第040話 帰省の意味をわかってる?


 俺はスマホのアプリを使い、フィリアと日本の自宅に戻ってきた。


「おー、久しぶりな気がするわー」

「帰ってきたねー」


 ちょいちょい、ここをほぼ自宅認定しているフィリアさん。


「どうする? 飲む? 風呂?」


 それとも、ご、は、ん?


「お風呂がいいな。気分的にさっぱりしたいし」

「わかるわー。俺も午前中、大森林だったし、風呂に入りたい」

「お疲れだったねー」


 フィリアが優しい笑顔でねぎらってくれる。


「ちょっと用意してくるわー」

「あ、いいよ。私がやる。リヒトさんは疲れただろうし、座ってて」


 フィリアはそう言うと、靴を脱ぎ、リビングを出ていった。


「……新婚っていいね」


 俺はボソッと独り言をつぶやくと、すぐに身体が熱くなったような気がしたため、靴を脱ぎ、ソファーに座った。

 そして、スマホを充電しようかと思っていると、着信履歴が残っていた。


 誰だ?

 …………質屋のじじいか。


 俺はそういえば、金貨のことがあったなと思い、電話をする。

 しばらく耳元で呼び出し音が流れていると、呼び出し音が止まった。


『もしもし、詐欺師か?』

「詐欺師じゃねーって」


 こっちでも詐欺師、向こうでも詐欺師。

 俺って、どんだけ詐欺師っぽいんだろ……


『お前、全然、電話に出んかったが、海外でも行ってたのか? いや、まあいい。この前の硬貨だがな? 簡潔に言うが、銅貨と銀貨は買取できん。他を当たれ』

「ま、しゃーないか…………で? 本命の金貨は?」


 正直、銅貨も銀貨も期待はしていない。

 どうせ金の方が高いもん。


『この前の硬貨1枚で4万出す』

「5万だなー」


 俺を騙せると思ってんのかね?


『4万5千だ』


 刻む気か?


「10枚単位で売ろうかと思ってる」

『チッ! 20枚で1本出してやる』


 1本……100万円か……


「それでいい。出所は聞くな」

『聞かねーよ。お前ら親子がまともなもんを持ってくるわけねーしな』


 お母様もそこを利用してるのね…………

 まあ、近所だしな……


「用意できたら持っていく」

『金ならいくらでもいいぞ。即現金で買い取ってやる』

「わかった」


 俺は話が終わったので、電話を切った。


「終わった?」


 急に声がしたので振り向くと、フィリアが笑顔で立っていた。

 ただし、先ほど俺の労をねぎらってくれた新妻っぽい優しい笑顔ではなく、ちょっと黒くて、頭の中が金色になってそうな笑顔だ。


「終わった。先に入っていいぞ」

「まあまあ」


 フィリアは俺の隣に肩が触れる距離で座ると、左手を俺の太ももに置いてきた。


「いや、入れって。あとで話すから。お酒を飲みながらゆっくり話そうぜ」


 人差し指で俺の太ももを優しくぐりぐりするんじゃないよ!

 おのれはキャバ嬢か!

 フルーツの盛り合わせしか頼まないぞ!


「いや、リヒトさんが先に入ってよ。お疲れでしょ?」


 俺、お前の後が良いんだけどな……


「…………じゃあ、先に入ってくるわ。冷蔵庫のやつは飲んでいいからな」

「ううん。上がってから乾杯しようよ」


 殊勝なことを言っている気がするが、俺、お前の長風呂を待つのか…………

 まあ、いいけど。


「そうだな。じゃあ、お先に」


 俺は嫁気取りのこいつには何を言っても無駄だと思い、素直に風呂に入ることにした。


 2階に上がり、着替えを取りに自室に戻った時にチラッとベッドを見る。


 うーん、変態っぽいからやめておこう。

 俺のベッドなんだけどね……


 俺はそのまま着替えを持って、風呂場に行き、お風呂に入った。

 湯に浸かると、数日の疲れが一気に取れるような気分になる。


「やっぱ風呂に入らないとなー……」


 とはいえ、風呂はさすがに向こうでは厳しいだろう。

 水が多い国、それこそ母親が巫女をしていた水の国である東のイースなんかは風呂があるらしい。

 だが、イースはロスト以上に行きたくない国だ。

 俺はまったく関係ないし、俺が伝説(笑)の巫女の息子とは思われないだろうが、近づきたくはない。


「……24時間という充電時間が問題なんだよなー」


 正直、好きに転移できたら色々な問題が解決する。


「まあ、しゃーない」


 俺はフィリアが待っていると思い、風呂から上がると、服を着て、リビングに戻った。


「上がったぞー」


 俺はソファーに座っているフィリアに声をかける。


「はーい。私も入ってこようかな」

「そうしろー。ゆっくりでいいからなー」

「うん。じゃあ行ってくるー」


 フィリアがお風呂に向かったので、俺はソファーに座って、一息ついた。


 しばらく待っていると、修道服からこっちの世界の服に着替えたフィリアが戻ってくる。


「お待たせー。時間がかかっちゃった」


 まあ、結構、待った。

 でも、女は時間がかかるからなー。


「大丈夫だよ。飲もう」


 俺はソファーから立ち上がり、フィリアとキッチンに行く。

 そして、コップに氷を入れて、好きな飲み物と一緒に持って、ソファーまで戻った。


 ソファーに並んで座った俺達は乾杯をすると、時刻はまだ朝の9時にもなっていないのに酒を飲みだす。


「あー、生き返るー」

「ホント、美味しいねー」


 ギルドでヘイゼルと飲んでいるあっちの世界のお酒も十分に美味しいけど、やっぱこっちの世界の方が美味く感じる。


「あー、それでさっきの電話な?」

「電話ね。本当にその転移が出来る機械で遠くの人と話せるんだね」


 そういえば、前にちょろっと説明したかもしれん。


「そうそう。まあ、そもそも異世界に飛べるんだけども」

「それが一番の不思議だよねー。それで? どうしたの?」

「実は俺がこの世界とあっちの世界を行き来出来るってなった時に最初に思いついたのがこっちの世界の物を向こうで売って、向こうの世界の物をこっちで売るという貿易的な金儲けなんだ」


 ヘイゼルに怒られそうだが、これが俺の錬金術。


「いいと思う。実際、砂糖とか売ってるしね。それで向こうの世界のものって? 売れるものがあるの? 魔法?」

「魔法は無理だ。こっちの世界の商品を向こうの世界で売る比じゃないくらいに騒がれる。売るのは金貨だ」

「金貨? お金を売るの?」

「あっちの世界の鉱石事情は知らないが、こっち世界では金が限られていて、めっちゃ高い。それで金貨を鑑定に出したんだが、金貨20枚を100万円。つまり、あっちの世界でいう金貨100枚で買うそうだ」


 別の所で売れば、本当はもっと高く売れそうだが、さすがに足が付きそうだ。

 闇に流すのが一番である。

 あそこはそういう質屋なのだ。


「金貨20枚が100枚になるってすごくない!? その100万円で物を買って、あっちで売って、金貨を仕入れ、その金貨を売る! このサイクルで永久に金儲け!!」


 テンション高っ!


「まあ、そうなるね」

「私が持っている金貨80枚が400万円に……」


 そういやフィリアって、かなりの金を持ってたな。


「売りたければ、売りにいってもいいぞ。近所だし」

「ちょっと考えてみる……」


 フィリアが真剣に悩みだした。


「ゆっくりでいいぞ。そんな高い物を買ってもって感じだし」

「まあ、そうよね。そういえば、今回の帰省はどうするの? 何か買いに行く?」

「クーラーボックスをもう1個買うくらいかなー。逆に何か買うか? 食べ物は買うんだろうけど」

「そうねー…………一応、色々と考えがあるんだけど、ヘイゼルさんにこっちの世界を説明してからかなー」


 フィリアには何かの計画があるらしい。


「次の帰省であいつを誘拐する予定だけど、何?」

「誘拐……ああ、そういえば、私も誘拐されたね…………いや、たいした考えじゃないよ。氷を売る用以外のクーラーボックスに氷とお酒を入れて、ヘイゼルさんの家に置かせてもらえれば、冷えたこっちのお酒が飲めるなって思っただけ。お酒に限らず食品とかもいける」


 なるほど。

 数日なら余裕で氷も持つだろうし、冷蔵庫代わりになるのか。


「それはいいかも。ヘイゼルが勝手に飲むだろうけど、あいつは酒があまり強くないから量は飲まないし」


 ヘイゼルは酒が好きで、よく一緒に飲んでいるが、あまり酒に強くないらしく、いつもちびちびと飲んでいる。

 まあ、飲みすぎて泥酔状態になり、例のポーション100個納品事件を引き起こしたのだから自重もしているとは思う。


「あー、ヘイゼルさんって、確かにいつも飲んでるイメージだけど、お代わりをしているイメージはないね」

「というか、俺もそんなに飲まないぞ。お前が特別の飲みすぎなの」

「隣にいる人が楽しくてお酒が進むんだよ」


 フィリアの良い女攻撃!

 きゅうしょにあたった!


「…………お前、たまにズルいよな」

「詐欺師さんほどじゃないよ」


 うーん、女って怖いね。


「ヘイゼルはあんなに純粋なのに」

「純粋……? まあ、純粋かな……それにしても、あの人をここに呼ぶのかー……うーん」


 フィリアが悩み始めた。


「どうした? 嫌? 別に次じゃなくてもいいけど」

「いや、そういうわけじゃない。色々と準備とかしないとなーって」

「準備?」

「うん。私がそうであったように色々な物を欲しがると思う」


 あー……食料品はもちろんのこと、服やシャンプーとかかなー。

 化粧品にアクセサリーとかも欲しがるかもしれん。

 あいつ、貴族だし。


「まーた、下着コーナーに行くのは嫌だなー」


 フィリアに任せたいが、通訳がいる。


「まあ、そこはしょうがないよ。逆にサイズを知れると思って役得と思えばー?」


 あ、こいつがDって知った時にちょっと興奮してたことがバレてそう……

 でも、ヘイゼルさんのサイズはちょっと気になる。


「そんけ……いはあんまできないけど、師匠に悪いよ。まあ、あいつが欲しがれば付き合うわー」

「ヘイゼルさん、いつも黒ローブに三角帽子だけど、靴やアクセサリーやらは目立たない小物を毎回変えてるくらいにはオシャレだよ?」


 やっべ……

 まったく気づかなかったわ。

 人を観察するのが仕事のようなものなのに。

 まあ、あそこばっか見てるからだけど……

 ごめんね、師匠。


「お前、そのネックレス似合ってるな」

「ありがと。本当に嬉しいよ。ヘイゼルさんにも言ってあげて」

「あいつは水晶玉あげたら喜んでたから大丈夫」


 あれからあいつに水晶玉を持たせて占っているが、水晶玉を持っている時、すげー笑顔だもん。


「水晶玉…………その話を詳しく聞きましょう!」


 目がね……

 また金貨だよ…………

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