第017話 戻ってきたぜ!(どっちの世界にか、混乱する今日この頃)


 フィリアがお風呂に入ったので俺はリビングに戻り、1人で酒を飲んでいる。

 もちろん、一緒に入るのはやめた。


「当面は砂糖をフィリアに任せて、俺は黄金草採取をするか…………」


 ガラ悪マッチョが俺向きの仕事を考えてくれるって言ってたし、その辺を聞いてもいいかもしれない。


「明日はギルドで依頼のチェックだな……あとはあの魔法使いか…………」


 俺の占いではあの魔法使いとは縁があると出ていた。

 フィリアにも出ていたやつだ。


「魔法か…………」


 あの魔法使いに師事を頼んでもいいかもしれない。

 さっきフィリアには身体をきれいにする魔法を教えてもらった。

 だが、クレモンからもらった攻撃魔法は一向に覚えることが出来ていない。


「やっぱり人に教えてもらった方がわかりやすいだろうしな」


 今日の午前中に恩は売ってやった。

 次の接触はスムーズだろうし、簡単には断りにくいだろう。

 あとは口で誤魔化せばいい。

 伊達に詐欺師…………じゃない、霊媒師をしていないのだ。


「あとはギフトか…………」


 俺は異世界人だからギフトがあるらしい。

 だが、正直、俺はあまり期待が持てていなかった。

 だって、全然、わかんないし、こっちにいた時とあまり変わらない気がする。


「まあ、なくてもいいかー…………」


 俺はほぼあきらめの境地で酒をグイっと飲んだ。


「上がったよー。見て見てー! この髪、すごくない?」


 風呂から上がったフィリアがリビングに戻ってくると、すぐに俺のところにやってくると、髪を自慢してくる。


「すごいなー。サラサラだし、艶もある」


 さっきまでは普通の金髪だったのが、今は輝いて見えるし、手触りもサラサラで手から零れ落ちていく。

 惜しいのはこいつの服がジャージなことだ。

 色気がない。


「女性にはこれが売れるね。絶対に貴族や王族が飛びつくよ!」


 要するに売っちゃダメってことね。


「明日、帰る前にコンビニで買ってやるよ」


 コンビニなら売ってんだろ。


「ホント!? 絶対に砂糖を金貨500枚以上で売ってあげるからね!」


 砂糖は銀貨1枚で買えるんだけどな…………


「頼むわー。それよか寝な。俺も風呂に入ったら寝るし」

「そうするー」


 俺はフィリアを連れて、2階に上がり、自室に入る。


「ここなー」

「おー! そこそこベッドが大きい」


 両親ほどじゃないがそこそこのサイズがある。


「朝には起こすからなー」

「わかったー」

「おやすみー」

「おやすみー。あ、夜這いをしてもいいけど、その時は娶ってね」


 まだ言うか…………悩んじゃうっての。




 ◆◇◆




 俺はフィリアを寝かせ、風呂に入った。

 そして、風呂から上がると、すぐに寝た。


 翌朝、朝早くに起きた俺はフィリアを起こす前にコンビニに行き、シャンプー類を購入した。

 そして、俺のベッドでスヤスヤと眠るフィリアを起こし、コンビニで買った朝食を食べる。


「このサンドイッチっていうのも美味しいねー」

「だなー。フィリアはあっちの世界に帰ったらどうする?」

「一度、家に帰るよ。その後に商人ギルドでギルマスのオリバーさんに話をしてみるつもり。リヒトさんは?」

「俺は冒険者ギルドで依頼の確認かな…………あと、魔法使いに用がある」


 占いによると、ギルドに行けば会えると出た。


「魔法使い? 女の子?」

「そうだよ。知ってるの?」

「あー……ヘイゼルでしょ。黒髪でいかにも魔法使いって格好の」


 あと巨乳ね。

 フィリアも結構あるけど、あっちはそれ以上だ。


「知り合いか?」

「まあ、そうかな。あの子、何度もクランが誘っているんだけど、かたくなに拒否するんだよね」

「女が集まったっていうクラン?」

「そうそう。女性冒険者は大抵がこのクランに所属するんだけど、あの子は入る気がないみたい」


 まあ、そういう人もいるだろう。

 俺が昨日見かけた時も1人だったし。


「ボッチかな?」

「誰かといるところは見たことがないねー。最近はギルドで朝からお酒を飲んでる」


 俺もそれを見たわ。


「ふむふむ。なるほどねー」

「ヘイゼルがどうかしたの? 狙ってる?」

「いや、魔法を師事しようかと思って。俺が冒険者をするには魔法だろ」

「あー…………まあ……悪いけど、勇ましく剣を振るっている姿は想像できない」


 俺もできない。

 そういうのはガラ悪マッチョみたいなヤツの役目だ。


「それ、アンナにも言われたわ。だから護身用に魔法を覚えたい。クレモンにもらった魔法の教本を見ても、いまいちなんだよねー」

「まあ、魔法は人に教えてもらった方がいいのは確かだよ。私もおじいちゃんに教わったし」


 こいつは回復魔法を神父様に教わったのか……


「俺に回復魔法を教える気はない?」

「嫌だねー。絶対に嫌」


 思ったより拒否されたな。


「なんで?」

「ヒーラーから回復魔法を取ったら価値がないじゃん。私のアイデンティティを奪わないで。言っておくけど、ヒーラーは全員が同じことを言うよ。ヒーラーは下手すると、ポーション一つで地位を奪われるし」


 パーティーで皆が回復魔法を使えたら専門職はいらなくなっちゃうってことかな?


「うーん、無理かー」

「教えるのは身内くらいだよ。もしくは大金を積む」


 フィリアを娶れば教えてくれるのかね?

 いや、こいつは余計に教えてくれなさそうだ。


「攻撃魔法もそんなん?」

「そこはちょっと違う。同じ攻撃魔法でも使い手によって威力が段違いだからねー。でもまあ、普通は教えないね。単純に時間がかかるし、めんどくさいもん」

「交渉次第か…………まあ、得意分野だな」

「ひゅー! さすがは天下の詐欺師様だよ!」


 詐欺師って言うな…………

 天下をつけるな…………


「まあ、上手くやるさ。昨日、恩を売ってやったし、占いでも縁があるって出てた」

「縁ねー…………うーん、まあいいか」


 フィリアは何かを悩んでいたようだが、すぐに納得した。


「どうした?」

「いーえ。私の人生設計のことです」

「金か?」

「先に言っておきます。私は守銭奴って言われるのが嫌いです」


 めっちゃ思ってたわ。

 気をつけよ…………

 というか、よく言われてるんだろうなー。


 俺はこれからの発言に気を付けようと思いながらサンドイッチを頬張った。


 朝ご飯を食べ終えると、時刻は8時を過ぎており、アプリの充電期間はすでに超えている時間となっていた。

 俺とフィリアはそれぞれあっちの世界に戻る準備をし終えた。


「よーし、帰れるぞー」

「微妙な気分…………あんまり帰りたくないな。ご飯…………お風呂…………ベッド」


 たった1日でこの女は骨抜きになったようだ。


「明日には連れて来てやるから」

「お願いねー。あー、それとお金を払うから時計が欲しいなー。あと服と化粧品と…………」

「わかったから…………買ってやるから明日な」


 父親が女は金がかかるって言ってた意味がよくわかるわ。

 まあ、金を稼いでいたのはどちらかと言うと母親の方だけど。


「わーい。よーし! オリバーさんにふっかけるぞー」


 この子は本当に頼もしいわ。


「じゃあ、帰ろうか」


 俺はそう言って、フィリアに向けて、手を差し出す。


「わかったー」


 フィリアは俺の手をスルーし、腕に抱きついてきた。

 俺は腕に当たる柔らかいものを感じながらアプリを起動させ、スマホを2人で見える位置に掲げた。


「怖くないからねー、この画面をジーっと見るんだよー」

「昨日、リヒトさんが言ってた意味がわかります。そこまでいくと、逆に信用できますよ」


 そうやって騙す悪い詐欺師……じゃない、霊媒師なんだよー。


 俺はふざけながらもスマホのぐるぐる画面を見た。

 すると、すぐに光で何も見えなくなった。




 ◆◇◆




 光が消え、我に返ると、俺が借りている宿屋の部屋に戻ってきていた。

 もちろん、隣には腕を抱いているフィリアもいた。


「一応、確認するけど、夢じゃないよね?」

「現実だよ。カバンの中身を見てみな」


 俺がそう言うと、フィリアはカバンを開き、中を覗く。 


「菓子パン、スイーツ、シャンプー…………現実か」


 フィリアはカバンの中身を確認した後、自分の髪を触る。


「気持ちはすごくわかる」


 俺だって、いまだに慣れない。


「よし! 現実だ! やった!」


 フィリアは拳を握った。


 俺は前向きな子だなーと思いながら苦笑し、部屋を出る。

 そして、階段を降りていくと、受付には昨日と同じくリリーが座っていた。


「あんたら、今まで部屋にこもって何をしてんだい?」


 リリーからしたら24時間もあの狭い部屋で2人きりだもんな。


「寝てた。疲れたんだと思う。変なことはしてないぞ?」

「そら、変な声はしなかったしねー。でも、フィリアちゃん、嫁入り前の女がこういうことはあまり感心しないね。ましてや、あんたは修道女だろ」


 修道女だからっていうのはよくわからないないが、嫁入り前云々はわかる。

 やはりあらぬ疑いをかけてしまうな。


「大丈夫ですよ。女神様も祝福してくださるでしょう」


 ん?


「そうかい! ならよかった! しかし…………うーん、まあいいか」


 リリーは何かを喜んだようだが、すぐに俺を見て、テンションが下がった。


「お前、俺を見て、何かを憐れんだだろう?」

「気のせいだよ。それよか、渡すものがあるだろう?」


 俺はポケットから飴を2つ取り出し、リリーに渡す。


「1つはサラだぞ」

「わかってるよ。あんたは早く金を稼ぎな。こんな宿屋に泊まってるようじゃ、サラはあげないよ?」


 金を稼いだらサラをくれんのかい?


「リリーをもらってやろうか?」

「ウチの旦那とやるかい?」

「末永くお幸せに…………今日、サラに妹か弟を作ってやりな」


 お前の旦那って、食堂で料理を作っていたゴリゴリマッチョだろ!

 3秒で殺されるわ!

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