第009話 堂々とお金が好きっていう女を初めて見た


 再び異世界に来た俺は冒険者ギルドにやってくると、ガラ悪マッチョに猫探しの依頼をやらされそうになってる。


「猫ねー。猫は好きだけど、めんどくせーな…………」

「やっぱお前、猫が好きなのか…………」


 当たり前だろ!

 犬より猫だ!


「好きだよー……でも、猫は俺が嫌いなんだよねー」


 多分、色々と怪しい俺は猫からすげー警戒されているのだろう。


「そんな気はするなー。お前の占いで探せないか?」

「探せるけどねー。実際、そういう仕事もやったことあるし」


 家出したペットを探してくれは結構ある依頼だ。


「じゃあ、探してこい。報酬は銀貨1枚だ」


 やっす!

 1000円かよ!


「相場がわからんが、さすがに安くないか?」

「安いな。依頼主が8歳の子供なんだ」


 親が出せや!


「うーん、女の子かー。じゃあ、やるかなー…………」


 かわいがってた猫っぽいな。


「そこまでわかるのか…………すごいな。というか、男の子ならやんねーのかよ」

「自分で探せって言うか、稼いでこいって言うなー」


 男なら自分でやれ!


「お前、結構、ひどいんだな」


 知ってる。


「じゃあ、この依頼をやれば、冒険者にしてくれんだな?」

「してやる」


 ふむ。

 では、やるか。


「えーっと、あっちか…………」


 俺は左を見る。

 もっとも、そこにあるのは壁だ。


「ついでに町を探索するといい。正直に言うが、この依頼はそういうのも兼ねている」


 この町を知ってこいってことか。

 俺のためでもあるわけね。


「わかったー。じゃあ、行ってくる」

「おう!」


 俺はギルドを出て、町の探索を兼ねた猫探しを開始した。


 ミケやーい!

 どこだー?




 ◆◇◆




「ギルマス、どう思いました?」


 胡散臭い詐欺師がギルドを出ると、すぐに受付に座っていた女性が立ち上がり、俺のところにやってきた。


「まあ、本物でしょう。アンナやミケ、フィリアの報告通りです」


 俺はその女性に敬語で話す。


「ですか…………私のことも感づいたでしょうか?」

「どうでしょう? 絶対に貴女のところに行くと思ったのですが…………」

「ふふ。ものすごく嫌そうに貴方のところに行きましたね?」


 この人は多分、美人と評されて機嫌がいいのだろう。


「ですね。実際、私はあいつが貴女のところに行けば、奥に連行するつもりでした」

「そこまでしなくても…………」

「いえ、そういうわけにもいきません。領主様に何かあってはいけませんので………」


 正直に言えば、この人がそこに座ること自体を反対した。

 だが、無理を通されたら自分の立場ではどうしようもない。


「あまり手荒なことはしてほしくありませんけどね。貴重な異世界人ですよ?」

「まあ、それはそうなんですが…………」

「ギルマス、実際、あの御方をどう見ます? 我らの味方になると思いますか?」


 我らねー……

 俺、あんまり関係ないんだけどなー。

 冒険者は自由に生きるもんだ。


「策を講じたり、事に及ぶのはやめた方がいいでしょう。あの力ならば、すぐに看破されます」


 無理やり捕えようとしても、下手すると、計画する以前に逃げそうだ。

 未来予知をしてくる相手にはどうしようもない。


「でしょうね。上手くここに留まってもらう方が得策ですね」

「どうすればいいのかわかりませんけどね」

「一番良いのはこの町で所帯を持ってもらうことですが…………持ちそうにないですね」


 うーん、あいつ、軽そうだが、人を信用しそうにないもんなー。

 絶対に結婚しそうにないヤツに見える。


「こればっかりはわかりません。ヤツはまだ若いですし…………」

「ミケでも差し出しますか?」

「発言に気を付けてくださいよ」


 ミケは獣人だ。

 今の発言は下手すると、差別的に大問題になる。


「冗談です。まあ、今のところはどうしようもないですね。下手に動いても看破されるだろうし…………この町に留まってくれることを祈りましょう」


 あんたがデートしてやればいいと思う。

 あいつもそう言ってたし。


「気にはかけておきますよ」

「よろしくお願いします…………占いか…………今度、占ってもらおうかしら?」


 女は占いが好きだよなー…………

 あのアンナですら占ってもらったって言ってたし。




 ◆◇◆




 冒険者ギルドを出た俺はあちこちを見ながら猫を探している。

 この町は北が商業区、西が冒険者ギルドや宿屋、飲食店となっている。

 そして、南と東が住居区っぽい。


 今は猫がいる商業区にいるのだが、店を見たりして、売れそうなものを確認していっている。

 だが、はっきり言って、よくわからない。


 よく考えたら俺にそういう商才はない。

 俺はあくまで霊媒師。

 専門職でしかないのだ。


 これは誰かに相談した方が良さそうだな。

 まあ、商人のゲルドしかいないんだけど…………


 俺の当面の目標は金貨30枚を貯めて、フィリアのおじいさんに俺のスキルを鑑定してもらうことになる。


 どこに行っても金かー……

 世知辛いね。


 俺は店を調査することを止め、猫探しに集中することにした。



 俺が猫を探し始めて30分くらいが経った。

 俺の目の前にお目当ての猫がいる。


 だが……


「フシャー!!」


 相変わらず、猫にはめっちゃ嫌われている俺がいた。


「猫ちゃん、ご主人様のところに帰ろ? 待ってるよー?」


 俺は優しく声をかけながらそーっと近づく。


「シャー!!」


 しかし、猫ちゃんは俺に対して、牙を向いた。


「ハァ…………ダメだ、こりゃ…………」


 俺は思わず、ため息が出る。


「リヒトさん……?」


 俺が項垂れていると、俺の名前を呼ぶ声が聞こえたので後ろを振り向く。

 そこには蛇を身体に巻きつけた金髪の女が俺を見ていた。

 もちろんフィリアである。


「よう! 元気か?」

「元気ですよー。リヒトさんは元気がないようですが、どうかしましたか?」


 俺は無言で猫を指差す。


「猫……?」

「実はね…………」


 俺は事情を説明することにした。


「なるほどー。ほら、おいでー」


 俺が事情を説明すると、フィリアはしゃがみ、猫に向かって、手でおいでおいでをする。

 俺はそれを見て、そんなことで猫が来るわけないじゃんと思ったが、猫はすぐに警戒を解き、フィリアにすり寄ってくる。


「にゃー」

「なんで!?」


 俺はショックを受け、変な声が出た。


「あはは。私は昔から動物に好かれるんだよねー」


 ああ……そういえば、君は蛇にも好かれてるね。

 今だって、蛇が君の顔をチロチロと舐めているよ……


 フィリアは猫を抱えた。


 猫と蛇と女……

 異様な光景だが、蛇が見えてるのは俺だけだ。


「ギルドに行けばいいのかな?」

「だねー。悪いけど、連れていってもらえる? 俺は猫には嫌われるんだよ」

「いいよー。あ、でも、ちょっといいかな?」


 フィリアはそう言うと、猫を抱えたまま、近くの花壇に腰かけた。

 俺は話でもあるのかなと思い、隣に腰かける。


「占いでもしてほしいの?」

「うーん、金貨1枚でしょ?」

「手伝ってもらったし、タダでいいよ」


 報酬が銀貨1枚だから割には合わないが、そのくらいはする。


「うーん、今度にしようかな。考えておくよ」

「ん、わかった。ミケやアンナはもう出た?」

「うん。今日の朝には出たよ。もう少し、休んでいけばいいのに…………」


 アンナもミケも体力があり余ってそうだしなー。


「フィリアはここで何をしてんの? 買い物?」

「市場調査だねー」

「調査? 仕事かなんか?」

「いや、私の趣味。私、お金が好きなんだー」


 すげーことを堂々と言う女だな…………

 でも、ちょうどいいかもしれない。


「この町で売れそうなものは何?」

「この町はモンスターが出るアルトの大森林が近くにあるんだよ。だから冒険者や兵士が多いし、武器とかかな」


 武器?

 さすがに銃は売れんな……


「微妙だなー……」

「ん? 何か売りたいの?」

「金集めをしようと思ってね。占いとかはもう少し、名前を売ってからじゃないと安定した収入は見込めないし、手っ取り早いのは何かを売ることかなって思って」


 権力者に取り入るのが一番だが、権力者どころかこの町の統治体制すら知らん。


「何を売ろうと思ってるの?」

「わからんからとりあえず、砂糖と塩」


 清めの塩が少しと500グラムの砂糖を持ってきている。


「塩は売れないね。近くに岩塩が採れるところがあって、この辺では安価だもん。砂糖は売れる。逆にこの辺では採れないからね」


 こいつ、詳しいな。

 さすがはお金大好き女。

 あ、だから金運が上がる蛇が憑いているのか……


「これ、どんくらいで売れるかな?」


 俺はカバンから砂糖を取り出す。


「透明な袋……? それにすごい白いね…………あー、異世界の砂糖か…………明日、お金が欲しいなら金貨20枚。10日あれば30枚以上で売れる」

「何で日にちによって違うの?」

「小分けして色んな所に売るから」


 なるほど。

 わからん。


「どこで売ればいいん?」

「商会かな? ゲルドさんの所でも売れると思うよ。多分、金貨20枚かな」


 ヤツに売るか…………


「フィリアなら10日あれば、金貨30枚で売れる?」

「私に任せてくれるならもっと高く売れるよ。手数料で1割もらうけど」


 1割か……

 30枚で売っても27枚。

 俺が売るよりかは良さそうだな。


「じゃあ、頼むわ」


 俺はフィリアに砂糖を渡す。


「契約書とかは? 商人ギルドを通した方がいいよ。私が持ち逃げするかもしれないし」

「別にいい。信用してるから」

「あんましないほうがいいよ…………特にお金のやり取りは」


 お金にシビアだな。

 さすがはお金好き。


「じゃあ、言葉を変えよう。俺を騙せると思うな。霊媒師を舐めてもらっては困る。どこに逃げようと呪いをかけてやる」

「こわっ! やっぱただの詐欺師じゃないのかー」

「詐欺師言うなし…………」


 どいつもこいつも…………


「霊媒師って何?」

「俺の本業。霊とかを祓ったり、利用して呪いをかけたりできる」

「霊? レイスとかを倒せるの?」

「どうだろう? そういうのじゃないからなー」


 多分、倒せると思うが、試すのは嫌だな。

 こえーし。


「ふ-ん、まあいいか。じゃあ、この砂糖は預かるね。ちなみに、これだけ?」


 この銭ゲバ、金の匂いを嗅ぎ取ったな。


「他はもう少し、考えてみる」

「いくらでも相談に乗るよー」


 フィリアはそう言って、俺の太ももに手を置く。


「お前、冒険者兼修道女じゃなかったか?」

「私、冒険や女神さまに祈るより、金貨を数える方が好きなの」


 マジで銭ゲバだよ…………

 こんな清純そうな顔して、頭の中が金色で出来てやがる……


「ふーむ、俺は商才がないし、今度、相談に乗ってもらおうかな」

「ないの? すごくありそうだけど…………」


 それ、詐欺師だからっていう意味だよね?


「商売は需要と供給。俺は異世界人だからこの世界の需要がわからん」


 一体、何を売ればいいのか?

 そして、どこまでの物を売っていいのか?

 その辺の線引きがわからん。


「なるほどね。相談料は取らないから気軽に相談するといいよ!」


 もう、こいつの目が金貨になってるわ…………


「今度ね。とりあえずは銀貨一枚を受け取りにいくわ」


 俺はそう言って立ち上がる。


「銀貨?」

「その猫」


 俺はフィリアの太ももで丸まって寝ている猫を指差す。


「え? 迷い猫だよね? 安くない?」

「依頼主が子供なんだとさ。まあ、俺はよそ者だし、こういうので信用を買わないとね」


 先行投資だ。


「考え方が詐欺師のそれだよ…………」

「フィリア、幸運になれるツボを買わない?」

「教会の人間によくそんな詐欺が出来るね?」


 詐欺って決めつけんな!

 詐欺だけども!


「まあ、真面目な話、詐欺は無理かな。この規模の町ではコミュニティが狭すぎる。すぐに噂になって商売にならん」


 この町だって十分に大きいだろうが、それはこの世界基準でだろう。

 せめて10万人ぐらいの都市じゃないと厳しい。


「それがいいよー。さっきも言ったけど、この町は兵士が多いし、領主様が治安維持に力を入れてるからね」


 領主…………

 さっきの美人か……


「やはり真っ当な商売だな」

「だよー」


 フィリアは同意して頷くと、猫を抱えて立ち上がった。


「じゃ、ギルドに行こうか」

「頼む」

「銅貨1枚ねー」


 銀貨1枚の1割か……

 がめついな……

 さすがは銭ゲバだ。


「ところで、俺に用があったんじゃないのか?」

「終わったよー。お金の匂いがしたから話しかけた」


 こいつ、すげー!

 さすがは蛇女だわ。

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