第037話 狭い部屋に男が1人、女が2人……すごいね


 仕事終わりの一杯を飲み終えた俺とヘイゼルはギルドを出て、教会へと向かう。


「ところで、フィリアは教会にいるの?」


 俺とヘイゼルが並んで教会まで歩いて向かっていると、ヘイゼルが聞いてきた。


「多分な。一応、占いというか、ダウジングに近いこともしたし」

「さっき、剣を倒してたけど、あれ?」


 俺はギルドを出てすぐに剣を使って、フィリアの居場所を探ったのだ。

 倒れた方向が教会方向だったので、多分、教会にいると思う。


 しかし、俺の剣って、敵を倒すことより、こっち方面で使うことの方が圧倒的に多いな。

 ただまあ、ヘイゼルからもらった杖はちょっとそういうことに使うのは悪いと思うし、他にいい感じの棒がないからしゃーない。


「そうそう。尋ね人がいたら探してやるぞ」

「お金を取るんでしょ?」

「お前からは取らねーよ」


 こいつは絶対に覚えてないだろうけど、最初に魔法の師事をお願いした時にヘイゼルの占い料はタダにするって言ったのだ。


「…………取らないの?」

「占ってほしければ言えよー。ちなみに、今日の晩御飯は肉だぞー」

「いや、私の宿の晩御飯は毎日、肉が出るし……」

「お前の所もなのか……ウチもだよ」


 美味しいんだけど、魚を食べたい今日この頃。

 家に帰っても魚は調理がめんどくさいのだ。


「この辺はどうしてもメインが肉になっちゃうからねー。まあ、屈強な冒険者とかには好評なんだろうけど、私は2日に1回でいいわ」


 俺もそのくらいでいい。

 今度、ポン酢を持ってきて味変しようかな?


「実際、占ってほしいことはないん?」

「ないわね。ピンチになりそうだったら教えて」


 まあ、それは教えるし、回避するのも手伝うが、やっぱり魔法使いは占いに興味がないのかねー?

 ちょっと寂しい俺であった。


 そのまま歩いていると、昨日も来たというか、あっちの世界から帰ってきた場所である教会に着いた。

 俺は教会に入ると、宿舎の方に向かう。

 そして、宿舎の入口の前で立ち止まった。


「なあ、勝手に入っていいのかな?」

「あんたは怪しいからやめた方がいいと思う。下手すると、騎士団にグサッ」

「お前も悪い魔女だから騎士団に捕まって拷問ののちに火あぶり」


 魔女狩りですわ。


「貴様らの騎士団のイメージはひどいな」


 突然、後ろから声がしたため、俺もヘイゼルもビクッとなった。

 俺達がすぐに振り向くと、教会の神父服をきたじじいが立っていた。


「なんだ……フィリアのじいちゃんか……」


 しかし、気配がまるでなかった。

 忍者か?


「え? フィリアの? あ、あの、えーっと、私はフィリアさんの………………あれ?」


 ………可哀想なヤツ。


「友人でいいだろ」

「――友人のヘイゼルと言います」


 ヘイゼルは何とか説明し、頭を下げる。


「そうでしたか……これはこれは、よくぞおいでくださった」


 じいさんはニコッと笑い、人の良さそうな顔をする。


「神父様、フィリアはいますかね?」


 俺はじいさんに聞く。


「部屋にいるぞ。貴様らは2人共、フィリアに用事か?」

「このヘイゼルは私とパーティーを組む仲間なんですよ。まあ、用事は違うんですけどね。私は商売の話で、ヘイゼルは部屋を借りようと思っていてフィリアに相談をしているんですよ」

「なるほど…………まあ、勝手に入ってよいぞ。フィリアの部屋は入ってすぐだし、他の者の迷惑にもならんだろ。フィリアの部屋はわかるな?」


 そらね。

 一昨日から昨日まで24時間も2人きりでこもりきりでしたんで、へっへっへ。

 って答えたら死ぬんだろうな……


「わかります。では、失礼して…………ほら、ヘイゼル、行くぞ」


 俺はがちがちに固まっているヘイゼルに声をかけた。


「う、うん。神父様、失礼します」

「うむ。孫と仲良くしてくれ」


 じいさんはそう言って、教会に戻っていった。


「あー、怖かった」


 じいさんが見えなくなると、ヘイゼルはでかい胸を撫でおろす。


「あいつ、いつの間に俺達の背後に来たんだろ?」

「わかんない。あれは絶対に元騎士団よ」

「隊長だったらしいぜ。わかるん?」

「雰囲気が軍人のそれだった。私の父も軍人だからわかるわ」


 こいつの親父も強そうだなー。

 この世界の男はなんで皆、強そうなのかね?

 俺がめっちゃ弱く感じる。

 いや、実際、弱いんだけども……


「まあ、いいや。フィリアの所に行こう」

「そうしよ。あーあ、これだから教会は嫌なのよね。心臓が止まるかと思った」


 俺も止まるかと思った。


 俺達は気持ちを切り替え、宿舎の扉を開け、中に入ると、すぐそばの部屋をノックする。


「はーい」


 部屋の中からフィリアの声がした。


 フィリアの声を聞くと癒されるわー。


「フィリアー、俺だよー。リヒトだー。偉大なる魔法使いと一緒に来たー」

「ふふっ」


 ヘイゼルが胸を張る。


 ノリのいい子だね。


「開いてるからどうぞー」


 部屋主の許可を得たので、扉を開ける。

 部屋の中ではフィリアはベッドに座っていた。


「急に悪いな」

「……こんにちはー」


 俺は中に入り、フィリアに声をかけると、ヘイゼルは俺の背中に隠れながら小声で挨拶をする。


「さっきまでの威勢はどうした?」

「いや、どうも教会はねー……」


 ホント、苦手なんだな。


「どうかしたの?」


 フィリアは俺達のやり取りが疑問のようで聞いてくる。


「いや、さっき、おまえのじいちゃんに驚かされたんだよ。気付いたら後ろにいてマジでビビった」

「あー、なるほどね。まあ、座ってよ」


 フィリアはそう言って、自分が座っているベッドの隣をポンポンと叩くが、ベッドには3人も座れそうにない。


「ヘイゼル、お前はそこに座れ」


 俺はフィリアの横はヘイゼルに譲り、机の所にある椅子を引いた。


「あ、じゃあ」


 ヘイゼルは大人しくフィリアの隣に座ったので、俺も椅子に座った。


「2人で来たんだね?」


 全員が座ると、フィリアが聞いてきた。


「用事があってなー。まずなんだけど、今日、ヘイゼルと仕事してきたんだわ」

「大森林?」

「そうそう。採取だな。まあ、儲けも良かったし、これでやっていこうと思う」

「いいと思う。人の事を言えないけど、2人はモンスターを討伐するって感じじゃないもんね」


 まったくもってその通り。


「それで今日、ヘイゼルに初級魔法を教えてもらったんだわ」

「おー! どうだった?」

「無事に覚えた」

「おー! すごいじゃん! 」

「師匠が優秀だったわ」


 俺はそう言うと、ヘイゼルが胸を張る。


 よー、胸を張る子だわ。

 アピールかね? それとも自慢?


「良かったねー」

「だな。それで悪いんだけど、明日から数日、仕事を慣れるのと同時に魔法の練習をしようかと思ってんだわ」

「あー……なるほどね。確かに、覚えたての時こそ頑張らないと、身につかないし」

「それそれ。だからちょっと数日は帰れそうにない」


 帰れそうにないって言って、ヘイゼルはイミフだろうが、まあ、いいや。

 近いうちにこいつも連れていこうかと思っているし。


「うん、わかった。まあ、今回はたくさん持って帰ってるし、大丈夫だよ。これっばかりは仕方がないしね」


 フィリアは今回、保存が利くお菓子を大量に持ち帰っていた。

 それで凌ぐのだろう。


 でも、お酒が飲めなくて、ごめんね。


「悪いな」

「いいよ。あ、こっちの方なんだけどね。まず、氷を買ってくれるところを見つけたよ」


 さすがはフィリア!

 仕事が早い。


「おー! マジかー! どこ?」

「知り合いのお肉屋さん。別の町に輸送するのに欲しいみたい」

「輸送? 肉を?」


 イメージだけど、その辺で獲れんじゃね?

 魚ならわかるんだけど。


「大森林で獲れるお肉って、実はすごく良いものなんだよ。私らは普通に食べてるし、値段も安く買ってるからわからないんだけどね。だからこの町からお肉を輸出してるんだけど、腐るからあんまり遠くに売れないんだよ。だから氷が欲しいんだって」


 日本みたいな冷凍技術もないわなー。

 しかし、異世界の肉も美味いなって思ってたらこの町が特別に品質が良かったわけか……


「それでいくらで買うって?」

「あのクーラーボックスぐらいの大きさで金貨4枚。それを2つ用意してくれたら金貨10枚は出すってさ」


 マジかよ……

 ほぼ無料で作れる氷が10万円?

 作るのが面倒だから買ったとしても値段はたかが知れてる。

 それをあっちの世界に戻るたびに用意すれば、それだけで金持ちになれそうだ。


「クーラーボックスをもう1個買うか……」


 俺が買ったクーラーボックスならヘイゼルの収納魔法でも2つは入るだろう。


「それがいいと思う」

「今度帰ったら買うわ」

「わかった。話は進めておくね。あと、砂糖はちょっと待って。今、オリバーさんと膠着状態だから」


 天下の商人ギルドのマスターとタメを張る修道女がこちらにおわすフィリア様です。


「頼むわ」

「任しといて!」


 フィリアも胸を張った。


 うんうん。

 フィリアも結構あるし、眼福、眼福。


「終わった? 全然、ついていけなかったけど……」


 置いてけぼりだったヘイゼルが聞いてくる。


「お前にも後できちんと1から説明する。お前にも手伝ってもらうし、俺は仲間に隠し事をする気はない」


 母親の事はどうしようかな?

 別に言ってもいいんだけど、こいつは母親と同じロストの人間なんだよなー。

 しかも、貴族。


「隠し事ねー。あんたは胡散臭いから何が嘘で何が本当かわかんないや」


 自分で言うのもなんだが、よくそんなヤツとパーティーを組むな……


「俺はお前に嘘をついてないぞー」

「まあ、いいけどね。男は隠し事をするもんだって、お母様も言ってたし」

「奇遇だな。女は隠し事をするもんだって、ウチの親父が言ってたわ」


 結論。

 皆、隠し事をする。


「私はしないよー。修道女だもん」


 俺から金貨10枚を騙し取ろうとしたヤツが何か言ってる。


「ヘイゼル、俺の用事は終わった」


 俺は自分の用事を終えたので、ヘイゼルの用事に移行する。


「うん。フィリア、私の借家の件で来たんだけど……」

「あー、それね。一応、見つかりはしたかな。ただ、詳しい話を聞いてないから聞きにいく?」

「詳しい話? 大家さん? 誰?」

「ゲルドさん」


 俺を馬車に乗せてくれて、この町まで一緒に来た商人のゲルドか……

 あいつ、まだこの町にいんの?

 エスタに帰らないのかな?


「ゲルド?」


 ヘイゼルはゲルドを知らないらしい。


「ゲルド商会のゲルドさん。本店はエスタだけど、この町にも支店があるでしょ?」

「あー、あるね。あそこの商会長さんか」

「そうそう、話を聞いてみる?」

「うーん…………」


 ヘイゼルが悩み始めた。


「ゲルドは信用できるぞ。少なくとも、変なことを考える人間じゃない」


 一応、アドバイスをしてやろう。


「リヒトがそう言うなら…………フィリア、紹介して」

「いいよー。じゃあ、今から行こっか」

「うん」


 俺も行こうかな?

 お茶を出してくれるって言ってたし、この町に着いてからまだ会ってない。


「俺もついていっていい?」


 俺は暇だし、ついていこうと思い、ヘイゼルに確認する。


「え? あ、うん。もちろん、そのつもりだった……」


 というか、俺がついてくる前提だったようだ。


「じゃあ、行こうぜ」

「うん!」


 ヘイゼルは嬉しそうに頷いた。


「…………やっぱこうなったか。まあ、仕方がない……」


 フィリアは何を思い、何を予想していたのだろう?


「何?」


 俺はフィリアの反応が気になり、聞いてみる。


「ううん。お金を稼がないとねーと思っただけ」


 お前、金ばっかだな。

 ホント、ヘイゼルと足して2で割った方がいいと思う。

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