第025話 じじいは大抵、強キャラだよね?


 俺はフィリアを連れ添って、階段を下りた。


「リリー、ちょっと教会に行ってくる」


 俺はフィリアを侍らせまま、リリーに行き先を告げる。


「かっけー。結婚しに行くようにしか見えないし、聞こえないよ」


 リリーが笑いながら茶化してくる。


「神父様に会いにいくだけだよ」

「腕を組んだまま? フィリアちゃんの保護者に? かっけー」


 ダメだこりゃ。

 この状況ではどう言っても、そうにしか見えない。


「今日は帰らないと思う」


 多分、そのままあっちの世界に戻るだろう。


「へ? マジで言ってる?」

「教会には泊まらんし、新居でもないがな。仕事だ」


 本当は仕事でもないけどね。

 帰省だ。


「なーんだ。泊まらなくても料金は返さないよ?」

「大丈夫。あと、これ」


 俺は明日の分の飴をリリーに渡した。


「はいよー。明日には戻るん?」

「多分な。もし、ヘイゼルとかいう魔法使いが訪ねてきたらそう言っておいて」

「りょーかい」

「じゃあ、行ってくる」

「いってらっしゃーい。フィリアちゃんもまたねー」

「はい!」


 俺とフィリアはそのままの状態で教会に向けて歩いていく。


「離し時を逃したなー」

「わかる」


 しばらくこのままで歩いていたが、正直、歩きづらいので離れたい。


「離れろ」

「はーい」


 フィリアも素直に離れた。


「お前のじいちゃんはどんな人だ?」

「優しいおじいちゃんだよ」


 そりゃ孫には優しいだろうよ。


「他に情報はない?」

「うーん、元騎士団だね」


 はい、怖いことが確定!


「強い?」

「もう60前の年寄りだよ」

「うーん、紳士なキャラで行くか」

「もう無理だね。だって、この町でリヒトさんを知らない人はもういないよ」 


 手遅れか…………


「まだ、数日なのに噂が出回るのが早くないか? いくら俺がよそ者とはいえさー」

「皆、噂が好きだもん。ましてや、詐欺師に占い師。食いつく、食いつく」


 奥さん、知ってるー? 占い師ですってー。

 あら、私は詐欺師って聞いたわー。

 いやねー。

 ホントよねー。


 こんな感じかな?


「まあいい。めっちゃ強そうな宗教家……相手にとって不足はない」

「何の勝負をしにいくの? ギフトでしょ」


 お前の蛇のこともあるんだよー。


 俺は覚悟を決め、フィリアに教会まで案内してもらった。


 教会はテレビで見たことがあるような建物であり、いかにも教会って感じだ。

 そして、その教会の横には大きな平屋が併設されている。

 学校の体育館よりも広いと思う。


「あれが孤児院?」

「だねー。孤児院兼私らの家」

「大きいな」

「まあ、孤児や修道女も住んでるからねー。騎士団が駐留する時も使う」


 それで大きいわけか。


「神父様は?」

「昼間はこっち」


 フィリアが教会の方を指差す。


「さて、行くかね」

「腕を組む?」

「話が変わっちゃうからやめて」


 殴られる可能性がめっちゃ上がる。

 もし、その時が来るとしても、準備や仕込みというものがあるのだ。

 いきなりはない。


 俺はフィリアに案内され、教会の中に入った、

 教会はあっちの世界と同じく、椅子が並んでいたが、その先には十字架ではなく、絵が飾ってあった。


 その絵は女の人が立っている絵だ。

 多分、女神様だと思う。


「こっちだよー」


 俺が絵を見ていると、フィリアが横にある扉を指差す。

 そして、扉まで行くと、ノックした。


「はい?」


 扉越しに男性の声が聞こえる。


「フィリアです。お客様をお連れしました」

「入りなさい」


 男性の許可を得ると、フィリアは俺の方を向き、入るように促してきた。


「失礼します」


 俺は扉を開けると、そう言い、中に入る。

 部屋の中は執務室のようで、白いひげを生やした老人が椅子に座っていた。


「ようこそ我が教会へ。申し訳ないが、座ったままで失礼するよ。最近は腰がねー」


 老人は腰をさすり、優しそうな笑みを浮かべた。

 確かに温厚そうなじいさんだ。


「構いません。お初にお目にかかります。私はリヒトと言います。最近、この町にやって来た冒険者です」

「これはこれはご丁寧に。私はこの教会の神父を務めているディランです。そこにいるフィリアの祖父に当たります」

「存じております。お孫さんにはお世話になっており、今日もこうして紹介をしてもらった次第です」

「そうですか。こちらこそ、我が孫がお世話になっているようで…………」


 俺のことを知っているか……

 まあ、噂になってるって言ってたし、神父様なら知ってるわな。

 ましてや、孫娘とつるんでるんだもん。


「何も知らない私を助けてくれる立派なお孫さんです。実は私は異世界人という者らしいのです」

「ほう! それは大変に苦労したでしょうなー」


 神父様の目が見開いた。


「いえ、私には素晴らしい出会いもあり、幸運にもたいした苦労をしませんでした。この町に来ても多くの人にお世話になっております」

「うむうむ。女神様のお導きでしょう。先に謝っておきます。この町の住人をあまり悪く思わんでください」

「何がでしょう? 良くして貰った覚えはあっても、悪くされたことはありません」


 実際、ない。

 基本的にこの町の人はいい人が多いと思う。


「あなたのことを詐欺師とか言っている者がいるでしょう?」


 俺はそれを聞いて、フィリアを見る。

 フィリアはそっぽを向き、天井を見上げていた。

 俺はそのわざとらしさに苦笑する。


「詐欺師と呼ばれるのは慣れてますよ。占い師ですし、実際、似たようなこともしていますしね。詐欺師と呼んで笑ってもらえるならこちらもこの町になじみやすいです」

「それならいいのですがね。皆も悪意があって言ってるわけではないのです」

「わかりますよ。占い師が来たよりも詐欺師が来たって言う方が話は盛り上がりますし、酒の肴にもなるでしょう」


 俺がそう言って笑うと、神父様は俺の目をじーっと見てくる。


「ふむ…………まあいいでしょう。それよりも今日は何用でこちらに?」


 神父様は何かに納得すると、用件を尋ねてくる。


「先ほど、私が異世界人と言いましたが、実はギフトがわからないのです。異世界人は女神様からもらえるものだと聞いたのですが…………」

「なるほど。それでしたか…………申し訳ありませんが、金貨20枚かかりますよ?」


 やっぱ20枚だ。


「フィリア」

「はーい」


 俺はフィリアを呼ぶと、フィリアは神父様に袋を渡した。

 神父様は袋の中身を確認すると、机の引き出しにしまう。


「確かに。では、見てみましょう。その前にフィリア、お前は退室していなさい」

「なんで?」

「ギフトは当人にとって重要なものだ。他人のお前が聞いていいものじゃない」

「なるほど。じゃあ、リヒトさん、私は外で待ってるからー」


 フィリアはそう言って、部屋を出ていった。


「申し訳ない。根は良い子なんですが、少々、おてんばでして……」


 フィリアが退室すると、神父様が頭を下げてくる。


「いえ、元気でいい子じゃないですか。素晴らしい子ですよ」

「そう言ってもらえると…………あの子をよろしくお願いいたします」

「もちろんです」

「感謝します…………では、見てみましょう」


 神父様は俺のことをジーっと見始める。


「………………………………」

「………………………………」


 …………まだ?


「…………ふぅ」


 長い沈黙のあと、神父様が息を吐いた。

 そして、右手で目を揉むと、そのままこめかみを抑える。


「失礼ですが、あなたは本当に異世界人でしょうか?」


 この反応でもうわかった。


「ギフトがありませんでしたか?」

「はい…………」

「そんな気はしていました。友人に異世界人はギフトをもらった時にその力がどんなものかわかると聞いていました。だが、私にはその覚えがない。つまりギフトをもらえなかったということです」


 まあ、ある程度、予想はしていた。


「この世界には、たまに異世界人が現れます。昔は迷い人と呼んでいました。何かの事故でこちらの世界にやってくる右も左もわからない人間を助けるために女神様が力を授けます。それがギフトです」

「まあ、何らかの原因でもらえなかったのでしょうなー」

「その可能性もあります」


 もしくは、俺がただのとち狂った現地人という可能性もある。


「まあ、いいでしょう。幸い、加護は頂いており、会話も文字も問題ありません」

「お力になれず…………料金はお返ししましょう」


 神父様は引き出しを引き、先ほどの金貨が入った袋を取り出す。


「いや、それは結構。何もないということが分かっただけで十分です」

「そういうわけには…………」

「では、寄付ということで納得してください。孤児院もあるでしょう」

「わかりました。ご厚意に感謝します」


 神父様は再び、引き出しに金貨が入った袋をしまった。


「もう一つ、用件をよろしいですか?」

「何でしょう?」

「フィリアのことです」

「フィリア? ああ、なるほど…………私が言うのも何ですが、あの子は器量も良く、しっかりしています。きっと支えてくれるでしょう」


 いや、お孫さんをください、じゃねーんだけど…………


「違います」

「…………町中を腕を組んで歩いてたとか、宿屋で1日籠りっきりと聞いているが?」


 あ、じいさんから変なオーラが!

 歴戦の猛者のオーラが見える。

 多分、霊媒師じゃなくても見えるやつ。

 多分、占い師じゃなくてもぶった切られる未来が見えるやつ。


「…………その話はまた後日です」

「さようですか…………早とちりしましたなー」


 じいさんは先ほどの優しそうな神父様に戻ってくれた。


「私にはもったいない子ですよ」


 ホント、ホント。


「お似合いですよ…………して、フィリアが何か?」

「神父様、腹を割って話しませんか?」

「いいでしょう。もはや我らは身内」


 いや、ちょっと待って。

 ホント、待ってよ。

 マジで娶るの?

 俺、まだ大学生なんだけど?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る