第036話 フラグ? 旗?
ヘイゼルに水晶玉を出してもらった俺はヘイゼルに水晶玉を持たせたまま、水晶玉を覗き込み、詳細に黄金草を探してみる。
「うーん、あると言えばあるが、数も少ないし、まだ成長しきってないな」
「ならやっぱりやめましょう。時間を置いて、成長したら採取すればいいわ。毒草はある? 出来たらゲドゲド草がいいんだけど?」
ゲドゲド草ねー。
確か、トゲがあり、そのトゲに毒がある草だ。
名前がひどいと思ったから覚えている。
「エロイムエッサイム~」
「呪文?」
「適当」
「あっそ」
俺はヘイゼルが持っている水晶玉を覗く。
……さっきも思ったが、大きいな。
ヘイゼルは腹部の前で水晶玉を持っているため、どうしても大きなふくらみが視界に入るのだ。
また自分用のやつを買おうかと思ったが、それはやめて、今度からもこのスタンスで行こうと思う。
「あるなー。ただ数は少ないな……」
「元々、数が少ないやつなのよ。でも、トゲと根と葉がそれぞれ別に売れるから高額になる」
「いくらだったっけ?」
「1株で金貨2枚」
黄金草の倍か……
これだな。
「よし、探そう」
俺はおっぱ……水晶玉を見るのをやめ、カバンからダウジング棒を取り出した。
そして、両手に持ち、探し始める。
「モンスターが出そうなら言って。あと、ゲドゲド草の採取は私がやるわ。あれは触ると危ないの」
お前が採取すんの?
大丈夫か?
この前のお前の黄金草採取はヤバかったぞ?
「わかった」
俺は専門家で経験がありそうなヘイゼルを信じることにし、ダウジング棒が指している方向へ歩いていく。
そのまましばらく歩いていくと、両手に持っている棒が左右に大きく開いた。
下を見ると、トゲのついた草が生えている。
ゲドゲド草だろう。
「ヘイゼル、あったぞ」
「うん。じゃあ、採取するね」
ヘイゼルはそう言うと、しゃがみこみ、ゲドゲド草に手を伸ばす。
「大丈夫か? お前、採取が苦手…………」
俺はヘイゼルを心配しながら覗き込み、声をかけていたが、途中で声が止まった。
なぜならヘイゼルがゲドゲド草に手を近づけると、ゲドゲド草が消えたのだ。
「毒があるから普通に採取するのは危ないの。だからこれが一番安全!」
ヘイゼルは誇らしげに立ち上がった。
「収納魔法か?」
「うん! こういう時に便利!」
ふーん……
収納魔法で採取できるんだねー。
ヘイゼルちゃんってすごいんだねー。
「お前、俺に言うことない?」
「え? あ、見つけてくれてありがとう! ちゃーんと分け前は当分だから!」
違う。
そうじゃない。
「そうか。まあいいや」
「え? 違うの? 何?」
「いや、いいよ。次を探そう」
「ねえ、何? 言ってよー」
ヘイゼルはすごく気になるらしい。
「お前、そんな便利なことが出来るのに、俺に黄金草を88株も手作業で採取させたんだな。汗を流し、腰を始めとする全身を痛めた俺はなんだったんだろうな?」
「……………………」
俺の腕を掴んで揺らしていたヘイゼルの動きが止まった。
「いや、いいんだよ。気にするな、我が親愛なる師よ」
「…………いやね、だって、ほら、そのー…………ね?」
ヘイゼルが媚びたような目で見てくる。
「わかってるよ。お前は収納魔法を知られたくなかったんだよな?」
どうりでこいつの採取がド下手だったわけだよ。
不器用以前にそもそもやったことがなかったのだろう。
「ご、ごめんね? や、やっぱり金貨100枚をあげるよ…………」
あと、こいつって、金で解決しようとするところがある。
貴族らしいと言えば、貴族らしい。
「いいんだよ。貸しにしとくから」
「あのー、すでに返せないくらいの借りがある気が…………」
知ってる。
だから一生、俺の仕事を手伝わせるって言ったの。
魔法を教え終わった後に捨てない契約なんかマジでどうでもいい。
「大丈夫、大丈夫。気付いたら違う意味の借金地獄になってるってことはないから」
というか、すでに遅いね。
「あ、あの、水晶玉を返すよ……」
「お前、男が女に渡した贈り物を返却するのか?」
たった2万円だけどね。
「え!? …………………………これ、やっぱりそういう意味? そうか…………うん、そうか…………じゃあ、返さない!」
ヘイゼルはぶつぶつと何かをつぶやいた後、返却を拒否してきた。
「返せなんて言ってねーよ。後生大事に持ってろ」
今度からはお前がそれを持った状態で占うんだから。
「わかった!」
「じゃあ、次に行こう」
「よーし! ねえねえ、あんた、長男?」
「ウチは一人っ子だよ」
急にどうした?
「そっかー。私は次女!」
お前、姉がいるのか…………
◆◇◆
俺とヘイゼルはその後もゲドゲド草を始めとした毒草や薬草を採取し続けた。
先ほど、ゴブリンと遭遇した際には、俺が初級魔法を使って倒そうと思ったが、1発では倒すことが出来ず、ヘイゼルが処理した。
そして、昼をまたぐ前に大森林から出ると、そのまま帰ることにした。
「うーん、ゴブリンが倒せん」
まさか、魔法ですら倒せんとは……
「あんたはまだ覚えたばっかりでしょ。少しずつ、練習していきなさいよ。あと、ゴブリンって弱いんだけど、意外と生命力があるの」
ゴキブリみてーだな。
なお、我が家にゴキブリはいない。
ゴキブリ嫌いな母が謎の結界を張っている。
「まあ、銃よりかはマシか……」
ハンドガンでは怯まなかったゴブリンも俺の火魔法の前には足が止まった。
「お前、ウルフはどうしてんだ? たまにだが、出るんだろ?」
前に門番の兵士から大森林の浅い所ではゴブリンとウルフが出ると聞いている。
「ウルフは魔よけの石があれば来ないわ。ちゃんと持ってきてる」
魔よけの石……
俺も持ってるな。
「これか?」
俺はカバンから石ころを取り出す。
「それそれ。あんたも持ってんじゃん。じゃあ、私のはいらなかったかな…………それ、どうしたの? 買った?」
「いや、クレモンにもらった」
「クレモン様から色々もらったのねー」
ホントにな。
それこそ、あいつには返せない量の恩がある。
「あいつのご先祖様が異世界人らしい」
「へー。それは知らなかった」
「ご先祖様はこっちに来た時に苦労したのかは知らねーけど、他の異世界人にも気を使うように言ったんだってさ」
ありがとう、クレモン一族。
ありがとう、ご先祖様。
俺とヘイゼルは今日も友好を深めながら歩いて帰り、冒険者ギルドに直行した。
そして、受付にいるガラ悪マッチョの所に行き、清算をしてもらう。
「今日は黄金草じゃないのか。しかし、お前らって、いつも昼に帰ってくるのな。午後からも働けよ」
ガラ悪マッチョが手袋をし、慎重に採取してきた毒草を確認しながら苦言を呈してくる。
「疲れた」
「私にそんな体力があると思ってんの?」
俺とヘイゼルはすぐに反論した。
「まあ、好きにすればいいんだがなー。冒険っていうのはもっとこう心躍るもんだ。最近の若いのにはわからんかねー」
わからんでもないけど、キツいのは嫌だ。
「わかんないわよ」
まあ、ヘイゼルはわからんだろ。
貴族の女魔法使いだもん。
「んー、金貨7枚と銀貨8枚かな。めんどくせーから金貨8枚だな」
適当だな、おい!
「おー! すごい! いつもの倍以上だ!」
ヘイゼルが喜んでいる。
「じゃあ、金貨8枚なー。あ、あと、リヒトには昨日の分の金貨1枚も渡しておくわ」
性病をもらった冒険者のやつね。
俺とヘイゼルは金貨8枚をもらい、等分で分けた。
そして、昨日のケインとかいう冒険者を占った分の金貨1枚も受け取った。
これで今回の儲けは金貨5枚となった。
「よーし、今日は終わり。ガラ悪ー、酒くれ」
「ガラわ……ギルマス、私も」
「あいよー」
ガラ悪マッチョは『俺って、ガラ悪いかな?』とつぶやきながら奥で酒を用意する。
そして、奥から酒を2つ持ってくると、受付に置く。
「ケインのおごりだ。めっちゃ感謝してたぞ」
早期発見で良かったな。
「私の分も?」
「お前には昨日、絡んで悪かった、だって。まあ、あいつは普段はまともなくせに、酒が弱くて酒癖も悪いからな」
「いつものことね。有難くいただくわ。」
やっぱり酒に弱かったか。
フラフラしてたもんなー。
俺達は酒を受け取り、テーブルに着くと、ヘイゼルに酒を冷やしてもらい、乾杯した。
「黄金草ほどじゃないけど、結構、儲かったなー」
「半日で金貨4枚なら十分過ぎよ。これで3日は研究に専念できるわ」
魔法の研究かな?
「明日は休むか?」
「あ、いや、待って。ちょっと数日は続けてもいいかしら? お金というより、あんたの魔法と2人での仕事を慣れたほうがいいと思う」
まあ、そうかも。
初級魔法を覚えたばっかりだし、もうちょっと見てもらった方がいい。
そうなると、あっちの世界には帰れないな。
あとでフィリアのところに行って、謝ってくるか……
「じゃあ、そうしよう。午後からにするか?」
「午前中でいいわ。明日はちゃんと起きるし」
「寝坊してくれてもいいぞ。ちゃんと起こしにいくから」
眼福、眼福。
「絶対に起きるわよ!」
ヘイゼルは俺の言いたいことがわかったらしい。
「お前は今日、この後、どうするんだ?」
「あー…………そうね……実は親愛なる我が弟子にお願いがあります」
「なーに?」
「ちょっと賃貸の部屋がどうだったかフィリアに聞きに行きたいのよ」
ん?
行けよ。
「いいと思う」
「それで、ついてきてくれない?」
「いや、俺もフィリアに用があるからいいけど、なんでついてきてほしいの?」
一人でトイレにいけない女子か?
それともフィリアが嫌いか?
「私、教会が苦手なんだよね」
あー……っぽいわ。
こいつ、魔女だし、教会が似合わなさすぎる。
「なんとなくわかるわ。じゃあ、飲んだら行くか」
「お願い。さすがは我が弟子」
情けない師匠だなー。
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