第015話 フィリアとお出かけ


 フィリアが着替えてる間、俺は一度、自室に寄り、服を着替えた。

 そして、リビングに戻り、酒を飲みながら待っている。


 どこに行くか…………何でもあるスーパーとホームセンターが一緒になったあそこに行くかな…………


 俺はスマホを操作し、一番近い店を探し、ルートを把握していると、リビングの扉が開いた。


「お待たせー」


 着替え終えたフィリアは白のロングスカートにグレーのスウェットを着ていた。


「まあ、そんなもんか……」

「似合ってるって言ってよー」

「似合ってるよ。でも、ちょい待て」


 俺はそう言って、フィリアの後ろに回る。


「お前、髪留めを持ってるか?」

「紐ならあるよ」


 俺はフィリアから紐を受け取ると、髪を1本に束ね、結んだ。


「束ねないといけないの?」

「別にそんなことはないが、ちょっと長すぎる」


 フィリアの髪は腰くらいまである。

 似合ってるし、別に構わないんだが、結んだ方がいいだろう。


「そうかなー?」

「まあ、たいした問題じゃないんだがな。出れるか?」

「うん」


 準備を終えたようなので、リビングを出て、玄関に向かう。


「あ、靴がない」


 向こうの世界は部屋の中でも土足だが、フィリアはベッドで寝ていたので裸足だ。


「そこのサンダルを履け」

「はーい」


 フィリアは素直にサンダルを履いたので、俺も靴を履き、家を出た。

 俺達はそのまま駅まで歩くと、電車に乗り、店を目指す。


「もうね。わけわかんないよ…………」


 フィリアはこの世界の街並み、車、電車に驚きっぱなしのようだ。


「異世界、異世界。向こうでの俺の気持ちがわかったか?」

「わかるわー。よく一人でいられたね。私が一人だったら絶対に泣いてるよ」


 わざとはぐれたら泣くかな?

 まあ、そんな小学生みたいなイタズラはしないけど。


「最初にクレモンに会ったのが良かったわ」


 色々と説明をしてくれたし、物までくれた。

 めっちゃ助かったわ。


「クレモン宰相かー。エスタを支える重鎮だね」


 そんなヤツが一人で行動するなよなー。

 俺にとっては好都合だったけど、宰相ともあろう者が一人で行動は危ないだろ。


「しかし、この電車? これもすごいし、建物もすごい。人も多いねー」

「この国は島国なんだが、1億人以上はいる」

「…………私、もう深くは考えないようにするよ。でも、人族しかいないね?」


 人族とは俺らみたいな普通の人間の総称だ。

 他にはミケのような獣人、見たことはないが、エルフやドワーフなんかもいるらしい。

 アルトの町にはそこそこ獣人がおり、ギルドや町中で見たことがある。


「この世界は人族しかいない。ミケを連れてきたら大騒ぎになる」

「あー……だからリヒトさんはミケをやたら構ってたんだね」


 あれはかわいい猫ちゃんだから…………


 俺達はそのまま電車に乗り、目的地の駅までの間、こっちの世界のことをフィリアに説明し続けた。

 そして、駅に到着すると、歩いて目的の店に向かう。


 10分ぐらい歩くと、店が見えてきた。


「あれ」

「大きいねー。あれが1つのお店なの?」

「専門店じゃなくて、色んなものが売ってる店だよ」


 俺達は店に着くと、中に入る。

 現在の時刻はまだ朝の9時のため、人は多くない。


 俺はカゴを持ち、手前の生鮮食品コーナーから見ることにした。


「野菜って売れるか?」

「売れないんじゃないかな? 似たような野菜もあるけど、これとか見たことないし」


 フィリアが手に取ったのはほうれん草だった。


「俺にはただの草にしか見えんな」

「まあ、当然、食用なんだろうけど、多分、皆、そう思うでしょうね」

「まだ、果物の方がいいか」


 俺達は隣の果物のコーナーに行く。


「果物は結構、共通してると思う。大きさとか色味は違うけど、これとかイチゴでしょ」


 フィリアとの酎ハイの会話でブドウ、桃、リンゴがあるのはわかっていた。

 どうやらイチゴもあるらしい。


「売れるならどれだ?」

「これ、全部食用だよね? お酒とかで使うやつじゃないんでしょ?」

「全部、食べるやつだな」

「うーん、どんな味だろう?」


 食べてみないとわからないか。


「食いたいものをこのカゴに入れろ」

「私、この世界のお金ないよ?」

「俺が出す。経費だ。この世界の金は金貨に換算すれば1000枚以上は持ってる」

「…………さぎ、じゃない、占いかー」


 いや、半分、詐欺も入ってる。

 霊を祓ったあとに、無駄に魔よけの護符を売りつけていたりする。


 フィリアはブドウとリンゴをかごに入れた。


「次は乳製品コーナーか…………無理だな」

「だねー。さすがにこの辺は管理が牧場だもん」


 俺達は乳製品コーナーをスルーし、次のコーナーに向かう。


「魚は?」

「ホントだ。魚を売ってる。そういえば、島国って言ってたもんね」

「ああ。魚は豊富に獲れる。アルトの町は?」

「東に行けば内海があるからねー。そこの町で獲れるよ。ミケが行ったところ」


 そういえば、そうだった。

 ミケの弟が魚を食っているところを見たわ。


「売れないか…………」

「売れるかもだけど、ここにある魚はどれも見たことがないからやめた方がいいと思う」


 やめとくか…………

 魚は毒とか寄生虫もあるし、トラブルの元だろう。


「次は肉だが…………」

「肉は売れないと思う。大森林でいっぱい獲れるもん」


 そんな気はしていた。

 宿屋で800円の定食を食べた時、結構な肉のボリュームだったのだ。

 あれを800円で売れるくらいには肉が豊富なんだろう。


 それから調味料やデザート、加工品を見て回り、気になったものをカゴに入れていった。


「ここは食材だけじゃなくて、服とかも売ってるんだねー」


 俺達はスーパーのコーナーを見終えた後、ホームセンターのコーナーに来ている。


「だなー。あ、そうだ。スコップが欲しいんだった」

「スコップ?」

「黄金草を採取するのに使う。穴掘り道具だよ」

「へー。見てみたい」


 俺達はスコップがある売り場に向かうと、スコップを吟味する。


「これは売れるだろうけど、絶対に問題になるな」

「でしょうねー。あ、なんか武器っぽいもんも売ってる」


 フィリアが見ているのはバールのようなものだ。

 まあ、武器にもなるだろう。


「こんなもんかなー。何か見たいものとかある?」

「とりあえずはいいかな。正直、情報が多すぎて、整理できてない」


 フィリアは頭が良い子だとは思うが、さすがに一度にこの世界を理解できるのは難しいだろう。


「帰るか……お腹も空いたし」

「だねー。私はこのパンが食べたい」


 フィリアは先ほど、かごに大量に入れた菓子パンやデザートを指差す。


「こっちは朝の10時だが、向こうは夕方の4時かな…………」

「そういえば、昼すぎだったのに朝になってたね」

「時差があるんだよなー」

「その辺を何回聞いても理解できないよ…………」


 まあ、俺もよくわからないからなー。


 俺達はレジで精算をし、大きな袋を持って、家に帰ることした。




 ◆◇◆




 家に帰ってくると、買ったものをソファーの前のローテーブルに並べた。

 そして、菓子パンを食べながら吟味していく。


「まず、このパンがすごく美味しい。甘いし、柔らかい」


 フィリアは嬉しそうにイチゴの菓子パンを食べている。


「あっちのパンは堅かったしなー」

「これはもう完全に別物だよ。私は断然こっち派。もう向こうのパンを食べたくなくなってくる」


 パンは大事な主食だからそういうわけにはいかないよー。


「売れるか?」

「絶対に売れる。そして、パン屋がつぶれ、パン屋に恨まれる」


 トラブルが起きるわけね。

 その前に商人ギルドが黙ってないと思う。

 そのための商人ギルドだろうし。


「厳しいか……」

「こっちの世界の物は良すぎるんだよ。あ、このケーキも美味しい!」


 よく食うなー。


「良すぎて売れないわけか……」

「正直に言えばね、どれも売れるよ。このパンやお酒だって売れる。このソファーも、このテーブルも、コップも何もかも売れる。もっと言えば、この白いがしゃがしゃする袋も売れるよ」


 レジ袋も売れるのか……


「こんなもん買うか?」

「水を入れられるもん。買うよ」


 そんなもんか……


「でも、売ると問題になるわけだ」

「間違いなくね。下手すると、貴族よりも上が出てくるよ」


 貴族より上……

 王様か。


「砂糖みたいに少量を売るのが得策か…………」

「そこなんだけどさ。これらって向こうでも作れないの?」


 フィリアはケーキなどのデザート類を指差す。


「無理じゃね?」

「でも、材料は卵、砂糖、小麦が主でしょ? あとこれは…………この甘いの何?」

「クリームかな? 牛乳を加工したものじゃね?」


 詳しくは知らない。


「それらってさ、向こうにもあるわけよ。だからそれで作ってますって言えばいいと思う。そうすれば売れる」

「俺、作れねーよ?」

「実際に作る必要はないよ。これをそのまま売ればいい。商人ギルドに申請する時も詳細を言うわけじゃないしね。こういう材料でお菓子を作って売りますだけでいいよ。それ以上はさすがに言えないし、向こうも聞いてこない。勝手にマネされるし、情報が一番お金になることは商人ギルドが一番よくわかってることだからね」


 企業秘密まではしゃべらなくてもいいわけか。


「お菓子ねー……」

「別にお菓子じゃなくてもいいよ。向こうでも作れるものなら大丈夫ってこと」


 作り方もネットで調べれば、いくらでも出てくるだろう。


「何があるかねー」

「私はわからないねー。まあ、当面は砂糖を売るでいいと思うよ。あと10袋くらいならスルーされるはず」


 砂糖は500グラムの物を10袋も買っている。

 なお、帰りは重くて、最悪だった。


「1袋が金貨30枚で売れるなら金貨300枚か」


 2000円程度で購入した砂糖が300万円にもなる。

 とんだ錬金術だ。


「30枚は軽く超えると思うよー」

「マジ?」

「マジ。商人達の食いつきがやばいもん」


 金貨500枚くらいはいくかもしれん。


「すげーなー」

「あとは氷でも売ったら?」

「需要あるか?」

「保存にも使えるし、需要は高いよ。でも、冷やすには魔法使いがいるからねー。でもって、料金が高いもん。氷ならなおさら高いよ」


 魔法使いって、金儲けできそうだなー。


 俺の脳裏には今日の午前中に見た巨乳魔法使いの姿が浮かんでいる。

 見た目のおかげもあるが、身なりもきれいで裕福そうに見えた。


「氷か……元手はほぼタダだし、魔法で作ったって言い張ればいいわけか」

「魔法使いもそんなに多いわけじゃないから競合もしないしねー。我ながらいいアイデアだと思う。問題はどうやって運ぶかだね。当然、氷は溶けるし」


 クーラーボックスで運べば、当分は持つだろう。

 こっちの世界で氷を作り、クーラーボックスに入れて持ち込む。

 いや、クーラーボックスが目立つな…………


「収納魔法が欲しいな」

「超上級魔法だよ? 無理無理」

「クレモンが使ってたが…………」

「エスタのクレモン宰相は魔法学校主席のエリート様だよ」


 あいつ、マジですごいんだな…………


「そういうアイテムはないか?」

「魔法袋があるよ。半年前に王都のオークションで金貨50000枚で落札されたってさ」


 5おくえーん!


「無理だわ……」

「だろうねー。魔法袋も収納魔法も需要がやばいからね。商人はもちろん、軍の補給にも使える。収納魔法を持っているだけで人生の勝者は確定」


 それもそうだわなー。


「ちょっと考えてみるか…………とりあえず、この砂糖を売りさばいたら次は氷を試してみるわ」

「私が値段の調査をかねて、買ってくれるところを聞いてみよっか?」

「大丈夫か? 今日買った分の砂糖も任せるつもりだが」

「砂糖を売るついでだし、いいよー。あ、でも、売り上げの1割はもらうからね」


 逆に1割でいいんだろうか?

 5割とは言わないが、3割くらい持っていってもいいのだが…………


「今回はこんなもんかなー」

「だねー。じゃあ、ご飯も食べたし、飲もっか?」

「まだ飲むん?」

「どうせ、明日の朝まで暇じゃん。飲もうよ」


 こいつ、マジで酒が好きなんだなー。

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