第016話 悩むなー……


 今後の作戦会議を終えた俺達は買ってきた食品を肴に昼間から酒を飲んでいる。


「このブドウはやばいね。甘すぎ」

「品種改良をしているだろうしなー」

「もうね、あっちのご飯が食べられなくなりそうだよ」


 どうでもいいけど、こいつ、どんだけ飲むんだ?

 もう朝の分も合わせると2桁に届くぞ…………


「まあ、持って帰っていいぞ。置いて帰っても腐らすだけだし」

「じゃあ、そうしようかな-。リヒトさんはいらないの?」

「俺は当分、あっちではあっちの飯を食べる。調査もだが、慣れておきたい」

「ふーん、絶対にこっちの方が美味しいのに」


 そら、お前はそう言うだろうよ。


「俺は子供の頃から食べてるわ。まあ、今度帰った時にも持ってきてやるよ」

「私も連れていってよー」


 今度もついてきたいらしい。


「まあいいか。声はかけるわ」

「おねがーい。他のも食べたいし」


 甘味がよほど気に入ったらしい。

 あとは酒だな。


「しかし、晩御飯はどうしようかな?」


 時計を見ると、夕方の5時を過ぎている。


「これでいいじゃん」


 フィリアがテーブルの上にある菓子パンやお菓子を指差す。


「俺は連続でそれはきついんだよ…………」

「他に何かあるの?」

「お前、何が好きだ?」


 外人どころか異世界人だが、日本食は大丈夫か?


「好き…………え? これ」

「菓子パンはいいから」

「うーん、そう言われても、パンとお肉とスープばっかだからなー」


 あっちの世界は食べ物のバリエーションが少ねーな。


「パスタでも食うか?」


 パスタをゆでて、レトルトソースをかけるだけなので、俺にも作れる。


「何それ?」

「小麦を麺にしたやつかな…………」


 多分、小麦だと思う。


「あー、聞いたことある。美味しいの?」

「味による」


 正確に言うと、ソースの種類による。


「わかんないから食べてみたい」

「じゃあ、作るわ」


 俺はそう言うと、立ち上がった。


「見ててもいい?」

「いいぞー。簡単なやつだし」


 俺は酒を片手に持っているフィリアを連れて、キッチンに行くと、お湯を沸かし始める。


「火がないのに水が沸いたし!」

「こういうもんなんだよー」


 ウチはオール電化だからなー。

 せめてガスだったら説明が楽だった。


 俺は沸いたお湯にパスタを2束ほど、ゆで始めた。

 その間に棚からパスタソースを取り出す。


「うーん、異世界人にたらこはやめた方がいいかもなー」

「全然、わかんない」

「カルボナーラでいいか。こいつは欧米人みたいなもんだろ」

「言ってる意味がわかんない」

「いいからお前は飲んでろ」

「はーい」


 俺はフィリアを黙らせ、準備を続ける。

 酒を飲みながら俺の手際をじーっと見ているフィリアが気になるものの、パスタのゆであがり時間になったので、パスタの水をきり、皿に移した。

 そして、パスタソースを混ぜていく。


「すごくいい匂いがするー」

「そうだろう、そうだろう」


 俺は準備が出来たのでフォークとスプーンを持って、パスタをソファーの前のローテーブルまで持っていく。


「ほれ、食べなさい」

「いただきまーす」


 フィリアは嬉しそうにフォークとスプーンを持ち、食べ始める。


 どうでもいいけど、修道女って、食事の前に祈るイメージがあるんだけど、異世界はないのかね?


「おー! めっちゃ美味しい! こっちの世界ってヤバいね!」


 俺も並んで食べるが、確かに美味い。


「ホント、美味いわ」

「ねー! これは…………持って帰れないか」

「別にお湯があれば作れるぞ。見てただろ」

「私の家、教会だよ? 他の修道女や孤児院の子供たちがいる。菓子パンは自分の部屋でこそこそ食べれるけど、さすがにこれは厳しい」


 お湯を沸かす必要があるから無理かもなー…………


「孤児院なんてあるの?」

「モンスターや戦争で死ぬからねー。どこに行っても孤児はそこそこいるよ。そういう子達は大抵、教会が面倒を見るね」


 やっぱ死ぬ人は多いのか……


「ぶっちゃけ、大丈夫なん? お金とか」


 いくら子供とはいえ、金はかかる。


「まあ、裕福じゃないけど、飢えることはないよ。寄付だってあるし、大抵の町では治安維持のために領主様が援助してくださるからね」

「なるほどねー」

「子供たちもかわいいんだけどねー。うるさいよ? 昨日だって、売る砂糖を狙ってきたから夜遅くまで格闘だよ」


 それで寝不足になって、俺の部屋で寝てたのね。


「まあ、楽しそうじゃん」

「まあねー。にぎやかではある。おかげで、私は両親がいないけど、寂しくはないね」

「身内は神父のおじいさんだけ?」

「だねー。私の両親のことは聞かないの?」


 スルーしたのにー。


「立派な最期だったよ。中々、できることじゃない」

「いや、まだ何も言ってないのに…………わかるの?」

「うん。戦時中に衛生兵をやってたんだね。無念だったみたいだけど、多くの命を救った英雄だよ。あ、娘をよろしくって言ってたよ」

「は? え? どういうこと?」


 フィリアの目が点になる。


「俺、霊媒師だから霊が見えるんだよー。アルトの町をお父さんがさまよっていたから成仏させた。まあ、よくあることだね」

「は? 成仏? 言ってる意味が…………」

「俺はね。占いよりもこっちが本業なんだよ。フィリアのお父さんみたいに道半ばで死んだ人は成仏できずにさまようことがある。立派な方だったから悪霊にはならないけど、浮遊霊になってたから成仏させたの」


 ちなみに、お母さんは成仏してるっぽい。


「……………………成仏したの?」

「したね。まあ、残留思念みたいなものだから正確に言うと、本人ではないけどね」

「理解できない。今日は色々あったけど、今が一番理解できない」


 見えない人はこれだから…………


「詐欺って思ってもいいよー」

「…………信じておくよ」

「まあ、別に除霊料は取らないし、信じようが信じまいがどっちでいいけどね。一応、言っておこうと思って」

「……いや信じる」


 詐欺師を信じるなって言ってんのに…………


「それならそれでいいけど…………」

「でも、こっちが本業って、お金にはなりそうにないね」

「あっちの世界ではまず無理だな」


 ツボも売れないだろうしなー。


「だねー。というか、こんな話は他でしない方がいいよ。特に教会関係者には」

「やっぱマズかった?」


 正直に言うと、修道女であるフィリアにこれを言う気はなかった。

 でも、両親の話を振ってきたから言っておこうと思ったのだ。


「マズいねー。教会は葬儀とかも取り仕切るし、悪魔祓いもする。下手すると、騎士団が飛んでくるよ」

「騎士団?」

「教会に所属する騎士様だよ。国の軍とはちょっと違うけど、かなり強い」


 こわっ!


「告げ口はしないでねー」

「しないよ。もうわかってると思うけど、私は敬虔な信者じゃないからね。修道女なのも実家の手伝いをしているって感覚だよ」


 祈るよりも金貨を数える方が好きって言ってたもんね。


「それは助かった」

「ねえねえ、明日の朝には帰るんだよね?」

「まあね。ただ、向こうは昼すぎ」

「じゃあ、本当はもうすでに夜遅いわけか……どうりで眠いわけだわ」


 お前は飲みすぎってのもあると思う。

 とはいえ、今は8時。

 向こうの時間では深夜の2時だ。


「お前をどこで寝かせるかなー」


 俺のベッドか両親のベッドか…………


「このソファーでいいよ。私の家のベッドより柔らかいし」

「そういうわけにもいかんわ。まあ、俺のベッドを貸してやる」

「いいの?」

「俺は10年ぶりに両親のベッドで寝るわ」


 嫌だけど、あっちの方がでかいし、いいベッドだから疲れは取れるかもしれない。


「じゃあ、お借りしようかな…………」

「あ、それと寝る前に風呂に入れよ」

「お風呂? あるの?」

「こっちではない家の方が少ないなー………………んー」


 俺はフィリアの髪を撫でる。


「なーに? 今度は髪?」

「今日、何回かお前の髪を触る機会があったが、お前、髪がゴワゴワだな」

「それ、女の子に言う!? ひどすぎ! ちゃんと毎日、といてます!」

「俺の髪を触ってみ?」


 俺はフィリアに頭を差し出す。

 すると、フィリアが俺の髪を触った。

 めっちゃ触ってきた。


「何これ!? めっちゃサラサラじゃん! 昨日、体を拭いただけのくせに!」

「こっちには髪専用の洗剤があるんだよー」

「よーし! お風呂に入ろうか!」


 女子はこういうのに食いつくな…………


「ちょっと待ってろ。準備してくる」


 俺は立ち上がり、風呂場に行き、お湯をためる。


「シャワーは…………使えるかね? フィリアー! ちょっとこーい!!」


 俺は大声でフィリアを呼ぶ。


「なに、なにー? って、お湯が出てる!? いや、驚かないぞー。きっとそういうものなんだ…………って、えー……」


 フィリアは浴室にやってくると、まずお湯が出ていることに驚いた。

 そして、すぐに冷静になったが、脱衣所にある洗面台の鏡を見て、変な声を出す。


「どうした?」

「こんなきれいな鏡を見たことないよ…………多分、この鏡で家が買える」


 マジ?

 鏡なんて安いやつなら100均で買えるぞ。


「1枚なら売ってもいいかもしれんな……」

「その場合は領主様にだね」


 あの美人か…………


「まあいいや。今、お湯を溜めてるのが浴槽。浸かって入るやつ。で、こっちがシャワー」


 俺はシャワーを操作し、お湯を出す。


「身体はこっちで洗えってこと?」

「そうそう。で、これが身体を洗う洗剤で、こっちが顔、そんでもって、これが髪」

「全部一緒じゃないんだ…………」

「あっちの世界にこういうのってあるか?」

「石鹸があるよ」


 石鹸はあるのか…………


「俺も差はよくわからんが、体の部位によって専用のものがある。ついでに言うと、これは…………なんだ?」


 トリートメントとコンディショナーの2つがあるぞ?

 リンスじゃねーの?

 母親のだから違いがわからん。


 俺は後ろに書いてある説明を読む。


「えっとだな、こっちのシャンプーで髪を洗った後にこっちのトリートメントで洗え。その後にこっちのコンディショナーだな」


 自分で言ってて理解できん。


「わかった!」


 まあ、わかったならいいか。

 俺は1時間後には忘れていると思う。


「着替えは置いておくからそれに着替えなー」


 母親のジャージでいいだろ。

 下着は知らん。


「うん。わかったー」

「あとこれがドライヤー。ここを押せば、熱風が出るから髪を乾かせる」

「はーい。ホント、すごいわ」


 俺は浴槽のお湯が溜まったのを見て、お湯を止め、浴室から出る。


「じゃあ、先に入れ。ゆっくりでいいからなー」

「わかったー」

「一緒に入るかー?」

「娶ってくれるならいいよー」


 ………………悩むな。

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