第014話 フィリアを誘拐
俺の目の前にはテレビが見える。
今回もちゃんと帰ってこれたようだ。
そして、俺が掴んでいる腕の先には、ぽかーんとしているフィリアが立っていた。
本当に連れてこれたな。
あの動画を見たからか?
それとも俺が触れていたからか?
その辺はよくわからないが、これで俺以外の人間もこっちの世界に来れるのは確定したことになる。
「…………ここ、どこ?」
フィリアが前を見たまま聞いてくる。
「俺の家。ようこそ!」
「お、お邪魔しています」
「まあ、座って」
俺はフィリアの腕をつかんだまま、テレビの前にあるソファーまで連れていき、座らせた。
フィリアはキョロキョロとリビングを見回す。
「何か飲む?」
「え? じゃ、じゃあ」
俺はキッチンに行き、コップを2つ出すと、冷蔵庫を開ける。
うーん、異世界人にウーロン茶で大丈夫か?
アイスコーヒーはやめた方がいいだろうし、コーラは炭酸が強すぎる。
果物系のジュースがいいだろうな。
………………うん、ねーな。
まあ、酎ハイでいいか!
俺はなるべく甘そうなブドウの酎ハイと桃の酎ハイを取り出し、コップに氷を入れて、酎ハイを注いだ。
そして、いまだに周囲をキョロキョロと見渡しているフィリアのもとに行く。
「はい、どうぞ」
俺は2つのコップをソファーの前にあるローテーブルに置く。
「これは?」
「ジュース。フィリア、桃とブドウってわかる?」
「わかるよ。私はブドウが好き」
桃とブドウがわかるということはあっちの世界にもあるのか。
「じゃあ、こっち」
俺はブドウの方を指差す。
「いただきまーす………………うん、美味しいけど、ツッコミどころが多い!」
「どこ?」
「まず、これジュースじゃなくて、お酒でしょ」
「他になくてね。お酒はマズかった?」
「いや、お酒は好きだよ。私、全然、酔わないけどね」
俺はチラッと蛇を見る。
そらねー……
フィリアはうわばみでしょうね。
「じゃあ、いいじゃん。他には?」
「ガラスのコップなんて初めて見た。しかも、めっちゃ透明!」
そういえば、向こうの世界でガラスを見てないな。
「ガラスは高級品?」
「王侯貴族か大きな教会にしかないんじゃない? 庶民は使わないよ。落としたら割れるし」
「なるほどねー。そんだけ?」
「えっと、氷が入ってますけど?」
やはり氷は珍しいか。
「こっちでは簡単に作れるんだよ」
「この部屋を見て、なんとなくわかってたけど、文明のレベルが全然違う気がする」
「多分ねー。だから何を売るかを困ってるんだよ」
「わかる。例えば、このコップなんかを売ろうとすると、貴族が出てくる。トラブルしか招かないよ」
「そのコップ、銅貨1枚」
100円ショップだろうからそんなもんだろう。
「私なら金貨100枚で売る」
やべーな。
100円が100万円になっちゃう。
「ガラスはやめた方が良さそうだな」
「程度によると思う。数個程度ならダンジョンで発掘しました、で通るだろうし」
「ダンジョン?」
「モンスターやお宝がざっくざくな洞窟。この辺にはないけど、もっと南に行けばあるよ」
そういえば、俺が最初に来たところは迷いの丘とかいうダンジョンだったな。
「やめとく。怖い」
「それがいいと思う。リヒトさん、弱そうだもん」
弱そうじゃなくて、弱いんだなー。
「俺、フィリアに勝てるかな?」
「それはいける。私、ヒーラーだから弱いもん」
ふむふむ。
弱い女が助けも来ない男の家でお酒を飲んでますね…………って、蛇がめっちゃ睨んでるし!?
冗談だよー。
「…………ま-た、肩を撫でてくるし」
「まあまあ、飲んで、飲んで。いくらでもあるから飲みまくって」
「リヒトさんって、どうしてそう言動が胡散臭いの?」
「詐欺師っぽいしゃべり方をする方が人は油断しやすいんだよ」
最初は警戒するが、徐々に慣れてくると、逆に信用しやすくなる。
「私を騙してる?」
「もし、俺がフィリアを騙そうとしているならフィリアはもう手遅れだよ」
「そうか…………私、異世界に誘拐されてるのか…………」
ようやく気付いた?
君はもう帰れなーい。
って、冗談だから睨むな、蛇。
「そうなるねー。まあ、24時間で…………」
あ、やべ!
「フィリア、悪い。お前って外泊は大丈夫か?」
「ん-? そら、冒険者だし、問題ないよ? なんで?」
「俺は異世界を行き来できるんだが、丸1日の充電期間がいるんだ。だから、あっちの世界に戻れるのは明日だ」
完全に忘れてた。
マジで誘拐になっちゃう。
「ああ、そういうこと、まあ、異世界を渡るなんて大魔法だし、それくらいの充電期間はいるよね。別にいいよ。依頼で2、3日戻らないなんてざらだしねー。さすがに10日とかだと捜索依頼が出ると思うけど」
とりあえずは大丈夫そうだな。
「完全に失念してたわ」
「いいよいいよ。おかわり」
こいつ、ものの数分で飲み干しやがった…………
さすがは蛇女。
マジでうわばみだ。
俺は立ち上がり、キッチンに行くと、大きめのジョッキに氷を入れ、缶酎ハイを数本と共に持っていく。
「好きなだけ飲め」
「何これ? 冷たいし」
フィリアは缶酎ハイを手に持ち、マジマジと見る。
「お酒が入っている入れ物だ。それはリンゴだな」
「へー、リンゴかー…………どうやって開けるの?」
「貸せ」
俺はプルタブを開け、コップに注いでやった。
「ホント、すごいねー」
「まあなー。これも売れんだろ」
「絶対にやめた方がいいね。鉄っぽいけど、軽いし、未知すぎるよ」
缶ってアルミか?
アルミが何なのか、よーわからん。
「まあ、飲め」
「いただきまーす……ねえ、さっきから気になってたんだけど、それ何? 真っ黒い絵なんか飾ってどうすんのよ?」
フィリアがお酒を飲みながら正面のテレビを指差す。
「これはテレビという遠くのものを映し出すものだな」
「…………もうね。言ってる意味がわかんない」
俺はリモコンを手に取り、テレビをつけた。
すると、テレビが起動し、ニュースが流れ始める。
「………………すごいね」
「まあ、そうだろうな」
「ちなみに、何を言ってるのか全然わかんない」
「そうなのか?」
普通に今日のニュースをアナウンサーがしゃべっているだけだが。
「こっちの世界の言葉でしょ。私は加護がないからわかんない。このお酒の缶とやらに書いてある文字も読めない」
そうか。
俺は向こうの世界で女神様とやらに加護をもらったみたいだが、フィリアはこっちの世界で加護をもらえなかったんだ。
こっちの世界では誰が加護をくれるか知らんけども……
「んー、お前に調査を頼もうと思ったんだがなー」
「翻訳してくれるならねー」
まあ、仕方がないか…………
「何が売れると思う?」
「うーん、市場とかないの? そこを見たい」
…………こいつを外に連れ行くのか?
「うーん…………」
俺はフィリアを頭から足まで見る。
「マズい?」
「お前が俺の格好を変だと思うくらいにはな」
「文化も違うだろうし、これだけ文明レベルが違えばそうかもね」
うーん、まあ、金髪碧眼は外国人で通せる。
問題は服だな。
「服か…………」
「何かルールある?」
「いや、ルールはないんだが、お前の格好は目立つ」
フィリアは白を基調とした修道女の服だ。
どう見てもコスプレ臭がする。
「ちょっと来い」
俺がそう言って立ち上がると、フィリアは2杯目の酒を飲み干し、立ち上がった。
そして、フィリアを2階にある両親の寝室に連れていく。
「わーお、おっきいベッドだねー。リヒトさんに寝室に連れ込まれたー」
両親は2人で寝ているため、ベッドはかなり大きい。
「たとえ、お前をベッドに連れ込むとしても、ここだけはない。親のだ」
「それは嫌だろうね」
絶対に嫌だわ。
俺はベッドをスルーし、奥のクローゼットを開ける。
そして、母親の服を漁っていく。
「お母さんの?」
「そうそう。しかし、わからん」
そもそも下着はどうすんだ?
「簡単なやつでいいよ」
「とりあえず、スカートを履かせて、上はスウェットでいいか…………」
別にオシャレをする必要はない。
「…………すげー失礼なことを言っていいか?」
「どうぞ」
「お前、風呂に入ってる?」
宿屋に風呂はなかった。
サラから裏の井戸で水浴びしてもいいよとは聞いている。
「んー? たまに水浴びをするくらいで、あとは魔法かなー」
「魔法?」
「汚れを取る魔法があるんだよ」
便利だな、おい。
「お前も使えるん?」
「そらね」
「ちょっと俺にかけてみて。俺、昨日、あっちの世界に行ってから濡れ布巾で拭いたくらい」
「汚いなー。これだから男の子は…………ほい!」
フィリアが手をかざすと、なんか体がすっきりしたような気がする。
「便利だなー」
「覚える? 簡単だよ」
「あとで教えてもらうわ」
「いいよー。お酒をごちそうになったし、特別にタダでいいよ」
普段だったら金を取るのね…………
「じゃあ、これに着替えろ。着方は…………」
俺もわからんな……
スカートなんて履いたことねーし。
「大丈夫。わかるよ」
さすがは女。
だいたいでわかるか。
「じゃあ、俺はさっきの部屋にいるから着替えたら下りてこい」
「はーい」
俺は後のことを任せ、リビングに戻ることにした。
覗き?
すると不幸が訪れると出ているからしない。
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