第034話 冒険者はガラが悪いのしかいねーのか?
「それでさー、明日からの仕事はどうすんの?」
ヘイゼルの部屋でそこそこの時間が経ち、ようやく明日からの仕事の話になった。
「黄金草が一番だが、正直、厳しいだろう」
「この前だけで88株だもんね。あんたがその前に採っていることを考えると、浅いところはもうないかも…………遠出すれば、浅いところにもあると思うけど、泊まりになるわね」
泊まりかー。
以前にもこの町に来る時に野宿をしたが、俺はお客様状態だった。
「お前、野宿とか野営とかしたことある?」
「一応、あるけど、ほとんどやったことない。ソロだし、私に頼られても困る」
だろうなー。
「俺もきつい。この町に来る時は馬車で寝泊まりをさせてもらったけど、それでもきつかった」
「私も! 私も! せめて布団くらい用意してほしかったわ!」
ホントだわ。
あんな堅い木の板の上で寝れるかってんだ!
「泊まりで黄金草はないな。モチベーションが上がらん」
「そうねー。じゃあ、モンスターでも狩る?」
「と言っても、お前の魔法でオーバーキルだろ? 魔石も素材も採取できん。一応、俺もギルマスから剣でも習おうかと思ってはいるんだけど」
「ふっ…………」
…………鼻で笑われたぞ、おい!
「なんで笑うん?」
「いや、あんたが剣を振るっているところが本当に想像できなくて」
「お前、ひどいな。俺はこの剣でゴブリンを倒したことがあるんだぞ!」
「もうゴブリンで自慢する時点でね…………あんたは剣を学ぶ必要はないわ。体力をつけるのは良いことだと思うけど、絶対に向いてない」
まあ、自分でも向いていないとは思うが……
「身のこなしだけでも覚えた方が良くない?」
「付け焼刃は危険なの。やるなら極めるくらいの気持ちじゃないと。ちょっと使えるようになると、調子に乗って死んじゃう。そういう冒険者は多いのよ」
「なるほど。確かに危険っぽい」
「あんたは精霊との親和性が異常に高いし、魔法は使えるとは思う。そっちの方がいいわ。そのために私がいるんだから」
さすがは先輩冒険者で我が魔法の師だ。
言葉の重みが違う。
俺なんか銃を持ってるだけで、あとは平和な国で生まれ育った日本人だもんなー。
剣を振るって、人やモンスターを殺せるか疑問だ。
「わかった。俺が前衛になるのはやめておこう」
「うん。安全な仕事を選びましょう。せっかく、あんたは危険を避けれる能力を持っているんだからわざわざ自分達から危険に突っ込むことはないわ」
となると、そういう仕事を探すか。
「ちょっとギルドに行って、依頼票を見にいくか」
「そうね。見ながら考えましょう」
俺とヘイゼルは宿屋を出ると、冒険者ギルドに戻ることにした。
冒険者ギルドに着くと、仕事から帰ってきたと思われる冒険者がちらほらと見え、パーティーらしき数人で酒を飲んでいる者達も見える。
俺とヘイゼルは依頼票を見るために壁の方に行き、依頼票を見始めた。
「ホント、モンスターの討伐が多いな……」
「この町はそれがメインだからねー」
以前、フィリアにも大森林があるからって説明された。
「お前は普段どうしてんだ?」
「私は採取よ。モンスターを狩ることもあるけど、ちょっと特殊」
「特殊?」
「私は魔法士ギルドにも所属してて、収入の大半がそっちなの。魔法士ギルドの依頼は当たり前だけど、魔法関係の依頼が多くて、この前みたいなポーションの納品ばっかりなの。別に素材を買って作ってもいいんだけど、大森林に行って直接入手すれば、その分儲けになるのよ。ついでに薬草や毒草採取の依頼を受ける感じ。ほら、そこにあるでしょ」
ヘイゼルが指差した方を見ると、確かに毒草の採取の依頼がある。
というか、その依頼票周辺の依頼票も毒草だ。
「毒草がいっぱいあるけど…………」
「毒草は薬師も錬金術師も使うからね。毒消しの薬やポーションになるの。薬師や錬金術師は戦えない人が多いからここに依頼を出してるのよ。でも、ひとえに毒草って言っても種類があるからねー。私みたいに詳しい人間じゃないと受けれない。単純に危ないしね。毒だし」
ヘイゼルはこういう依頼を専門にやる冒険者なのか。
そして、魔法士ギルドの依頼もやっている。
こいつが金を持っている理由がわかるな。
「お前、すごいなー」
「でしょ! 伊達に魔法学校を出てないの!」
……中退だろ。
眩しいまでの笑顔だから言わないけど。
「採取依頼かー」
「とりあえず、私の仕事を手伝ってみない?」
「毒草ねー……」
「いや、まあ、毒草とは限らず採取よ。行ってみないと何が採取できるかわからないし」
チラッとヘイゼルを見ると、ヘイゼルはやる気満々だ。
ここはわが師の活躍を見た方がいいかもしれん。
「そうするかー。これも受付に言わなくていいのか?」
「採取依頼は大半がそうよ」
失敗してもいいわけだし、これにするか。
「じゃあ、やってみよう」
「うんうん!」
ヘイゼルはご機嫌な表情で頷いた。
「おい、ヘイゼル! 珍しく、誰かとつるんでんな!」
俺達が明日にやる仕事を決めると、後ろからガラの悪い煽り声が聞こえてきた。
後ろを振り向くと、テーブルで2人と酒を飲む大柄の男が俺とヘイゼルを見ていた。
「うるさいわね、ケイン! 放っておいて!」
気の強いヘイゼルは機嫌が悪そうに言い返す。
「そう言うなよー。そーんなもやしと遊んでないで俺達と飲もうぜ!」
もやし…………
いや、まあ、お前と比べればもやしだろうよ。
座ってても背が高いのはわかるし、腕なんか丸太みてーだもん。
「だーれがあんたらなんかと飲むか! 私は忙しいの!」
「いっつも昼間から1人で飲んでんじゃん」
「うっさい!」
冒険者仲間かな?
パーティーって感じではないが、ギルドでよく会うんだろう。
「おい、兄ちゃん、お前が最近、噂の詐欺師だろ? 詐欺師が冒険者ギルドに何の用だ?」
ヘイゼルに絡んできた大柄な冒険者はヘイゼルの大きな胸から俺に目線を移した。
「ふむ。では、お前を騙して、金を奪おうかな?」
「あははー! おもしれーことを言うな!」
こいつ、めっちゃ酔ってんな。
「リヒト、行きましょ!」
ヘイゼルが俺の腕を掴んで外に引っ張り出そうとする。
「まあ、待て……」
俺はヘイゼルの手をそっと離し、男が飲んでいるテーブルに近づく。
「なんだー? やんのかー? わはは。今なら勝てるかもよ? なにしろ、今、俺はお前が2人に見える」
確かにふらついているように見える。
こいつ、あんま酒に強くないな。
「飲みすぎだろ。しかし、俺が2人になっても勝てる気がせんな」
近くで見ると、ホント、強そう。
銃を使っても勝てそうにない。
「ふむふむ」
俺は男を至近距離まで近づき、じーっと見る。
「何だよー? 俺はそっちは勘弁だぜ! あははー!」
「そうだろうなー。昨日は楽しかったか? 久しぶりの当たりの女だったようだな」
「…………まあ、そうだな」
少しは酔いが醒めたか?
「俺は詐欺師じゃなくて、占いをやっているんだ。初回サービスで金貨1枚を払えば占ってやるぞ?」
「わははー! 本当に俺から金を奪おうとしているし!! めっちゃウケる!」
男はちょっと冷静になっていたが、すぐに大笑いをし始めた。
「そうか……残念だ。もう会うことないだろうが、気を強くな」
「騙されるかってんだ!!」
じゃあいいや。
帰ろ。
俺は男に背を向け、ヘイゼルのもとに戻ろうとした。
「リヒトー、占ってやれー。そいつはウチの主力の1人なんだー」
受付からガラ悪マッチョが声をかけてくる。
「お前が払うか?」
「今度、そいつの報酬から引いとくー」
勝手にやるなよ……
「はぁ!? おい、ギルマス! そら、ねーぞ!」
「うるせー。文句あっか?」
「あるに決まってんだろ!」
そらそうだ。
俺は踵を返し、再び、男を見る。
「何だよ? 俺は払わねーぞ?」
男も俺を見た。
「もう契約は成立した。お前、医者か薬師のところに行くといいぞ。じゃないと、数日後に地獄を見ると出た」
俺はそう言って、男の股間を指差す。
「へ?」
「信じるか、信じないかはお前次第。詐欺師の言うことと笑い、数日後に自殺を考えるほど悩むか、念のため見てもらい、やっぱり詐欺じゃねーかと笑うか…………どっちでも好きするといい」
俺がそう言うと、さっきまで笑っていた男は真顔で自分の股間を見た。
「けっ! だーれが信じるか! チッ! 酔いが醒めちまったよ! 帰ろ、帰ろー!」
男は何とも思ってないように言いながら走ってギルドを出ていった。
俺はそれを見送り、ヘイゼルの所に戻る。
「詐欺?」
ヘイゼルのそばに戻ると、ヘイゼルが小声で聞いてくる。
「さあ? 当たるも八卦当たらぬも八卦…………わからないね。ただ、明日はタダ酒が飲めるぞ。やったな!」
心優しき冒険者が奢ってくれると出た。
「本当か…………しかし、あのバカは…………リヒトは娼館なんか行っちゃダメよ」
行かないよー。
以前、占ったら不幸になるって出たんだもん。
門番の誘惑を振り払って、占いを信じて良かったわー。
あと、誰かさんが怖い。
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