第018話 結婚は人生の墓場という言葉には良い意味と悪い意味がある


 フィリアと共に宿屋を出た俺は一度家に帰るというフィリアと別れ、冒険者ギルドに向かった。

 冒険者ギルドに到着すると、さっさと中に入る。


 ギルド内は相変わらず、人がほとんどおらず、2、3人が依頼票を見ている程度だった。

 ただし、テーブルに座っている魔法使いが昼間から酒を飲んでいるのも確認できた。


 俺がギルドに入ってきた時、その魔法使いと目が合ったが、ひとまずはスルーし、受付で暇そうにしているガラ悪マッチョのところに行く。

 なお、今日も例の美人さんはいなかった。


「よう! 今日は遅い出勤だなー」


 俺がガラ悪マッチョのところに行くと、丁寧だった商人ギルドとはまるで違う歓迎を受ける。


「疲れたから寝てたんだよ。それよか、黄金草の依頼はまだあんのか?」

「あっちに行って自分で確認しろよ……ったく、あるよ。というか、普通の薬草もだが、黄金草はずっとあるよ。いくらあっても困らないからなー」

「そうなん? 黄金草って、何に使うんだ?」


 美味しいのかな?


「そんなことも知らねーのか…………薬草と一緒でポーションの材料だよ。薬草よりも品質が良いのが黄金草って思ってりゃいい」


 薬草で低級ポーションが作れて、黄金草で高級ポーションが作れるって意味かな?


「ポーションって俺でも作れるか?」

「なんだお前? 錬金術師にでも転職する気か? 器材とかいるし、錬金術師は特殊だぜ? やめておいた方がいい」

「ポーションは錬金術師なのか?」

「だなー。薬師もいるが、そいつらは薬を作る。錬金術師はポーションだ」


 違いがわからん。

 まあ、日本でも薬剤師は難しいらしいし、専門的な知識がいるだろう。

 俺には無理だな。


「じゃあ、地道に黄金草でも採取するか…………」

「地道っていう意味を理解してないみたいだが、まあ、そうしな。お前向けの仕事もちょっとは考えてる」

「どんなん?」

「人探しとか、偵察とかかなー。出来るだろ?」


 占いで人は探せるが、偵察は微妙だな。


「俺、めっちゃ弱いぜ?」

「見りゃわかるし、知ってる。ちゃんと護衛とかはつけるし、安全に配慮するよ」

「思ったより、良心的だなー」


 もっと、ブラックな感じかと思ってた。


「特殊な技量を持っているヤツは貴重だからなー。魔法使いやお前みたいな専門職は他が何人死のうが守る」


 占い師をやっててよかった。

 普通の冒険者はやっぱ超絶ブラックだったわ。


「じゃあ、いいや。何か決まったら教えてくれ。占いで受けるか決めるから」


 いくら指名されて大金を積まれようが、不幸が訪れるのが決まっているのに受ける気はない。


「めんどくせーな。でも、お前に断られたらヤバい仕事って思えばいいか。鉱山のカナリヤだなー」


 毒ガスを教えてくれるやつかな?

 というか、こっちにもカナリヤがいんのかい…………


「そうしな。俺は当分の間、黄金草で稼ぐわ」

「そういえば、お前って、いつまでこの町にいんの?」

「決めてないが、当分はいるぞ。知り合いも出来たし、猫ちゃんが帰ってきてないしなー」

「ふーん。ミケはともかく、定住する気はないのか?」


 定住ねー……


「家でも買えってことか?」

「まあそうだなー。買わなくても借りるっていう方法もある。定住の手続きをすれば、住民税は取られるが、何かと便利だぞ」


 なんでそんなことを冒険者ギルドが勧めてくるんだよ。

 いや、あの美人さんの差し金だろうけど。


「考えておく。この町は風水的にも悪くないし、当面、戦争はなさそうだしな」

「風水的にはってのはよくわからんが、この町で戦争は起きないのか?」

「少なくとも、当分はないね。空気もよどんでないしなー。あー、でも、モンスターの危険はあるかもしれん」

「まあ、大森林が目の前だしな。モンスターはあるだろうよ」


 その時は逃げるか、あっちの世界に避難だな。


「ふーん。まあ、定住するにしても、まずは金だわ」

「金ならすぐに稼げるだろ。黄金草もだし、お前、フィリアと組んで金儲けを企んでるじゃん」


 どいつもこいつも情報が早いな。


「よく知ってるな」

「まあ、この町もそこそこの大きさだが、コミュニティは狭いしなー。お前みたいな胡散臭いヤツの情報はすぐに入ってくる。実際、昨日の夜にカミさんからも聞いた。市場の端っこで、一人でぶつぶつとつぶやく不審者がいたって」


 フィリアの親父さんを送った時のやつだな…………

 はた目から見たら不審者以外の何者でもないからしゃーない。


「てめーの嫁にちゃんとした冒険者だって言っとけ」

「大丈夫。詐欺師だから話しかけられても無視しろって、言ってある」

「お前の嫁に幸せになれるツボを売りつけることが決定したわ。というか、お前、結婚してんの?」


 どっから攫ってきたんだよ。


「そら、してるわ。俺、30ちょいだぜ? お前もさっさとしろ。確か、そんなんでも20歳だろ?」


 え? お前、40オーバーじゃねーの?

 老けてんなー。


「お前でも結婚できるんだなー」

「金あるしなー」


 ギルマスだし、金は持ってそうだな。


「なあなあ、この世界…………というか、この国の結婚の価値観ってどんな感じだ?」

「アバウトすぎて聞きたいことがわかんねーよ」

「さっき俺が20歳だから結婚しろって言ってたじゃん? 皆、そのくらいにはしてんの?」

「大体はするな。まあ、職業や状況にもよるから絶対ではないが、少なくとも考えはする。なのに、お前、全然しそうにねーもん」


 随分と早いな……

 あー、でも、日本も昔は早かったって聞いたことがあるな。

 あと、よく考えたら俺の両親も早いわ。

 結婚がいつかは知らないが、母親は俺を19歳で産んでいるはず。


「冒険者もか? 明日死ぬかもしれねーのに結婚すんの?」

「は? 明日死ぬかもしれねーからさっさと結婚するんだろうが」


 価値観が合わなすぎる…………


「女はよくそんなヤツと結婚しようと思うな」

「女も売れ時とかあるしなー。若いうちにいいのを捕まえて、さっさと旦那の金を管理するんだよ。冒険者は危険だが、収入はいいからな」

「いや、普通に農家に嫁げよ」


 そっちの方が安定してると思う。


「朝から晩まで汗を流して、はした金か? 農村連中ならまだしも、この町みたいな商業や冒険者家業が中心の町でそんなところに嫁ぐ女はいねーよ」

「ふーん。まあ、だいたいわかったわ」

「年長者がアドバイスしてやると、男も女も若いうちがいいぞ。歳を取るとひねくれるし、子供の事があるからなー」


 その辺はあっちの世界と一緒だな。


「お前、子供いる?」

「いるぞ。女の子が3人、男の子が4人。お前は絶対に近づくなよー。教育に悪い」


 めっちゃ失礼なことを言うなー。


「お前が親の時点で手遅れだ。しかし、多いなー。7人もいんの?」

「まあ、嫁さんが2人いるしな」


 まーた、理解できないことが増えたよ。


「2人もいるの?」

「あー、お前の故郷では1人までかー。いや、そういう国もあるぞ。でも、この国は自由な国だからそんな制限はない。甲斐性次第だな」

「じゃあ、俺が誰かと結婚して、ミケを飼っても大丈夫?」

「お前、そのミケを猫扱いするのをやめろ。マジでそのうち、獣人どもに殺されるぞ? あと、ミケを諦めろっての。めっちゃ嫌われてんじゃん」


 猫ちゃん…………

 3食お魚にしてあげるから家に来ないかな……


「ダメかー」

「というか、嫁さんが許すか次第だわ。あと、家に2人も嫁がいるって冷静に考えると、きついぞ?」


 …………お前がきついわけね。


「若さゆえに奥さんを2人ももらって両手に華だーって喜んでたら奥さん2人に尻に敷かれてきついわけね」

「いやいや! 何を言う!? 俺はとっても幸せだぞ。不満なんてこれっぽっちもない。こいつら、交互にうるせーなー、なんてこれっぽっちも思ってない」


 …………思ってるわけね。


「いつもありがとう。愛してるって言ってやりな。そうすれば、あと、2、3人子供が出来ると出た」

「勝手に人の家庭を占うんじゃねーよ!!」

「奥さん2人のサービスも良くなると出てる」

「料金は金貨1枚だったっけ?」


 まいどありー。

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