第047話 めんどくさそうな依頼
ヘイゼルの家に戻ってきた俺はフィリアと別れ、ヘイゼルと共に冒険者ギルドに向かった。
もちろん、ヘイゼルもフィリアもこっちの世界の服に着替えたため、それぞれいつもの黒ローブと修道服だった。
だが、フィリアの首には銀のネックレスがかけられていた。
そして、隣にいるヘイゼルの首にも金のネックレスがかけられているのが見える。
白い修道服のフィリアはまだしもヘイゼルは黒い服の上からだと非常に目立つ。
「お前、そのネックレスをしまったら? 目立つぞ」
こっちの世界だって金は貴重だろうし、よく見りゃ精巧な技術で作られていることがわかるだろう。
冒険者の連中は気付かないと思うけど。
「これはそういうもんなの。人に見せびらかさないでどうすんのよ」
あ、そういうやつなのね。
昨日、フィリアがマーキングとかなんとか言ってたけど、俺らの世界で言う左手か右手の薬指につけるやつなのね。
「よくわかんないんだけどさ、自分で買ったアクセサリーの場合はないの?」
アクセサリーを身につけるって広くない?
日本でも右手の薬指の場合は恋人と決まったわけでないが、左手の薬指というわかりやすいものがある。
「アクセサリーは夜会や公の場でもない限りはつけないわよ。まあ、私の場合は男避けか魔道具と思われるかもだけど」
魔道具なんてあるのか。
MPが増える的なやつかな?
「そんなもんなのか…………」
「まあ、冒険者の男共がどれだけそれを知っているかは微妙だけどね」
あいつら、野蛮だもんなー。
「ちなみに、フィリアも着けて帰ったけど?」
「あんた、フィリアに何か言った?」
お前を絶対に娶るって言いました!
「言ったね……」
「じゃあ、それよ。修道女仲間なら皆、察するしね。あと、まあ、男のあんたに言うべきじゃないかもだけど、自慢になるから。意中の相手から贈り物をもらったら大抵の女性は見せびらかすわよ」
その辺はこっちもあっちも変わらんか。
男だって、女から何かをもらったら自慢するし。
「俺、あのじじいに呼びだされるんかね?」
「ああ……あの人……ご愁傷様」
殴られることはないと思うけどなー。
「ちなみに聞くけど、お前のとこはどうなん?」
「私の親のこと? 私は絶縁状を送ってるから特に何も……手紙くらいは送るだろうけど」
「送るんだ? 絶縁したんじゃないの?」
「絶縁状っていうのは、私はもう貴族でもバーナード家の人間でもありませんって宣言ね。でも、親子であることは変わりないから報告くらいはする。結婚したらさすがに親も諦めるし、祝福くらいはするわ。絶縁状を送って、よその人と結婚した娘に干渉すると、他の貴族に狭量って思われるからね」
そんなもんなのかねー。
よくある物語だと、無理やり連れ帰る的な展開が起きる気がするけど。
ロストはそういう国なのかね?
「結構、自由なわけ? 他の人と結婚したくて家を出る人も多そう」
「そうでもない。貴族の地位を捨てるって厳しいからね。単純にお金がないし、生活水準を落とせる貴族の女性はいないわ。私みたいに身を立てるすべがあれば別だけど、大抵の女性は無理よ」
ヘイゼルは魔法学校に通っていた優秀な魔法使いだからなー。
お金はどうとでもなるのか……
「しかし、絶縁ねー……ウチの母親も絶縁状を送ればいいのに」
「王族はさすがに無理よ。ましてや、巫女様だもん」
無理なのね。
やはりロストには近づかないのが吉だな。
俺はロストの王族、巫女関係には絶対に近づかないぞ、と改めて決め、ギルドを目指した。
◆◇◆
ギルドに到着した俺達はガラ悪マッチョのところに行き、依頼の話を聞くことにする。
「よう。たまには朝にお前らの顔を見たいわ」
ガラ悪マッチョが軽口をたたきながら挨拶をしてくる。
「朝からお前の顔を?」
「野蛮人共の顔を朝から見たくないわよ」
俺とヘイゼルも軽口で返した。
「お前らって、すぐ言い返すよな……まあいいや。まずはこの前の依頼の報酬を払うわ」
ガラ悪マッチョはそう言って、受付に袋を置く。
「いくらになったん?」
「金貨21枚。内1枚はお前の占い代だなー」
金貨15枚が金貨20枚になったのか……
思ったより、上がってるな。
「巻き上げたなー」
「ペナルティーは重くしねーとな。次もやられたらたまらんわ」
「まあなー」
俺とヘイゼルは金貨を受け取り、俺が金貨11枚、ヘイゼルが金貨10枚に分け、それぞれの財布に入れた。
「それで次の依頼をしたいんだけど、何かある?」
金貨を財布に入れたヘイゼルがガラ悪マッチョに聞く。
「あー、それな。実はこの前のもう一つあった依頼があったろ? あれが残っている」
街道の調査か……
街道で行方不明になった商人と馬車の捜索というか、調査。
「あれねー……」
「うーん……」
俺とヘイゼルが難色を示す。
「やんないか? 他の冒険者もやってくんなくて、報酬が金貨10枚から15枚に上がったぞ」
それでも誰も受けないのね。
「ヘイゼル、どう思う?」
俺は冒険者の先輩であるヘイゼルに意見を聞く。
「街道のみの調査ってのがね……そんなもんは兵士がやってるし、冒険者に何を期待してるのかわかんない。っていうか、逃げたんじゃないの?」
「実際、皆、そう思ってるな。南に行ってないなら西のロストか北のエスタか……」
やっぱ蒸発か……
「借金でもあったん?」
俺もガラ悪マッチョに聞く。
「ないが、嫁さんとは上手くいってないことで有名」
それじゃね?
「離縁も言い出せずに海外に逃亡か?」
「かなーっと」
「それなら街道を探しても意味ねーだろ」
「他も探しては欲しいが、範囲を外国に広げると依頼料が10倍以上になる。それを嫌がったんだろうよ」
ガラ悪マッチョもぶっちゃけ始めた。
「街道のみを調査し、何かが出たら良し、出なかったら調査不足を言い出していちゃもん?」
「さすがにそれはギルドが認めん。でも、依頼主はこの町の人間だし、トラブル臭がすごいから他の冒険者はスルーしてる。いくら野蛮な冒険者でもこの町に住んでることは変わりないし、いらんトラブルは避ける」
金貨15枚では割に合わんな……
「他の依頼はねーの?」
「泊まりでいいならいっぱいあるぞ」
嫌だわー。
採取の仕事をするかな…………
「リヒト、あんたが占ってみれば? 馬車がこの辺にあるなら受ければいいし、ないならスルー」
なるほど。
やってみるか……
「エロイムエッサイムー」
「意味ない詠唱のやつね」
うるせー。
雰囲気が大事なの!
「えーっと、商人はわかんないけど、馬車はあるな…………」
「奥さんから逃げたわけじゃなさそうね…………事故か、モンスターか、盗賊か……」
モンスターと盗賊は嫌だなー。
「どうする?」
「ウルフやゴブリンに襲われたのなら問題ないわ。盗賊は……さすがに兵士が調査した後だし、この辺りにはいないか…………というか、この依頼を占ってみてよ」
「今、占った。結果は微妙……」
「微妙? どんなの?」
「依頼はわからんが、南の街道に行くと、不幸になると出ている。だが、最終的には良くなる」
「ん? どっちよ?」
ヘイゼルが俺の曖昧な占い結果を聞いて首を傾げる。
「いやね、こういう占い結果はよく出るんだよ。失敗しても後々の為になるってことあるじゃん。人は成長する生き物だからさ」
「この依頼は失敗するかもしれないけど、最終的には成長できて、やっておいて良かったってこと?」
「そうそう。今回の失敗が教訓になるってやつ。他にも怪我の功名とかそういうのもある」
怪我はするけど、それ以上の報酬や物を得られる。
「うーん、確かに微妙ね……」
「経験談だが、こういうのはやらなくても特に問題ないが、やると、ほぼやっておいて良かったって思える」
今までの人生でこういう占い結果は本当によくあった。
やるかやらないかは半々だったが、やった場合はやってよかったと思えるし、今でも思っている。
「年長者からアドバイスをすると、そういうのはやった方が良いぜ。危険を避けてばっかだと、成長をせんのは確かだし」
ガラ悪マッチョがとても良いことを言っている。
「それはわかってるんだけど、不幸になるのが見えてると尻込むんだよ」
「そうよねー。別にこれじゃなくても採取すればいいし」
そうそう。
「別に命の危険はなさそうだし、受けたらどうだ? 半日経って帰ってこなかったら援軍を送ってやるよ」
ギルマスが言うんなら本当に援軍は送ってくれるんだろうな。
「まあ、馬車を探すだけだしなー」
「やる? 私はいいけど」
「そうするかー」
あんま気乗りはしないけど、やった方がいいのは確かだし……
「じゃあ、やってくれ。明日でいいぞー」
「わかった」
俺達は結局、依頼を受けることにして、ギルドを出た。
「ねえ、あんたの未来視で詳細とかはわかんないの?」
ギルドを出ると、ヘイゼルが聞いてくる。
「よほどのことだったらわかるけどなー。それこそ災害とか」
「なるほど……まあ、失敗しても仕方がない気持ちで挑みましょう」
「だなー。じゃあ、明日の朝に迎えに行くわ」
「明日は南門でしょ? 逆に私があんたの宿屋に迎えに行くわ。目覚まし時計を買ったし」
いつの間に……
でも、時計の針が向こうの時間のままになっていて、寝坊するって出てるからやっぱり迎えにいこ。
こういうどうでもいいものはすぐにわかるんだけどねー。
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