第019話 カモが仲間になりたそうにこちらを見ている
人生の先輩であるガラ悪マッチョの素晴らしい講義を受けた後、俺は黄金草の依頼を申請しようとしたが、事後報告でいいらしい。
俺は時間を見て、3時くらいだったので明日にしようかなーと思い、酒を注文した。
実は昨日の酒が若干、残っており、あまり飲む気は起きていないが、お目当ての魔法使いが目の前にいるので酒を頼んだのだ。
そして、ちょっとご機嫌なガラ悪マッチョから酒を受け取ると、酒を持って、そのまま魔法使いのところに行く。
俺が魔法使いのそばまで来ると、魔法使いと目が合った。
俺はそのまま魔法使いと同じテーブルにつく。
「何?」
魔法使いは目を細め、俺を咎めるように睨んできた。
「小説は買えたか?」
「あ、うん。あり、ありがとう…………」
睨んでいた女だったが、慌てて、感謝の意を表してくる。
そんな女を見て、頷いた俺は無言で酒の入ったコップを女の前に差し出した。
「……………………アイス」
女はコップをじーっと見ていたが、すぐに意味を理解したようで、コップに向けて手をかざし、魔法名と思われる言葉をつぶやいた。
そして、コップを俺に前に返してくる。
俺は目の前のコップを持ち、口に運ぶと確かに冷えていた。
「冷えてた方が美味いな。味が全然違う」
「そりゃそうよ。ぬるい酒を美味しそうに飲んでる連中の気が知れないわ」
こいつはいつもここで冷えた酒を飲んでるんだろうなー。
1人で…………
「お前の名前を聞いてもいいか?」
「まずはあなたが名乗りなさい。それが礼儀よ」
こいつ、良いとこの出だな。
まあ、魔法使いは金持ちしかなれないってクレモンが言ってたもんなー。
「失礼……俺はリヒトという。最近、この町に来たお前と同じ冒険者だ。よろしく、ヘイゼル」
「私、まだ名乗ってない…………占ったの?」
「いや、フィリアに聞いたから知ってるだけ」
「……あんた、ムカつくわね」
ヘイゼルの好感度がガクッと下がった。
「いやー、ごめん、ごめん。よく詐欺師って言われるんだよー」
「知ってる。聞いたもん。やっぱ占い師を語る詐欺師か…………私は騙せないわよ」
ヘイゼルは俺を鼻で笑う。
「騙せないかー。それは残念だよ、ヘイゼル・バーナード様」
「――――ッ! 苗字は誰にも言ってない!!」
ヘイゼルは立ち上がり、机を叩いた。
すると、受付にいる職員たちが俺達を注目する。
「声のボリュームを落とした方が良くないか? 家出娘」
家柄を隠しているんだろう?
「くっ! マジでムカつく! なんで知ってるのよ!」
「まあまあ。おーい、ガラ悪マッチョー! こちらのレディーに酒のおかわりをー!」
俺は受付で鼻をほじっているガラ悪マッチョに注文する。
「だーれがガラ悪マッチョだー。ギルマスかルーク様って呼べー。酒なー。ちょっと待ってろ」
あいつ、ルークって名前なのか。
空でも歩くか?
「俺が奢ってあげよう」
「あんた、昨日といい、押し付けがましいわよ」
「詐欺師なんだから押し売りに決まってるだろ。待っててもカモは来ないんだぞ?」
どこのバカが詐欺師に騙されに来るんだよ。
「私がカモって言いたいの? 舐めるんじゃないわよ」
これで好感度は地の底だな。
つまり後は上がるだけってことだ。
「いや、実はこれは挨拶みたいなものなんだよ」
「は? あんたの国の挨拶ってひどくない? 私の国ではケンカを売ってることになるんだけど」
俺の国でもそうだよ。
「ほらー、酒だぞー。ケンカするのはいいけど、殴り合いは外でやれよー」
ガラ悪マッチョがやってきて、ヘイゼルの前に酒を置いた。
そして、興味なさそうに受付に戻っていく。
「まあまあ、まずは飲んでくれ」
俺はヘイゼルに酒を勧める。
ヘイゼルは俺を睨んでいたが、すぐに酒に魔法をかけ、酒を飲んだ。
「いやー、いい飲みっぷり。ほれぼれするねー」
「あんた、絶対にそのうち誰かに刺されるわよ」
そうならないための占いであり、不思議パワーなのだ。
「ごめん、ごめん。実はね、ヘイゼル先生に魔法をご教授願いたくてねー」
「…………あんた、交渉がド下手すぎるでしょ。この状況でいいよっていうヤツは頭の中がお花畑だわ」
「ダメー?」
「ダメ。たとえ、あんたが好意的に近づいてきてもお断りよ」
それがわかってるから煽ってるんだけどねー。
「今なら占い料をタダにしてあげるよー」
「いらない。私は占い師みたいな胡散臭いヤツらは嫌いなの」
「それは自分が魔法使いだから?」
「そうよ。魔法は偉大で素晴らしいものなの。それなのに人を騙すペテン師と一緒にされたら最悪よ」
実はペテン師もよく言われるんだよなー。
「まあ、そういう人もいるよねー。残念だわー。せっかく小説の事を教えてあげたのに」
「それはありがとう。もうダメかと思ってたやつだから素直に嬉しいわ。でも、お酒を冷やしてあげたでしょ? それでチャラよ」
「そっかー。もったいないことをしたなー」
「これっぽっちも思ってなさそうなところがマジでムカつくわ」
好感度が上がんないなー。
何故だろう?
「じゃあさー、ヘイゼル先生に師事することは諦めるから一緒に冒険しようよー」
「先生って言うのをやめなさい…………一緒に冒険? パーティーを組むってことかしら? それこそお断りよ。フィリアから聞いてないの? 私は誰とも組まないわ」
「ソロってやつ?」
「そうよ。あんたと一緒」
女1人は危なそうだが、こいつは魔法使いだ。
きっと危険は全部、魔法で解決するんだろうなー。
そう考えると、きっと優秀な魔法使いなんだろう。
「残念だなー。せっかくお近づきになれればと思ったのに」
「いや、せめて、もうちょっといい感じに誘いなさいよ……近づく気あったの?」
「あったよー…………せっかく黄金草採取の仕事を一緒にしようと思ったのになー」
「…………………………」
ヘイゼルが急に黙った。
「明日は1人で10株は採取できると思うな。でも、優秀な魔法使いと一緒ならその倍以上はいけるな」
うんうん!
「…………へー。まあ、頑張んなさいよ」
こいつは嘘も下手だし、交渉事も下手だな。
「帰るか…………」
「まあ、待ちなさいよ。あんた、全然飲んでないじゃん。ぬるくなってんじゃない? サービスでもう1回冷やしてあげるわ」
ヘイゼルは慌てて俺を止めると、俺の酒を取り、魔法で酒を冷やし始める。
そして、酒を冷やすと、俺の前に置いた。
俺はその冷えた酒を飲む。
こいつ、マジでカモだわ。
「やっぱ冷えた方が美味いね」
「でしょー。特別サービスよ、感謝なさい」
ヘイゼルは笑いながらうんうんと頷いている。
「俺は2割でいいなー」
「ん? 何が?」
「黄金草。10株採取したら2株でいいってこと。残りの8株はいらない」
俺がそう言うと、ヘイゼルが真顔になり、俺をジーっと見てくる。
「……………………聞いていい? なんで私が黄金草を求めていることがわかるの?」
何を今さら…………
「お前、昨日、興味なさそうに酒を飲んでたのに、俺が黄金草を持って帰ったらあからさまに動揺してたじゃん」
「…………あー、なるほどー」
ヘイゼルは心当たりがあるようで、ちょっと悔しそうだ。
「大丈夫。ちゃんと残りの88株を集めるまで付き合ってあげるからさ」
「………………クソ詐欺師が……! 全部知ってんじゃねーか!」
「何をー?」
「私が受注をミスってポーションの納品が間に合いそうにないことよ!」
そうなん?
そこまでは見えていなかった。
「いや、俺が見えたのはお前が違約金で借金を背負って、どうしようもなくなって、親に泣きつくところ」
「……………………あんた、占い師じゃないでしょ」
「占いだよー」
「……………………それ、未来視じゃん」
未来視ってなーに?
未来を見る力かな?
「まあいいじゃん。で? どうする? 親に泣きつく? それとも外国に売り飛ばされる?」
「……え? 私、売り飛ばされるの? 奴隷?」
「プライドを優先して親に泣きつかなきゃそうなるでしょ。違約金を払えないんだから」
俺がそう言うと、ヘイゼルの顔が青ざめる。
「いや、この国は奴隷禁止…………」
「この国はでしょ。だからオーケーな国に輸出だよ。あとはまあ…………」
ご主人様にその巨乳でご奉仕しなさい。
「親に泣きつく…………でも、そうなったら私は…………」
どうなるのかね?
そこまでは見る気はないけど、少なくとも冒険者は続けられないだろうね。
「あんたと組めば、間に合うの?」
「88株なら3日で集められるからねー。あとはヘイゼルの錬金術とやらの腕次第でしょ。俺の取り分は2割って言ったけど、俺は急いでないし、今ならそっち優先でいいよー」
「採取に3日…………帰って夜に作れば…………間に合う」
よかったね。
「ごほん…………まあ、組んであげてもいいわよ」
ヘイゼルはわざとらしく、咳ばらいをし、上から目線で言ってくる。
「じゃあ、魔法を教えてねー」
「し、仕方がないわね。弟子を取るのも魔法使いの使命だもん」
「ついでにちょっと他の仕事も手伝ってね。そっちのノルマが終わってからでいいから」
「そ、そうね。助け合いは大事だし、しょうがないわ」
ネギを背負ったカモだったな。
「どこの宿に泊まってるの?」
「向こうのもくもく亭っていう…………いや、その情報いる?」
ヘイゼルは素直に泊まっている場所を言いかけたが、不審に思ったようで聞いてくる。
「明日の朝、迎えに行くよー」
「ここでよくないかしら?」
「お前、依頼の目途が立った喜びで今夜は飲みすぎる。そして、明日は遅刻すると出た」
「納品が終わるまで、お酒を控えるわ…………」
そうしなさい。
お前、酒で受注をミスったんだろ。
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