第010話 宿屋で1泊!


 フィリアに猫を捕まえてもらった俺はギルドに戻った。

 ギルドに戻ると、さっき来た時とは違い、ちらほらと冒険者らしき者たちがいた。


 俺はフィリア(+猫)を連れて、ガラ悪マッチョのところに行く。


「ん? フィリア?」

「こんにちは、ギルマス」


 ガラ悪マッチョがフィリアに気付くと、フィリアが挨拶をした。


「猫を見つけたんだけど、牙を向かれたからフィリアに頼んだ」


 俺はここにフィリアがいることを説明する。


「あー……そういえば、お前、猫に嫌われるって言ってたもんな」

「そうそう。ミケは俺のことが好きだけどね」

「あいつ、クソ詐欺師って言ってたぞ?」


 猫ちゃん、ひどい…………


「まあいいや。はい、これが依頼の猫」

「はいよ。フィリア、くれ」

「はい」


 ガラ悪マッチョが手を出すと、フィリアが猫を渡す。

 なお、その間、猫はすごく大人しい。


「おー、かわいいな。大人しいし」


 俺は猫を抱くガラ悪マッチョにイラッとした。


「これで依頼は完了でいいな?」

「おー、いいぞ。今日からお前は冒険者だ! 喜べ」


 あんま嬉しくないな。


「冒険者って何をすんの?」

「今日みたいな依頼をこなせ。報酬をやるから。あ、これが報酬」


 ガラ悪マッチョが銀貨1枚を渡してきた。

 俺はそれを受け取ると、財布から銅貨を取り出し、フィリアに渡す。


「はい。ありがとね」

「どういたしまして。ちなみに、依頼はあそこに貼ってるから好きなものを取って、受付に提出すればいいんだよ」


 フィリアはそう言いながら左にある壁を指差す。

 壁には所狭しと紙が貼ってあった。


 俺がその壁の近くまで歩くと、フィリアもついてくる。

 そして、一緒に依頼の紙を見始めた。


 ゴブリン討伐、薬草採取、オーク退治、ウルフの駆除…………


「討伐系が多いな」

「さっきも言ったけど、ここは大森林の近くだからね。こういうのがメインだよ」


 討伐系は厳しいかもしれないな。

 ハンドガンがどこまで通じるかもわからない。

 

「フィリアも出るのか?」

「出るよー。私はヒーラーだからあんまり戦わないけど」


 まあ、強そうには見えない。

 完全な回復要員だろう。


「採取系かな……」

「大丈夫? 町の外に出ることには変わりないよ?」

「ある程度は避けられる」

「あー、占いか……」


 本当にある程度だがな。

 とはいえ、外には出てみるつもりではあるし、一度やってみてもいいだろう。


「おすすめは?」

「初心者は薬草じゃないかな? 森に生えてるけど、そこまで奥じゃないし」


 俺はそう言われたので薬草採取の依頼を見る。


 …………1株で銅貨1枚か。

 安くね?

 100株を集めてようやく金貨だ。


「うーん、微妙……」

「じゃあ、黄金草かなー?」


 俺は依頼の紙の中から黄金草採取依頼を探す。


「あー、あれか……」


 黄金草は1株で金貨1枚か…………

 値段は良いが……


「黄金草は森の奥ってオチだろ」

「そうなんだけど、たまに浅い所でも生えてるよ。滅多に見つからないけど、リヒトさんの占いで見つけられない?」


 なるほど。

 それはいい考えかもしれない。


「やってみるか」


 しかし、こいつ、便利だな。

 本当に商才というか、金儲けの才覚がある。

 マジでこいつに相談をかけたほうがいいかもしれない。


「行くなら明日の方がいいよ。もうすぐで暗くなるし、夜は危険だよ? 門もしまっちゃうし」


 もう夕方くらいかな?

 明日にするか。


「じゃあ、明日にするわ。フィリア、色々とありがとう」

「いえいえー」

「お前も来る?」


 ヒーラーがいたほうがいいかもしれない。

 こいつ、色々と詳しいし。


「行ってもいいけど、半分貰うよ? あと、砂糖は?」


 あー……そういえば、砂糖を頼んでたわ。


「うーん、悪い。砂糖を優先してくれ」

「わかった。リヒトさんは鳥の籠だったよね?」

「鳥の籠?」

「宿屋の名前。違うところに移った?」


 あー、あそこって、鳥の籠って名前か。


「いや、ゲルドに連れて行ってもらったところから動いてない」

「じゃあ、鳥の籠だ。何か動きがあったら知らせに行くよ。私は教会か市場にいると思うから」

「わかった。頼むわ」


 俺はそのままギルドを出ると、フィリアと別れ、宿屋に戻る。


「ただいまー」


 宿屋に入ると、帰りの挨拶をする。


「おかえりなさーい!」


 俺が受付に近づくと、サラが受付から出てきて、出迎えてくれた。

 そして、俺に目の前まで来ると、嬉しそうに見上げ、ニコニコと笑う。


 俺はそんなサラの頭を撫でると、飴を取り出す。


「あーんして」

「あーん」


 サラが嬉しそうに口を開けたので飴を放り込む。


「晩御飯はもう食べれる?」

「大丈夫です!」

「じゃあ、日替わりをお願いしようかな」


 俺はそう言って、銅貨を9枚渡す。


「1枚多いよ?」

「チップだよ。サラはかわいいからねー」

「ホント!? ありがとー! おとーさーん! 日替わり1つー!!」


 サラはテンションマックスで奥の食堂に向かったので、俺もあとに続いた。


 サラに似ても似つかないごついオヤジが持ってきた料理はパンと汁と肉料理だった。

 パンはちょっと堅いが、味は普通であり、汁はベースとなる味がなく、塩っぽかった。

 ただ、肉は美味かった。


 日替わり定食はボリュームも多く、満足できるものではあったが、調査的にはよくわからなかった。

 よく考えたら俺、ロクに料理しないし、どんな調味料が売れそうなのかわからない。


 俺は晩御飯を食べ終えると、部屋に上がり、ベッドの上で今後のことを考える。


 色々調べて分かったことは俺が何も知らないし、何も出来そうにないということだった。

 子供の頃から霊媒師をしており、他に特技もなければ趣味もない。


「うーん……やっぱりフィリアに頼むか……」


 問題は素直にスマホのアプリで自由に世界観を行き来できるかを伝えるかだ。

 今後、商売を任せるにしても商品の搬入は俺だろう。

 砂糖をあと10袋買って、持ち込むとしてもどこから持ってきたのかという話になる。


 フィリアに伝えないという手もあるが、それは相手を信用しないということであり、ビジネスパートナーしてそれはいいのだろうか?

 少なくとも、フィリアは疑うだろう。


「悩むなー……まあ、とりあえずは砂糖の状況を見てからにするか…………」


 明日は午前中、森に行き、黄金草を採取しよう。

 よく考えたら当面の金がない。

 明後日には宿の更新で金がいるし、先立つものはいるだろう。


 午後からは商人ギルドに行き、その辺で占いをしてもいいかを尋ねよう。

 ついでに商いの話でも聞いてくるか…………


 俺は明日の予定を決めると、スマホを開き、時間を見る。

 時刻は2時と表示されている。

 つまりはこっちの世界は夜の8時ということだ。


 やることねー…………

 こっちの世界にはテレビもなければネットも繋がらない。

 マジでやることがない。


「酒でも持って来れば良かったな…………」


 下に行けばあるかな?

 ギルドも酒場っぽかったし、あるかもしれない。

 今度、行ってみるかな。

 酒に酔ったバカな客を騙し、カードで金を巻き上げるのも悪くはないだろう。


「今日は寝よ……」


 俺はたいして眠くはないが、目を閉じ、夢の世界に行くのをジッと待つことにした。


 しかし、あんまいいベッドじゃないなー。

 そら、馬車の中よりはマシだが、やっぱ家のベッドの方がいいわ。

 その辺も考えないとなー。

 何せ充電期間が24時間ということは、こっちに来てたら1泊はしないといけないことになる。


 やることが多い…………むにゃむにゃ。




 ◆◇◆




 翌朝、早めに起きた俺はサラに飴をあげ、朝食を食べた。

 そして、大森林とやらがある西の門に向かった。


 西の門に着くと、2人の兵士が門番をしているのが見える。

 俺はその暇そうな門番から情報収集をしようと思い、近づいた。


「ご苦労さん」


 俺は兵士のウチの一人に話しかける。


「ん? ああ、冒険者か?」

「そうそう。ちょっと聞きたいんだが、大森林とやらはあれか?」


 俺は門の外から遠くに見える森を指差す。


「そうだよ。お前、見覚えがないが、よそから来たのか?」

「ああ、この前来たばかりだ。それでちょっと教えてほしくてな」

「まあいいぜ。本当なら金を取ってもいいんだが、めっちゃ暇なんだよ」


 まあ、暇そうにしてたから声をかけたんだがね。


「大森林のモンスターって、どんな感じ?」

「わかりやすいぞ。奥に行けば行くほど、強い。浅いところではゴブリン程度だ。運が悪ければ、ウルフに会うかもな」


 確かにわかりやすい。

 ウルフか…………狼だな。

 ハンドガンで当てられる自信はない。


「ここは自由に通っていいのか?」

「そらそうだろ。戦時中でもなければモンスターもいない」


 その辺は適当なんだな。

 スパイが入り放題じゃん。


「夜も?」

「あー、夕方には閉める。夜に来ても開けてやらんでもないが、金を取るぞ。結構、面倒なんだよ」


 兵士はそう言って門を見上げる。

 門は大きく、簡単に開け閉めが出来るようには見えない。


「なるほどね。早めに帰るか」

「そうしろ。いくら町の近くとはいえ、野宿はおすすめしない」


 俺も野宿は嫌だな。


「わかった。いい情報に感謝する。では、礼をしようかな」

「あん? 金か?」

「悪いが、金は持っていない。お前、右肩が重くないか?」


 この兵士の右肩にはカエルの霊がふてぶてしく乗っている。


「え? わかるのか? もしかして、医者? 実は1週間前から肩が重いんだよー。痛めたかな?」


 俺は兵士の右肩に手を伸ばし、デコピンでカエルを弾く。

 すると、カエルはすぐにぴょーんと跳ねて、どこかに行ってしまった。


「まだ重いか?」

「ん? あれ? 軽くなったぞ!」


 兵士は右肩をグルグルと回す。


「これは礼だ。では、行ってくる」

「おー、マジかー! すげー! ありがとよ! 気を付けてなー!!」


 俺は兵士に手を挙げ、大森林に向けて歩いていった。


 というか、こっちに来て、初めて除霊の仕事をしたな……

 相手はカエル君だったけど……

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