第027話 まあ、この子に不満はないし、上手くいくとは思うけどねー
フィリアの祖父である教会の神父様からこの世界の巫女について詳しく聞いた。
そして、その中には我が母の汚点も含まれていた。
うーん、怪しい母親だとは思っていたが、あれがこの世界の人間で、しかも、3日だけはいえ、巫女だったとは…………
しかも、ロストの王族って言ってたな?
ロストといえば、ヘイゼルを思い浮かべる。
あいつは隣国にあるというロストの貴族なはずだ。
あいつに聞けば、母親のことについて、詳しく聞けるかもしれないと思ったが、よく考えたら母親の若い頃のこととか非常にどうでもいいことだった。
俺にしてみれば、あっちの世界の普通の母であり、母や父のかけおち話など、絶対に聞きたくない部類の話である。
それにロストの王族に関わる気はないし、巫女にも関わる気はない。
これはスルーだな。
問題は俺がギフトを授かっていない理由がこれのような気がすることだ。
父は異世界人というか、名前からして日本人だろう。
おそらく、こっちの世界に転移し、何らかの方法で母と共に日本に帰還した。
そこで俺が生まれたというのが一番しっくりくる。
つまり、俺の血の半分はこっちの世界の人間の血だ。
女神様からしたら俺は半分異世界人ではないし、巫女の力っぽいものも持っている。
翻訳の加護さえ授ければ問題ないだろうと判断したのかもしれない。
謎なのはアプリだが、これについてはさっぱりわからない。
一度、両親に話をしてみるべきかもしれないが、なんか話が長くなりそうだし、どうでもいいかけおち話とかを永遠に聞かされそうな予感がするので、当分は連絡を取りたくない。
「神父様、私のギフトはこの占いの力だったということにしようかと思います」
俺はフィリアのじいさんの話を聞いて、長考していたが、考えがまとまったので口を開く。
「それがいいかもしれん。未来視に似たギフトということにしよう」
何人かには俺のこの力はギフトではないと言ってしまったが、今後はギフトで通そう。
教会がうるさそうだ。
「ありがとうございます。神父様はこの町の重鎮に顔が利きますか?」
「貴様の言いたいことはわかっている。領主様、商人ギルドのオリバー、冒険者ギルドのルークは昔からの知己だ。話は通す。はっきり言うが、あやつらもお前がこの町に留まることを望んでいる」
まあ、それはわかる。
商人ギルドのオリバーからしたら金の匂いがする男。
冒険者ギルドのガラ悪マッチョからしたら便利そうな男。
領主様からしたら町の発展の役立ちそうな男。
だいたいこんな風に思っているだろう。
「この町には縁がある者もいますし、悪い町ではありません。少なくとも、当分はいるでしょう」
「そうか。まあ、この町に住む私としてもそのように言ってもらえると助かるな。フィリアの事もあるが、貴様の力は災害等にも強い」
一応、評価はされているらしいな。
「微力は尽くします」
「うむ。して? これからどうする気だ?」
「まずはフィリアと共に軍資金を集めます。それと同時に冒険者での仕事でしょうね」
「金か…………」
やっぱ孫娘が守銭奴なことを気にしてんなー。
「先立つものはそれです」
「まあ、そうだな……うむ、わかった。蛇のこともあるが、フィリアを頼む。こちらも上手くやっておく」
「よろしくお願いします」
俺は深々と頭を下げた。
用件が終わった俺は神父様に失礼し、部屋を出る。
部屋を出ると、フィリアが椅子に座っているのが見えた。
「終わった? おじいちゃんの高笑いが聞こえてたけど」
まあ、あんだけでかい声を出していれば聞こえるか…………
「終わった。お前には色々と話さないといけないことがある」
「私も聞きたいね。あんなにご機嫌なおじいちゃんも久しぶりだし」
ご機嫌すぎだよ。
「さて、帰るか……」
まだ2日しかこっちの世界にいないが、随分といる気がするなー。
ヘイゼルやフィリアのじいさんみたいな濃い連中と関わっていたからだろうな。
「帰ろ帰ろ。おうちに帰ろ!」
フィリアが嬉しそうに言うが、君のおうちは隣でしょ?
「さて、どこでアプリを使うか…………」
ここが悩みどころだ。
使えば、最低でも24時間は帰ってこれない。
宿で使えば、また若い男女が1日中、狭い部屋に閉じこもっている事になる。
とはいえ、外で使うのは色々と危険だ。
「私の部屋でいいじゃん」
「お前の部屋?」
「うん。そこだし、一人部屋だから誰も来ない」
それこそ女の部屋で1日も何してんだって話になるだろ。
「お前、外聞とか気にしねーの?」
「何を今さら…………」
「いや、若い男女が同じ部屋で1日中閉じこもってるんだぞ?」
絶対にそう思われる。
「いや、だって、前回もリヒトさんの宿でそうしたじゃん。もう皆、知ってるよ?」
は?
「皆って?」
「町の皆」
「なんで?」
「いや、こういう噂は早いんだよ」
そういえば、フィリアのじいさんも知ってた。
「リリー?」
「リリーさんも言ってるだろうけど、私があそこの宿屋に入った所を見てる人もいるだろうし、一緒に出てきた所を見てる人もいるでしょ」
この町の連中、噂が好きすぎでは?
「マジかよ…………」
「まあ、別にいいじゃん」
娶るという言葉が現実味を帯びてきたな…………
別にフィリアが嫌ということではないが、早いよ……
「ちなみに聞くけど、この世界ってそういう貞操観念って、どんな感じ?」
「別に自由じゃない? 不倫はダメだろうけど、未婚者が何をしても問題ないでしょ」
思ったより、緩いな……
「まあ、マズいのもいるけどね」
「マズいのって?」
「貴族とかそういうの」
まあ、それはわかる気がする。
「ちなみに修道女は?」
「貴族と同じくらいマズいね」
あ、こいつと幸せになるか、じじいに殺される未来しか見えない。
…………よし、保留。
どちらにせよ、今すぐではないだろう。
「じゃあ、お前の部屋に案内してくれ。俺も風呂に入りたいし、飲みたい気分だ」
「私もー」
俺はフィリアに案内され、隣の建物に入った。
建物に入ると、長い廊下があり、いくつもの扉が見える。
フィリアが一番手前の扉を開けて、中に入ったので、俺も続く。
「ここが私の部屋」
フィリアの部屋は6畳くらい広さであり、ベッドと机、あとは本棚がある程度だった。
「一番手前か……」
「私は冒険者だからね。朝早い時もあるし、夜遅くに帰る時もある。子供達もいるし、他の人達に迷惑だからこの部屋」
なるほどね。
「お前、菓子類のゴミはどうした?」
「あ、そうそう。それをリヒトさんのところで処分してほしかったんだ」
フィリアはそう言うと、ベッドの下をごそごそと漁りだす。
そして、布袋を取り出した。
「こっちで処分はマズいからなー」
「そうそう。この透明な袋とか見たことないしね」
ゴミの処分も考えないとなー。
「じゃあ、行くか」
「うん!」
フィリアはそう言って、俺の腕に抱きついてくる。
「あ、悪い。ちょっと検証したいんだが、いいか?」
「検証?」
「そう。俺はこのアプリであっちの世界に帰れる。この画面を見ればいいだけだ。じゃあ、お前は? お前もこの画面を見ているからか? それとも俺にくっついているからか?」
今まではフィリアと接触し、一緒にスマホ画面を見ることで転移している。
もし、接触がなければどうなる?
もし、スマホ画面を見ていなければどうなる?
その辺を検証したいのだ。
「えー…………それって、もし失敗したら私が取り残されるってことじゃん」
フィリアがめっちゃ嫌そうな声を出す。
「2日後に連れていくから…………」
「完全に飲む気だったのにー…………」
めっちゃ不満そうだ……
「じゃあ、検証はあっちでするか」
「そうしよう! 私、留守番する! 家で待ってる!」
そんなにあっちがいいか?
飯と酒と風呂とベッドか?
まあ、大人しく待ってるだろうし、両親も当分は帰ってこないからいいか……
「じゃあ、そうしよう。はーい、この画面を見るんだよー」
「はーい」
俺達は謎の掛け合いをしながらアプリを起動し、スマホ画面を見る。
そして、グルグル画面を見て、すぐに目の前が真っ白になった。
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