第026話 身内の恥
「して? 腹を割るとは? フィリアが何か?」
神父様が改めて聞いてくる。
「神父様、フィリアの蛇が見えているでしょう?」
「ほう……!」
神父様が目を細め、笑う。
「私は詐欺師かもしれませんが、本物の占い師であり、霊媒師です」
「失礼、霊媒師とは?」
「精霊を見ることが出来るという認識で構いません」
「なるほど…………」
神父様がひげを触りながら天井を見る。
「フハハ、本物か! 確かに本物だ!」
神父様が豪快に笑った。
雰囲気もさっきまでの優しそうな雰囲気から豪快な男になっている。
「左様です。もしよろしければ占いますよ?」
「初回は金貨1枚だったか? オリバーが次の10枚が高いって文句を言ってたぞ」
しゃべり方も変わっている。
こちらが素だろう。
「物の価値が分からんヤツは商人失格って言っておいてください」
「確かにそうだ! よし! 腹を割ろうではないか! 貴様にギフトはない。これは本当だ。だが、その力はギフトを超えるものだ」
「さっきはそれを見てたんですね?」
「わかるか?」
そらね。
見る時間が長すぎだもん。
ギフトがないならないってさっさと言えばいい。
「詐欺師は人を見ることから始めます。あなたが本当は腰を痛めていないのもわかります」
「観察力か……それに未来視と精霊を見れる…………女神様が貴様にギフトを授けなかったのもそれではないか? お前は持ちすぎだ」
お前にはギフトいらねーだろって女神様が思ったのかね?
もしくはスマホのアプリがギフトなのかもしれない。
「かもしれませんねー」
「正直に言う。これは上に報告せんといけない案件だ」
「どこがでしょう?」
「未来視や精霊が見れるのは巫女候補筆頭だ。まあ、貴様は男だが…………」
ヘイゼルも言ってたな。
巫女って、女限定なのかね?
「黙ってもらえると……」
「そうする。孫が悲しむ顔を見たくないしな」
あー…………外堀がー。
「感謝します」
「まあ、貴様はその前に逃げそうだがな…………未来視を持ってるヤツはこれだから……」
よくご存じで。
他にもいたの?
「以前にも耳にしましたが、未来視とは?」
「そのまんま。未来を見る力だ。巫女様しか持っていない」
今度から占いをする時はもっとぼやかそう。
トラブル臭がすごい。
「私は未来視など持っていませんね」
「うむ! きっとそうだろう! 私の鑑定でも貴様は持ってなかったと思う!」
おじいちゃん…………
金貨20枚を寄付しておいてよかった。
「話を戻します。フィリアの蛇なんですが?」
「それな。実は私もうっすらだが見えておる。だが、あれは精霊だ。どうしようもできん」
「私が見た限り、悪いものではありません。むしろ、フィリアを守り、守護するものです」
「そうなのか? 私にはそこまでわからん」
「私の故郷には守護霊という概念があります。それに似ており、基本的に厄災を追い払うものです」
「守護霊という概念はわかる。この辺りでは先祖だな。まあ、ご先祖様を大切にすれば、守ってくださるという考えだ」
前にもアンナに聞いたな。
「それです。それと同じく、あの蛇はフィリアを守っています。蛇があそこまで人に懐くのは初めて見ましたが、フィリアを相当、気に入っているんでしょうね。金運まで授けています」
「金運…………それでか…………」
神父様がこめかみを抑える。
まあ、気持ちはわかる。
教会関係者が守銭奴だもんなー。
しかも、自分の孫。
「まあ、いいことです。金は大事ですし」
「まあな」
「とまあ、このように大変に良い精霊なのですが、問題が一つ」
「わかる。フィリアを締め付けるのだろう?」
そこは神父様もわかってたか。
まあ、一緒に住んでるしな。
「蛇本人に悪気はないんですけどね。まあ、所詮、蛇ですし、本能でしょう」
「どうにかできんか?」
ようやく本題だ。
「3つ提案します。1つは祓う方法です。金貨100枚になります」
「高い。というか、精霊を祓うわけにはいかん。それと、発言に気をつけろ。ここは精霊信仰の教会だぞ」
やっぱマズいか…………
「1つの方法ですよ。2つ目はフィリアを鍛えます」
「鍛える?」
「フィリアに精霊を操るすべを教えます。金貨1000枚です」
1年もあれば、締め付けなくすることを指示できるくらいにはなるだろう。
「高いわ! というか、それが出来たらフィリアは巫女になってしまう。ダメだ」
「あなた、精霊信仰の神父でしょう? 孫が巫女になるなんて名誉では?」
出世できるかもしれん。
「巫女は苦行だ。聞いたことないのか?」
「聞きましたね。修行するんでしたっけ?」
「そうだ。食べ物から行動まですべて管理される。そんなところにたった一人のかわいい孫娘を送ると思うか?」
詐欺師に嫁ぐよりマシでは?
言わないけど…………
「では、やめましょう。3つ目は私が蛇の力を抑える案です」
「抑える? そんなことが出来るのか?」
「所詮は蛇。寝てもらいます」
封印とも言う。
「蛇だし、冬眠みたいな感じか?」
「ですね。フィリアの身体の中に封印します」
「うーむ…………よくわからんが、危険はないのか?」
「今いる蛇を体に入れるだけですよ。精霊なんて実体もないですし、別に問題はありません」
狐憑きじゃないけど、そこまで珍しいことではないし、難しくもない。
いや、普通の世界ではまず見ないことだけどね。
「それが一番現実的な気がする…………いくらだ?」
「金貨1000枚なんですが、親愛なる友人のために無料にしましょう」
ホントは金貨300枚だけどね。
「…………何が目的だ?」
神父様が俺を睨んでくる。
「まず、大前提ですが、フィリアの為というのは本当です。私はあの子と縁があり、大事なビジネスパートナーです。あと、教会の情報を流してもらいたい。特に騎士団が怖い。いくら占いがあっても避けられぬものもあります。それと、領主様に釘を刺してもらいたい」
「保身か…………」
「避けれるものは避けます、己の占いを過信する気もないです」
占いは必ずしも当たるとは限らない。
「まあ、よかろう。私は元騎士団だし、教会の情報も逐一入ってくる。領主の小娘も子供の時より知ってる」
何となくわかっていたが、この世界は教会の力が強いな……
このじいさんを絶対に味方にしなければならないだろう。
「では、3つ目の案になさいますか? 先に申しますと、あの蛇はそこまで危険なものではございません。放っておいても多少、苦しいだけで、命を奪うものではないです」
「貴様はフィリアの身体を見たことがあるか?」
「ないですね」
あるって言ったら怒るだろ。
「締め付けの痕がある」
そういうケースは実はある。
実体がないくせに身体に痕が残るのはよくあることなのだ。
「それは封印した方が良いでしょうね」
「そうだ。痕は回復魔法でいくらでも治せるが、治しても翌日には痕がついておる。あれでは嫁の貰い手もない」
「今後は大丈夫でしょう」
「そうだな」
じいさんが俺をガン見してくる。
そんな目で見んな。
めっちゃプレッシャーだわ。
「では、そのようにしましょう」
「契約書はいるか? 契約魔法があるが…………」
「証拠になりそうなものは不要です。私が裏切れば教会に突き出せばいい。私を裏切ったら殺す」
「殺す? お前のようなひよっこに負ける私ではないぞ? こう見えても騎士団の団長だったんだ」
団長だってさ?
すげーえらいんだろうなーって思ってたけど、やっぱりえらかった。
「人を殺す方法なんていくらでもありますよ。遠くにいても呪い殺せます」
「霊媒師って、呪術師かなんかか?」
「そういうのも出来るということです。トイレに行けない呪いとかありますよ」
「いやだわ! ボケ老人扱いされるわ!」
おじいちゃん、トイレはあっちですよ。
「まあ、お互い、裏切らないでしょうが、一応、そういう手段もあるということです」
「そもそも貴様を裏切るメリットが私にはないんだがな」
どうかね?
「この後、フィリアに事情を話し、対処します。まあ、すぐに終わりますよ」
「頼む」
じいさんが頭を下げた。
「それと、もう1つ、よろしいでしょうか?」
「何だ?」
「巫女についてお聞かせ願いたい。私の占いの程度を知りたい」
「それはたやすいことだ。そういうのを教えるのも私の仕事なのだ」
神父様だもんね。
「巫女は4人いると聞きました。火、水、風、土ですよね?」
「そうだ。教会が各地にいる巫女候補を集め、修行をさせる。その中で最も精霊との親和性が高い者が巫女となる」
「強制?」
「何とも言えん。貴族や王族は断るケースが多いが、平民は断り切れんだろうな」
ヘイゼルは断っていたが、あいつは貴族か…………
「巫女は巫女に選ばれれば、一生巫女なんですか? 引退とか?」
「基本的に一生だ。もちろん、病気とかもあるから必ずしもではないがな」
ベッドから起きれない重病人を巫女にはできないか……
「死んで空席となったところに巫女候補を補充する感じですか?」
「まあ、そうだな」
「巫女の寿命は?」
「私らと変わらん。普通だな」
精霊との親和性を高めるとか言うから無茶をしてるのかと思ったが、そうでもないらしい。
短命なのかなと思っていたんだが。
「能力は未来視の他には?」
「色々だな。それこそ精霊を操ったりもできるだろうが、実際に巫女様が何をしているかは私もわからん。有名なのが未来視なんだ。災害などを予知してくださる」
確かに俺の占いと似ているかもしれない。
俺も災害は読める。
「東西南北の国にいるんでしたっけ?」
「そうだ。北は火の巫女様がおられるノース国、西は風の巫女様がおられるウェイル国。南は土の巫女様がおられるサウス国、そして、東が水の巫女様がおられるイース国だ」
………………イース?
「イースですか?」
「そうだが? 知ってるのか?」
めっちゃ聞いたことあるし。
いや、待て!
「巫女様は死ぬまで現役でしたよね? 病気以外で引退された方は?」
「まあ、いないこともないな」
「東のイースでは?」
「いるぞ…………知らない者はいない伝説的な巫女だ」
じいさんは苦虫を噛み潰したような表情をする。
「伝説ですか?」
「ああ。巫女候補時代からとてつもなく優秀であり、すでにどの現役巫女よりも優れていた。実際、当時の巫女様よりも先に水害を予知してたりもした。そして、前の水の巫女様が高齢で引退した際にその後釜に入った」
「きっと皆も期待したでしょうな」
「ああ。だが、彼女は伝説だった。たった3日だ。たった3日で逃げた。しかも、男とかけおち。最悪だ」
ふむふむ。
「かけおちとは物語が出来そうですね。きっと刺激的な男性だったのでしょう」
「刺激はあったんだろうな。そいつは貴様と同じ異世界人だった。巫女様はその男の異世界話を聞くうちに巫女業に嫌気がさしたのだろう」
「よくそんな男と会えましたね?」
「当時は巫女様とも普通に会えたんだ。あんなことがあってからは制限がかけられたがな」
でしょうねー。
二度と起こってはいけない悲劇だ。
「捜索は? 連れ戻せばいい」
「どうやって? さっきも言っただろう。未来視を持ってるヤツをどうやって追う? 貴様もそうだろうが、未来視を持っているヤツはすぐに追っ手を予想し、別の場所に逃げる。実際、何度も情報を掴んで追ったが、尻尾すら見えずに捜索は打ち切りとなった」
まあ、危険そうな所はだいたいわかるもんなー。
「一応、その巫女様の名前を教えていただけますか?」
「誰でも知ってるぞ。ロスト王国の第3王女だったソフィア様だ」
ほうほう。
俺も同じ名前の人を知ってる。
やーさんから金をせびり、宝くじで1等を何度も当てた女。
そして、サスペンスドラマを見ながら競馬新聞を読むのが趣味の我が母、黒木ソフィアだ。
「悲しい事件ですねー」
「まったくだ」
今度会ったら怒っとくよ!
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