、砂糖はどうなった?」

「それね。昨日、オリバーさんと話がついた。5キロで金貨600枚に決まったよ」


 金貨600枚……?

 あっちのお金換算で600万円?

 さらに金貨を売れば、3000万円ですか?


「マジ? あれ、2000円だぞ? 何倍になったんだ?」

「ホント、すごいよね!」

「あっちの世界のものってすごいのねー」


 ヘイゼルも感心している。


「マジですごいわ……語彙力が低下するくらいにすごいわ」


 うん、すごい。

 本当にすごい。


「でも、砂糖はここで打ち切りね。外にまで噂が漏れてるらしい」

「外?」

「商人の繋がりなのか、他所も町からも砂糖を買いにきてる。これ以上はトラブルになると思うし、オリバーさんも黙っていない」


 うーん、トラブルは嫌だなー。

 実際に売ってるのはフィリアだし、これ以上はやめた方がいいだろう。


「まあ、最初に5キロまでって言ってたしな。砂糖はもうやめよう」

「だねー。また、お金を受け取る時についてきてよ」

「りょーかい」


 しかし、金貨600枚かー。

 1割である金貨60枚はフィリアの物として、残りの金貨540枚も何に使おうかな。


「一気に金持ちになったなー」

「散財はやめてね」


 ヘイゼルが釘を刺してくる。


「しねーよ。俺は金を貯めるの!」


 何に使おうか悩んでたけど。


「良いことだよ。それにしても、そろそろ氷も売るとして、次は何を売ろうかなー?」


 フィリアの金儲けは終わらないらしい。


 俺とヘイゼルは目が金貨になっているフィリアに苦笑し、酒缶に口をつけた。


「そういえば、そのネックレスの反応はどうだった?」


 ヘイゼルがニヤニヤしながらフィリアに聞く。


「皆、祝福してくれたよー! あ、おじいちゃんがリヒトさんに話があるから来いってさ」


 だよねー……

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