第022話 精霊も守護霊も地縛霊も悪霊も全部一緒


 ポンコツ魔法使いことヘイゼルはフィリアの蛇が見えるらしい。


「お前、知ってるん?」

「まあね。私は精霊魔法が専門なの」


 精霊魔法?


「何それ?」

「精霊に力を借りることで使える魔法よ」

「ほーん。精霊って?」


 そういえば、以前、商人ギルドのオリバーも精霊とか言ってたな。


「ちょっと待ってね…………」


 ヘイゼルはそう言うと、手を自分の胸の位置まで上げた。

 すると、ヘイゼルの手の周りがうっすらと光りだす。


「それが精霊か?」

「やっぱ見えるのか…………私の力ではここまでしか実体を出せないけど、この子たちの力を使って、強力な魔法を放つことが出来る。さすがにここじゃ使えないから見せてあげることはできないけどね」


 俺は何となくうっすらと光っているヘイゼルの手を握った。


「ちょっと! ダンスはしないわよ!」


 ヘイゼルが謎の文句を言うが、俺は無視し、不思議パワーを込める。

 すると、ヘイゼルの手の光が強くなってきた。


「え?」


 俺はさらに不思議パワーを強くすると、光が実体を現し始める。

 そして、その光は小さなトカゲへと変わった。


「………………は? へ? ほえー……」


 美しく優秀な女魔法使いは巨乳なことしか能のないポンコツへと変わった。


「これが精霊か?」

「私は何も知らない…………何も見ていない…………」

「トカゲだな」


 テーブルの上をのそのそと歩いている。


「くっ! とんでもないことが起きてるし!」


 ヘイゼルは頭を抱える。


「どうした? 説明しろ」

「私は火の精霊を呼んだの。でも、精霊を具現化できる人なんていない。それが出来るのは巫女様だけ!」


 巫女?

 赤い袴の人か?


「巫女ってなんだ? 俺は何も知らない異世界人なんだぞ」

「この世界は女神様が作ったのは知ってる?」

「聞いたな」

「女神様はこの世界を作った時に4つの精霊を作ったの。それが火、水、風、土の四大精霊」


 木はねーの?

 木霊が泣いてんぞ。


「それで?」

「この世界はその4つの精霊の力で維持されている。そして、その精霊を扱うことが出来るのが巫女様」

「4つの精霊ってことは4人いんの?」

「ええ、そうよ。その4人の巫女様は教会が管理する東西南北の国におられるわ」


 教会のくせに国があんのか。

 バチカン市国?


「お前も精霊魔法が使えるじゃん。巫女様じゃん」

「実際、私も巫女候補に選ばれたこともあるわ。辞退したけど」

「辞退? なんで? えらそうじゃん」

「巫女様は精霊との親和性を高めるためにそれは大変な修行を積むのよ。説明を聞いたけど、あれは苦行よ、苦行。この世界を支える巫女様には悪いけど、私は絶対に嫌」


 まあ、お前はそうだろうよ。

 高慢ちきだけど、酒ばっか飲んで俗っぽいし。


「それで? ヘイゼルがトカゲを出したことがマズいと?」

「出したのはあんたよ! こんなの事をできるって相当ヤバいわよ! というか、あんた男じゃん。巫女になれないじゃん! あ、頭がショートしそう」


 ポンコツだなー。


「この程度の霊で騒ぐか?」


 俺はつまみのジャーキーをじーっと見てるトカゲをデコピンで弾く。

 すると、怒ったトカゲは俺の指をパクッと噛んだ。


「いてーよ、バカ」

「バカはあんただ! ああ……四大精霊のサラマンダーになんてことを……」


 サラマンダー。

 火のトカゲ…………

 あ、こいつ、トカゲだ!


「こいつがサラマンダーね。それを1つやるからもう帰っていいよ」


 俺がそう言うと、トカゲはジャーキーを咥え、すぐに消えた。


「私は何も知らない…………何も見ていない…………」


 もう、そのポンコツ芸はいいよ。


「俺、本物だろー?」

「ああ…………詐欺師かと思ったらガチの人だった…………こいつ、絶対にヤバい…………」

「あんま言いふらさない方がよさそうだな」

「そうして…………」

「もし、教会に騎士に捕まったらヘイゼルと一緒に呼び出したって言うよ」


 というか、ほぼこいつのせいって言おう。


「やめて…………お願いだからやめて」

「じゃあ、お前も言うなよ」

「うん。言わないし、言えない。というか、信じてもらえないと思う」


 じゃあ、大丈夫だ。


「まあ、こんなことはどうでもいいわ。それよか、フィリアの蛇だ。お前もあれが見えるんだな」

「どうでもいいわけないじゃん…………」

「飲め。忘れろ」


 俺がそう言うと、ヘイゼルは酒をイッキする。


「よく考えたら一冒険者の私には関係ないわ!」


 ヘイゼルは飲み干したコップをガンッとテーブルに置いた。


 いいぞ!

 それでこそ酒で失敗するヘイゼルだ!


「そうそう。そんな世界規模の話なんてどうでもいいよ。それよりフィリアだよ」


 俺の右腕のフィリアだよ!


「あの蛇ね? あれも精霊だと思う。本人は気付いてないけど、めっちゃ巻き付いてるよね。初めて見た時はびっくりした」

「精霊? 守護霊だろ」

「守護霊? 精霊かと思ってたけど…………」


 俺は多分、両方とも見れるからわからんな。


「お前、この町の領主様に会ったことあるか? 美人の人」

「あるけど…………何回か依頼も受けたし」


 領主様の依頼を受けるってことはこいつは本当に魔法使いとしては優秀なんだろうな。


「その人の後ろにめっちゃ強そうな騎士の霊がいるけど、見えるか?」

「何それ!? 知らない!」


 見えないわけか。

 あれは守護霊で、おそらく領主様のご先祖様だ。

 ということは、こいつは守護霊は見えないけど、精霊は見える。

 つまり、フィリアの蛇は精霊ということになる。


「あの蛇は精霊か…………」

「やっぱり?」

「だなー。お前、あれをどう思う?」

「いや、でっかい蛇だなーとしか…………」


 使えねーなー。


「俺はあれをどうするか悩んでいる」

「どうするって?」

「あれはフィリアに懐き、フィリアを守っている。でも、締め付けて、フィリアを苦しめている」

「あー…苦しくないのかなとは思ってた」


 締め付け方が強い。

 あと、エロい。


「祓うべきかな?」

「精霊は祓わない方がいいと思う」

「なんで?」

「精霊は女神様が作ったこの世界を守るものだもん。それは四大精霊以外も一緒。なんで個人に憑いているかは知らないけど、精霊を祓うのはやめた方がいいと思う。教会を敵に回す行為よ」


 思ったより教会の力が大きいし、あの蛇を祓うのは得策ではないようだ。


「うーん、お前、フィリアに精霊魔法とやらを教えられないか?」

「無理。フィリアはあの蛇が見えてないもん。見えないと話にならない」


 ダメかー…………


「俺があの蛇を説得するかなー…………」

「やけにフィリアを気にするね? 別にあのままでも死にはしないでしょ。多少は苦しいだろうけど」

「まあ、フィリアは俺の右腕だからなー」

「さっきも商売の話をしてたし、ビジネスパートナーかな?」


 まあ、そんな感じかもな。


「お前は左腕な」

「いつの間に…………いやだ――――」

「腰が痛いわー」

「親愛なる我が弟子よ! 任せといて!」


 精一杯、俺より上に立とうとする気概は認めよう。


「やっぱりギフトのことを聞く時にそれとなく神父様を探ってみるかなー」

「そういえば、フィリアって、神父様のお孫さんだもんね」

「そうそう。お前って、なんだかんだ言って詳しいな」

「まあ、1年以上もこの町に住んでるからねー」


 そういえば、そうだったな。

 1年もいれば、町のことも詳しくなるか。


「話は変わるけど、お前って、ずっと宿屋暮らしなん?」

「まあねー」

「1年もか? そんだけいれば、借りた方が安くつかないか?」


 この世界の物価とかは知らないけど、日本では、長期の場合、ホテルに泊まるより、賃貸の方が安いだろう。


「え? そうなの?」

「俺に聞くなや…………ガラ悪ー! ガラ悪マッチョのルークさまー!!」


 俺は受付にいるガラ悪マッチョなギルマスを呼ぶ。


「何だよー?」


 ガラ悪マッチョは鼻をほじりながら用件を聞いてくる。


「長期にこの町にいる場合って、宿屋暮らしと家を借りるのってどっちがいいんだ?」

「長期って?」

「1年」

「1年もいれば、部屋を借りた方が安いに決まってんだろ。それ以上住むなら申請して定住した方がいいぞ。最終的には安くつく」


 俺はそれを聞いて、チラッとヘイゼルを見る。

 ヘイゼルは口を開けていた。


「だってよ」

「部屋ってどこで借りれるの?」


 こいつ、1年もいるのに何も知らねーんだな。

 そりゃ、フィリアもポンコツ言うわ。


「フィリアに聞けよ。こういうのは詳しそうだったぞ」

「あの守銭奴に頭を下げるの? そうしたら二度と頭が上がらなくなる気がするんだけど?」

「お前、さっき、俺に言ったじゃん。適材適所。お前にはお前の良いところがあり、フィリアにフィリアの得意分野がある」

「…………親愛なる我が弟子よ。フィリアを紹介して」


 お前の方が先に知っとるだろ!

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