第007話 帰ってきたぜ


 目の前にはテレビが見える。

 というか、俺の家のリビングだ。


「夢だったのか……?」


 俺はボソッとつぶやくが、自分の格好を見て、すぐにその考えを否定した。

 腰にはアンナに貰ったベルトに剣がぶら下がっており、肩にはクレモンからもらったカバンがある。

 そして、俺の手に持っているスマホの画面には23時間59分46秒と表示されていた。


「やはりこのアプリは異世界とこの世界を行き来できるものみたいだな」


 仕組みはさっぱりわからない。

 まあ、今はそんなことはどうでもいい。


 俺はカバンと剣をテーブルに置き、冷蔵庫に向かった。

 そして、冷蔵庫からコーラを取り出し、一気飲みする。


「うめー!! めっちゃうめー!!」


 俺は数日ぶりの冷えたコーラに感動する。

 それもそのはず、この数日はずっとぬるくて微妙に臭い水しか飲んでいないのだから。


 俺はコーラを片手にテーブルまで戻ると、テーブルの上に置かれているコンビニ弁当とまだ開けていない缶酎ハイを見た。


「数日前だから弁当はダメだろうな。いや、待て。時間はどうなっている?」


 俺は一緒に旅したスマホを信用できないのでテレビを付けた。


「ニュースか。今日は…………土曜日?」


 俺があっちの世界に行った日は月曜だった。

 つまり同じ時間が流れているということになる。


「しかし、朝の8時かよ」


 向こうに行った時になんとなくわかっていたが、微妙に時差があるな。

 俺が宿屋に着いた時は昼過ぎだったと思う。


「大体6時間くらいの時差かなー。まあいい。腹減ったわ」


 ずっと干し肉だったからさすがに他の物を食いたい。

 俺はケトルに水を入れ、お湯を沸かし始める。

 その間にカップ焼きそばを用意し、卵を割り、電子レンジでチンをする。


 お湯が沸くと、カップ焼きそばにお湯を注ぎ、3分待った。

 3分後、お湯を切り、ソースを混ぜると、卵を乗せ、その場でがっつく。


「美味いわー。ロクなもんを食ってなかったからマジで美味いわー」


 俺は速攻で食い終わると、テーブルまで戻り、椅子に座る。


「ハァ…………疲れた。しかし、マジで異世界に行ってたんだなー。信じらんねー」


 とても現実のものとは思えない体験だった。


「風呂に入って、寝るかなー」


 俺は自分の格好を改めて見る。


 ボロボロになった上下の服にそこそこ立派な靴。

 クレモンにもらった靴以外はさすがに処分だろう。


 俺は靴と服を脱ぎ、ボロボロの服とコンビニ弁当をゴミ箱に入れると、風呂場に行った。

 そして、お湯を沸かし、身体を洗い、お風呂に入る。


「うえー。5日ぶりの風呂だー! 幸せー」


 あっちにお風呂の文化はあるのだろうか?

 微妙だなー。


 俺はそのまま湯に浸かり続けたが、このままだと寝落ちしそうになったので、風呂から上がり、自室のベッドで休むことにした。


 おやすみー!!

 柔らかいベッド最高!!


 俺はベッドに入ると、すぐに夢の世界に落ちていった。




 ◆◇◆




 俺は目が覚めると、充電していたスマホを見る。


「昼の2時か…………」


 朝と言うか、昼から寝たのに結構、寝たなー。


 俺は起き上がると、リビングに行き、再度、お湯を沸かし、カップラーメンを食べる。


「さて、これからどうするかなー」


 俺はカップラーメンを食べ終えると、コーヒーを片手に考え出す。


「24時間スパンで移動できることはわかった…………だが…………」


 向こうで何すんの?

 やることなくね?

 俺がRPGの勇者だったりしたら何か使命みたいなものがあるんだろうけど、俺、霊媒師だし…………

 とはいえ、せっかく異世界に行けるのに何もしないのはもったいない気がする。


「事象には必ず意味がある。俺のスマホに謎のアプリがインストールしたことにも意味があるはずだ」


 俺は自分がスピリチュアル系なので、こういうものを信じる。


「目的は…………とりあえずは金儲けでいいか…………」


 悩んだら金だろう。

 それが一番わかりやすい。


「そうなると、色々と準備をしねーとな。向こうは危険もあるだろうし」


 俺はとある人物に電話すると、服を着替え、家を出る。

 そして、近所にあるなじみの質屋に向かった。


「おーっす」


 俺は質屋に入ると、店長の爺さんに声をかける。


「ん? 誰かと思ったら詐欺師じゃねーか」


 爺さんは俺を見ると、ひどいことを言ってくる。


「だーれが詐欺師だ!」

「おめーだよ。で? 今日は何だ? 客からだまし取ったやつか? 怪しい骨董品か?」

「正当な報酬だし、怪しくもねーよ! 今日はこれ」


 俺はそう言って、金貨と銀貨と銅貨を取り出した。


「んー? 硬貨か? 見たことねーな」


 爺さんは硬貨をマジマジと見る。


「どっかの国のやつ。いくらになる?」

「文字も読めねーな。歴史的価値は微妙だが、単純に金だったら売れるな。おい、これ、ちょっと預かるぞ。詳しく調べる」

「あいよ。わかったら教えてー」

「ああ、また電話する。ちなみに、これはまだあるのか?」


 この爺、目の色を変えたな。

 ということは、この金貨は本物の金っぽいな。


「価値次第で集めるかどうかだな」

「出所は?」

「スピリチュアルな話を信じるか?」

「信じねー。俺が信じるのは金だけだよ。まあいい。多分、本物の金だろうが、値段は詳しく調べてからだ」

「あいよー」


 俺は金貨、銀貨、銅貨を1枚ずつ預け、店を出た。

 そして、次の人に会うためにとある喫茶店に向かった。


 喫茶店に到着すると、中に入る。

 喫茶店は土曜の昼だというのにお客が一人しかいなかった。


「先生、こっちです」


 その一人の客が俺を呼ぶので、俺は同じテーブルにつく。

 俺がアイスティーを頼むと、店員はすぐに持ってきた。

 そして、奥に消えていった。


 この喫茶店には俺と対面に座るスーツの男しかいない。


「お久しぶりです、先生」


 男は俺を先生と呼び、頭を下げた。


「久しぶりー。元気だった?」

「ええ、まあ。親父も元気ですよ」

「そらよかった」


 この人、というか、この人の親父は俺の客の一人である。

 元々は母親の客だったが、母親は海外に遊びに行っているので俺が引き継いだ。


「タバコ、いいですか?」

「どうぞー」


 男がタバコの許可を求めてきたので、快く許可を出した。


「先生、いきなり電話してきたと思ったらこんなもんを何に使うんです?」


 男はそう言って、俺が頼んでいたものを紙袋に入れて渡してくる。


「最近、物騒でしょ。一人暮らしは怖くてねー」

「笑える冗談ですね。先生に手を出したら呪い殺されそうですよ」


 俺は呪いを祓うのが専門であって、呪う方じゃねーよ。

 まあ、呪いも出来るけども!


「失礼な。まあ、ホントに護身用だよ」

「まあ、いいですけどね」


 男はフゥーっと紫煙を吐く。


「料金を払おう」

「いらねーですぜ。先生には世話になってるし、親父もそう言ってた」

「いいから受け取れ。警察の方に黒い影が見える」

「ッ!! ガサっすか!?」


 男はタバコを消し、前のめりに聞いてくる。


「さあな。だが、何かがあることは確かだ」

「チッ! こんな時にかよ! 先生、すみません。俺はここで失礼します。ここの代金は払ってありますんで」


 男はそう言って、足早に店を出ていった。

 俺は残っているアイスティーを飲み干すと、もらった紙袋を持ち、店を出た。

 そして、その後はホームセンターなどのお店をめぐり、色々と買い物した後に家に戻った。


 戻った時刻はすでに夕方の7時を回っていた。


「いっぱい買ったなー」


 俺はリビングで今日の戦利品を並べた。


「しかし、物が多いな…………」


 俺はサバイバルグッズを始め、多くの物を買ってきた。

 だが、これをどう持ち運びすればいいのだろうか?


「リュックは…………目立ちそうだなー」


 基本的のこっちの世界の物は向こうでは目立つと思っていい。

 もし、良い物と思われたらカツアゲをされるかもしれない。

 いや、カツアゲで済めばいいが、強盗とかだとヤバいな。


「やっぱクレモンが使ってた収納魔法が欲しいなー…………クレモンからもらった本には書いてなかったし」


 クレモンからもらった魔法の教本には攻撃魔法しか書いてなかった。

 現在、練習中だ。


「誰かに師事するのが一番だが、やはりそれでも金がいるか…………」


 俺の所持金は金貨1枚もない。

 宿屋代を払い、質屋の爺にも渡しているからだ。


「まずは金儲けかね…………占いかなー」


 占いもさっきの男の親父みたいな太客ならいいが、そういうのは時間がかかる。

 信用されないことには始まらないからだ。


「待てよ…………こっちの世界の金はそこそこあるんだ…………これを元手に向こうで儲けるか!」


 こっちで何かを買って、向こうで売ればいい。

 正統派転売だ!


「で? 何を売る? 懐中電灯でも売るか? いや、オーバーテクノロジーすぎるか」


 向こうの世界は焚火だった。

 宿屋にも電灯はなく、蝋燭だったし、電気系はマズいな。


「となると、食料かな? 塩か砂糖でも売るか…………いや、売れるか?」


 あの干し肉はめっちゃ塩辛かった。

 塩はあるだろう。


「うーん、わからん。これは調査が必要だな。良く考えたら俺、あっちの世界で干し肉しか食ってねーわ」


 味付けも何もわからん。

 売れそうなものを調査し、ゲルドのおっさんに売りつけるか…………


 俺はとりあえず、キッチンにある砂糖と自室にある清めの塩をクレモンからもらったカバンにいれた。


「あとは…………まあ、こいつか」


 俺は今日受け取った紙袋から黒い塊を出した。


「ひえー。怖いわー」


 俺の手にあるのはハンドガンである。

 やーさんからもらったから本物だ。


「まあ、万が一の時に使えるだろう。弾は…………あんまねーな」


 これは練習できそうにもないな。


「というか、使い方がわかんねー…………」


 俺はすぐにスマホで検索することにした。


 ネットを調べれば銃の使い方がすぐに調べられるってすげーな…………


 俺はその後、無駄に銃を構えたりしながら準備を整えていった。

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