第024話 詐欺師を騙そうとするとはいい度胸だ


 黄金草の採取を始めた俺達は昨日の方向とは逆の方向に行き、採取を開始した。


 昨日は運良く群生地を見つけることができたため、一気に採取ができたが、今日は群生地を見つけることが出来ずに転々と生えている黄金草を採取していった。

 時にヘイゼルの魔法でゴブリンを倒したり、休憩しながら採取していったので30株の黄金草を採取し終えた時は昼過ぎだった。


 とはいえ、これでノルマである88株の黄金草を採取し終えたのである。


「ありがとう! ありがとう!」


 採取を終え、大森林を出ると、嬉しそうに黄金草を抱えたヘイゼルが涙を浮かべ、感謝してくる。


「良かったなー」

「この恩は絶対に返すからね!」


 うんうん。

 魔法を教えてもらうのとちょっとお仕事を手伝ってね。


「帰ろうぜ。お前も早くポーションを作った方がいいだろ」

「そうする!」


 ヘイゼルはテンションがマックスのようで抱えていた黄金草を一瞬にして消し、杖を持ち換え、歩いていく。

 俺はその後ろ姿を呆れて見つめた。


 …………最後まで隠せよ。


 俺は収納魔法を使っている現場を見なかったことにしてやり、ヘイゼルのあとを追う。

 そのまま、ご機嫌なヘイゼルの話を聞きながら歩いて、町を目指すと、西の門に到着した。


「本当はまたギルドで奢りたいんだけど、さっさとポーションを作って納品してくるわ。お礼は後日、ちゃんとさせて」


 西の門から町に入ると、ヘイゼルはすぐに足を止め、俺に頭を下げてきた。


「だなー。お礼というか、お祝いかな。お前が変態に買われなくて良かったパーティー」

「いや、実家を頼るってば」


 ヘイゼルは半笑いでツッコんでくる。


「…………お前が逃げなければなー」

「…………え?」

「お前は本来、二通りの道があった。実家を頼るパターンとそれすら嫌がり、何もかもを捨てて逃げるパターンだ」


 どっちに転ぶかは俺もわからない。

 それはその時のこいつ次第。


「マジ……? 特に何も考えてなかったけど」

「だからその時の感情で行動に走る予定だったんだろうな。お前が逃げた場合はすぐに捕まって奴隷落ちだ。その後は知らんが、まあ、想像はつくだろ」

「じ、実家を頼った場合は?」

「実家を頼った場合は両親がお金を立て替えてくれる。その後はわからんが、まあ、例のヤツと結婚かね?」


 もしかしたら婚姻がすでに破綻しており、別のヤツかもしれんが、親の考えは結婚だと思う。

 こんなドジを外に放り出すより、良いところの家庭に入れたほうがいいと思うだろう。


「最初に言ってよ!」


 ヘイゼルは顔を青くしながら文句を言ってくる。


「詐欺師の言うことを信じたか?」

「…………信じない」

「だろー? 自分で言うのもあれだが、俺も信じねーもん」


 初対面で胡散臭い占い師の言うことを信じるヤツはいない。

 それが不幸な話だったらなおさらだ。

 だが、仲間の忠告なら信じるだろう。


「お前、今度から契約内容をちゃんと確認しろ。俺が見てもいいし、フィリアを頼ってもいい。間違っても酒を飲んでいる状態で契約すんな」


 俺がそう忠告すると、ヘイゼルは首を上下に激しく振る。


「そ、そうする!」


 よしよし。


「じゃあ、さっさと作ってこい。俺はフィリアを探すわ」

「わかった! またね! 本当にありがとう!!」


 ヘイゼルは再び、頭を下げると、宿屋の方に走っていった。

 俺はそれを見送ると、フィリアを探しに歩き始める。


 フィリアはどこかな?

 教会か、市場か、冒険者ギルドか……


 俺は腰から剣を鞘ごと抜き、地面に立てた。

 そして、手を離すと、剣が倒れる。


「あっちか……」


 俺は剣を拾い、腰に差すと、剣が倒れていた方向に歩き出した。

 というか、この方向の先にあるのは俺が泊まっている宿屋だ。


 俺は歩いて、宿屋に戻り、中に入ると、受付にはサラでなく、母親の方のリリーが座っていた。


「ただいま」

「おかえりー。早かったね」


 俺が受付まで行き、リリーに挨拶をすると、リリーも返してくれた。


「今日は飲んでないからねー」

「冒険者はいいねー。昼間から楽しそうだ」

「リリーも飲めば? 誰も文句を言わんでしょ?」


 昼間に客は少ないだろうし、別にいいと思う。

 少なくとも、俺は気にしない。


「夜がメインなんだよ。今から飲んだら仕事になんないの」

「なるほどねー。フィリアは?」


 俺はポケットから飴を2つ取り出し、受付に置きながら聞く。


「上だよー。人の宿を密会の現場みたいに使うんじゃないよ…………あんたらは健全な未婚者なんだから外で堂々と会え」


 確かに浮気現場みたいだなー……


「別にコソコソしているわけじゃないけどね。たまたまだよ」

「ふーん。今日も一日中、こもりっきりかい?」


 やっぱ前回は何かやってるって思われてそうだ。


「いや、商売の話かな。すぐに終わるし、その後、教会の神父様に会いに行くと思う」

「たとえ反対されてもくじけるんじゃないよ!」

「フィリアをもらいにいくんじゃないよ。相談があるんだ」

「なーんだ。つまんない」


 女は色恋が好きだなー。


「今からリリーにサラをくださいって言おうかな」

「旦那を呼ぼうか?」

「いや、フィリアと密会してくる」


 怖いでーす。


「そうしなー」


 俺はフィリアが待つ自室に行くため、隣にある階段を上る。

 そして、部屋をノックし、中に入った。


 フィリアはこの前と同じ体勢で寝ており、その枕元にはちゃんと蛇もいた。


「精霊さん、お前はフィリアをどうしたいんだ?」


 俺はフィリアの傍まで行くと、蛇を触る。

 蛇は何も答えず、そのまま寝てしまった。


「蛇には言葉が通じないわなー」


 だって、爬虫類だもん。


「蛇ってなーに?」


 フィリアが目を開け、俺を見ていた。


 起きてたのか……


「おはよう。人のベッドでよー寝るな?」

「おはよう。あっちの世界のリヒトさんのベッドが恋しいよ」


 俺もだわ。

 あっちのふかふかベッドが良い。


「やることやったら帰るよ」

「連れていってね…………それで蛇って?」

「んー? お前、蛇に心当たりある?」

「すごくあるよ。夢にも出てくるし…………」


 出てくるのかー……

 意外と自己主張が強いのかね?


「これはデリケートだからどうするかはお前のじいちゃんに相談してからだわ」


 精霊となると、教会が怖い。

 もしかしたらフィリアのじいちゃんはこの蛇に気付いているかもしれない。

 それなのに勝手にどうかしたら教会を敵に回す可能性もある。


「そう……あ、それはそうと、砂糖が売れたよ!」

「おー! マジかー! いくら?」

「金貨54枚!」


 は?


「多くね?」

「頑張ったから! オリバーさんがすごく嫌な顔をしてた!」


 あのプロの商人みたいな人がそんな表情をするって相当だぞ。

 まあ、がめつい修道女が相手だからしゃーないけど。


「お前の取り分は金貨6枚でいいぞ」

「いいの? 金貨5枚と銀貨4枚だよ?」

「お祝いだよ」


 予想以上の額だったし、ボーナスだ。


「ありがとー。じゃあ、これ、金貨48枚」


 フィリアは袋を取り出し、中から金貨を6枚抜き、袋を渡してくる。

 俺はそれを受け取ると、カバンに入れた。


「確認しないの?」

「信用してる」

「そう? まあ、トイレには行けない呪いをかけられたくないから何度も数えたし、大丈夫だとは思うけど」


 たとえ、金貨が2、3枚足りなくても気にしないけどね。

 そんなもんはこれからの大仕事の前には誤差だ。


「残りも頼む。こっちも氷の輸送の目途が立った」

「ホント? どうすんの?」

「やはりヘイゼルとは縁があった。あいつ、収納魔法が使える」

「え!? ホント!? すごいことだよ!」


 フィリアの驚く気持ちはわかる。

 それくらいに貴重な魔法らしいしな。


「隠してたようだけど、見てたらわかった。あいつ、ドジすぎだわ。杖しか持ってねーのにポーションを10個持ってきたって言ってたし」


 しまいには目の前で黄金草を収納しやがった。


「あー……まあ、ポンコツ魔法使いだからねー。本人に言ったら泣きそうな顔をしてたからもう言わないけど」

「だなー」


 ドジのヘイゼル、成績は優秀だけど、バカなヘイゼルだったかな?


「それにしても、よくヘイゼルさんと上手くいったね? あの人が優秀な魔法使いであることは皆、知ってるけど、頑なにパーティーを組まない人だったのに」

「タイミングだよ。ピンチの時に声をかければ、人はそれが悪魔だろうが、飛びつく」


 実際、あいつは地獄の一歩手前にいた。

 それを直視したくなくて、酒におぼれていた。


「うーん、人助けをしたんだろうけど、リヒトさんが言うと、いかがわしいね」

「まあ、実際、詐欺師のテクニックだからねー」


 よく言えば、心理学を応用したコミュニケーションだ。


「詐欺師って怖いね」

「普通に生きてりゃ会わない人種だよ。まあ、悪いけど、フィリアもあいつを気にかけてやってよ。多分、そのうち、高慢ちきに頼んでくるから」


 借家のこと、契約書の確認。

 多分、俺にも頼るだろうが、同性であるフィリアに頼むことも多いだろう。


「それはいいけどねー。それでどうする? これでやることは終わった? あっちの世界に行こうよー。もう菓子類がなくなっちゃった」

「その前に神父様に会わせてくれ。帰るのはその後だ」

「あー……ギフトのことがあったね。金貨30枚も集まったし。じゃあ、金貨30枚をちょうだい」


 フィリアはそう言うと、右手を差し出してきた。

 俺はさっきの金貨が入った袋を取り出すと、金貨を20枚取り出し、フィリアの右手に置く。


「ん? 足りない…………」


 右手の金貨を見たフィリアが首を傾げたので、俺はフィリアの左手を取り、残りの10枚を置いた。


「……………………」


 フィリアは両手の金貨を見比べると、口元を引きつらせながら俺の顔を見る。


「高いチップだわー」

「き、気付いてたの……?」

「お前、最初に値段を聞いた時、20枚って答えかけて、30枚に言い直しただろ」


 この守銭奴は俺が出すと思って、値段を上げ、差額を懐に入れる気だったのだ。

 本当の鑑定料は金貨20枚。

 そもそも金を受け取るのは神父様であって、たかが修道女のこいつではない。


「か、返すよ!」

「いい。取っとけ。チップだ」

「高いよ…………」

「大丈夫。俺は気にしない」


 こいつにはそれ以上の額を稼いでもらわないといけないのだ。

 これくらいは気にしない。


「…………おじいちゃんを紹介するから教会に行こっか!」


 フィリアは金貨をしまうと、俺の腕に自分の腕を回しながら部屋を出ようとする。


「同伴出勤みてーだなー」

「…………私もそんな気分。あーあ、詐欺師を騙そうとして看破され、落とされそう…………その時はお願いだから娶ってね?」

「お前、それをよく言うなー」

「私も16だしねー。それに詐欺師の嫁も悪くないよ…………」


 フィリアの俺の腕を抱く力が強くなった。


 そこは詐欺師じゃなくて、霊媒師って言ってもらいたかった。

 せめて、占い師…………


 お前のじいちゃんに詐欺師だけど、孫をくれって言うの?

 俺がお前のじいちゃんなら殴るわ。

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