第006話 アルトの町にとうちゃーく!


 翌朝、俺達が乗る馬車は関所にやってきた。

 多くの人がおり、結構な順番待ちっぽい。


 俺は馬車から降りると、順番を無視し、関所を守る兵士に近づく。


「おい! 止まれ!!」


 兵士が槍を構え、警告してきた。


「貴様、私を誰だと思っている!! 私はクレモン宰相の縁戚であるぞ!!」

「は……?」


 俺が槍を構えた兵士に怒鳴ると、兵士が呆ける。


「これを見よ……」


 俺はカバンから通行手形を出すと、兵士に渡した。

 兵士はその通行手形を見ると、顔を青くする。


「こ、これは……!? も、申し訳ありません! 少々、お待ちいただけますか!?」

「早くしたまえ。私は宰相閣下の密命を受けているのだ…………!」

「はっ!!」


 兵士は慌てて、奥に向かうと、すぐに奥からベテランっぽい兵士が出てきた。


「貴様がここの責任者か?」


 俺は威圧的にそのベテランっぽい兵士を睨む。


「そうです。宰相閣下の縁戚と聞きましたが?」

「そうだ。私は密命により、エーデルに向かう。さっさと通せ!」


 俺は先ほどと変わらずに高圧的にしゃべる。


「しかし、私は何も聞いておりません」

「貴様、バカか? 密命の意味を知らんのか? 貴様程度の一兵士に密命をべらべらしゃべると思っているのか!?」

「しかし…………私はこの関所を守る仕事があります」

「私が信用できぬと?」


 俺は目を細める。


「い、いえ、そういうことではありませんが…………」

「では、通せ。その通行手形の意味を知らんのか?」

「いえ、しかし…………」

「ハァ……わかった。ならば、早馬を飛ばし、確認してくるがいい。ただし、密命の邪魔をした貴様らの首は飛ぶがな」


 俺がそう言うと、兵士が困った顔をした。


「…………わ、わかりました。お通しします。お一人ですか?」

「あそこに馬車が見えよう。あれで行く」

「商人の馬車に見えますが?」

「密命と言ったであろう。簡単に言えば、スパイの仕事だ。だから偽装してるのだ。これ以上は言えんぞ?」

「ハッ! おい、お通ししろ!!」


 許可が下りたので、俺は馬車に戻り、乗り込んだ。


「旦那、見事ですねー」


 御者をしているおっさんが称賛してくる。


「クレモンの確認を待つと面倒だからな」

「あんた、やっぱ詐欺師だろ」


 アンナが呆れたように俺を見て、言ってきた。


「うるせー。この国を出るように勧めたのはクレモンだ。話を通していないあいつが悪いし、通行手形を信用しない兵士も悪い」


 結論、これは仕方がないことである。

 俺は悪くない!


 商人のおっさんは馬車を走らせ、進んで行く。

 そして、関所を抜け、エーデルに向けて馬車を走らせていった。


 エーデル領に入ると、道がきれいになっており、馬車のスピードも上がる。

 この分なら思ったより、早めにエーデルのアルトという町に着きそうだった。


「道がきれいだなー」

「エーデルは冒険者の国って言われてましてね。建国した初代国王が冒険者なんですよ。それ以来、冒険者を集め、国力を上げています。道の整備も人の行き来を良くするためのものですよ」


 インフラ整備ってやつかね?

 速くていいし、振動が弱くなったのでお尻の痛みも減ってきた。


「なるほどねー…………」


 俺はチラッとフィリアを見る。

 相変わらず、フィリアの身体には蛇が巻き付いていた。


「あの、何か?」


 俺がフィリアを見ていたので、フィリアは顔をこちらに向けて聞いてくる。


「あー…………まず、名乗っていなかった。俺はリヒトと言う」

「はい。よろしくお願いします。あ、私はフィリアと言います」

「うん、よろしく。あのさ、アンナに聞いたんだけど、フィリアは修道女なんだって?」

「そうですね。冒険者と兼用ですが、私の祖父が教会の神父をやっているんです。ですので、お手伝い程度ですが」


 神父様が祖父ねー。

 うーん、両親は…………あ、いないっぽい。

 触れるのはやめておこう。


「なるほどね。これもアンナに聞いたんだが、教会ではスキルがわかると聞いたんだけど?」

「はい。スキルというか、ギフトですね。稀にですが、女神様からギフトと呼ばれる特殊なスキルを授かる方がおられます。教会ではそれを鑑定することが出来ます」

「ほうほう。実は異世界人はギフトがもらえると聞いたんだけど、俺のギフトが何なのかがわからないんだよー」

「でしたら、アルトに着いたら教会に案内しましょう。私の家がそこですし、祖父も紹介できます」


 どうやらフィリアはアルトの町の人間らしい。


「あー…………ちなみに鑑定料はおいくら?」

「すみません、金貨20…………30枚になります…………すみません」


 フィリアは言いにくそうに謝りながら教えてくれる。


 金貨30枚…………30万円くらいかー。

 しかし、途中で値段が上がったな……

 俺が出すと思って、上げたか…………

 かわいい顔して意外と強かだな、こいつ。

 まあ、自分のスキルはわかっていた方がいいだろう。

 クレモン曰く、ギフトは有用なスキルっぽいし。


「わかった。金貨が貯まったら教会に行くよ。悪いが、その時は頼む」

「はい。私は依頼で出てない限り、教会かギルドにいます。教会は町の人に聞けば、教えてくれますよ」


 これは早めに金貨30枚を貯めた方がいいな。


「ありがとう。おっさーん、3回くらい占ってほしくなーい?」


 俺はフィリアにお礼を言うと、おっさんに営業する。


「今、考え中だからちょっと待て。そのうち、頼むかもしれん」

「ふーん。他に商売でも考えるかなー」


 占いばっかではちょっとなー。


「旦那、アルトに着いたらまず、ギルドに登録した方がいいぜ」

「なんで?」

「今のままじゃ旦那はただの浮浪者だろ。ギルドに登録してれば、冒険者って肩書が付く。無職の浮浪者は下手をすると、宿屋にも泊まれねーぜ」


 住所不定無職か…………

 しかも、スピリチュアルな占い師。

 自分で言うのもなんだが、めっちゃ怪しい。


「冒険者って信用できるん?」

「無職よりマシ程度だが、エーデルは冒険者の国だからな」

「なるほど。おっさんも登録してんの?」

「俺は商人ギルドだ。商売するならそっちでもいいが、登録する際にどういう商売をするかとかの説明がいるぜ。金が動くからなー」


 めんどいな…………


「無許可で店とか開けねーの?」

「無理だなー。市場の露天だったら何を売るかの申請だけでいいぞ。店を構えようとすると、結構めんどくさい」


 まあ、店を構える気はない。


「その辺で占いをするのは許可がいるん?」

「…………あー、どうだろう? 一応、許可は取っておいた方がいいじゃね? 話を通しておいてやろうか?」

「お、やってくれるん?」

「まあ、旦那には世話になってるからなー。このくらいは安いもんだぜ。どうせ、アルトに着いたら商人ギルドに顔を出すし、その時に言っておいてやるよ」

「頼むわー」


 やはり知らない世界に来た時は人に頼るのが一番だな。

 あの時、西に曲がっておいて正解だった。



 その後、きれいな道を進みながら3日かけて進んでいった。

 正直、俺の体力的には限界だったが、ようやく町が見えてきた。


「旦那、あれがアルトですぜ」


 商人のおっさんに言われ、前方を見ると、壁に覆われた町が見える。


「おー! あれかー。俺、よく考えたら初めての集落だわー」


 これまでダンジョンみたいな丘と道ばっかだった。


「旦那はアルトに着いたらどうするんです? 俺と一緒に商人ギルドに行きますか?」

「うんにゃ。宿屋で数日休む。俺、もう限界よ」


 お尻が痛いわ、足が痛いわ、全身痛いわで最悪。

 干し肉ばっかでロクに飯も食べてないし、全身ボロボロだわ。


「リヒトはもう少し、鍛えた方がいいです」


 ミケが半笑いでバカにしてくる。


「猫ちゃん、こっちにおいで。抱きしめてあげるから」

「セクハラを通り越して痴漢です!」

「借金こしらえて身売りする時は言えよ。俺が3食付きで飼ってやるから」

「この詐欺師、完全に猫扱いしてくるな…………」


 だって、お前、猫じゃん。


「旦那、この国で奴隷はマズいですぜ?」

「奴隷? 奴隷って何? 鞭打つの?」


 ピラミッドでも作んのか?


「あー……他所の国だと、農奴とか鉱山奴隷とかあるんですよ。旦那も他所の国に行く時は気を付けてくださいよ。借金持ちには容赦ないですから」

「借金は大丈夫だと思うが、気をつけよ」

「まあ、旦那はどうとでもなりそうだけど…………あ! あと、女の奴隷を買ってもこの国には持ち込めないですからね。この国は奴隷がご法度ですから」


 女の奴隷なんかもあるのか。

 怖いねー。

 まあ、日本ではほぼないだろうが、発展途上国に行けば、似たようなのはあるだろうな。


「奴隷なんか買わねーよ」

「さっき、私を飼おうとしてただろ…………」

「プロポーズみたいなもんだよ」

「嘘つけ! 言い方がペットのそれだっただろ!」


 猫ちゃんもツッコミが上手くなったなー。


「旦那、言っておきますが、ミケはともかく、他の獣人をペット扱いすると、下手すると、殺されますぜ」

「大丈夫。ミケにしか言わないから。猫ちゃんは優しいから怒らない」

「いや、めっちゃ怒ってるけど…………」


 ミケは毛を逆立てて、俺を睨んでいる。


 仕方がないなー。


「漁港に着いたらまず、酒場に行くといいぞ。良いことがあると出てる」


 俺はミケのご機嫌を取ることにした。


「弟がいるの?」

「いや、わからないにゃ。良いことがあるってだけだにゃ」

「にゃって言うの止めろ。すげームカつく…………酒場ね。行ってみる」


 うんうん。

 行ってこい。


 俺はミケのご機嫌を取ることに成功した。

 そして、俺達が乗る馬車は町に入ると、そのまま進んでいき、ある建物の前に止まった。


「んー? 着いた?」


 俺は商人のおっさんに尋ねる。


「ああ。旦那がうるせーから宿屋まで来たぞ。ここは安いし、値段の割に良いところだからおすすめですぜ」


 おー!

 わざわざ宿屋まで送ってくれたらしい。


「あんがとよー」

「まあ、どうせ通り道だしな。旦那、ありがとよ。おかげで今回の売買も成功しそうだ」

「こっちも馬車に乗せてもらえて助かったよ。しかも、色々と教えてもらったしなー。感謝する」


 俺と商人のおっさんはお互いにお礼を言い合う。


「いいってことよ。俺は当分、この町のゲルド商会の支店にいることにした。何かあったら訪ねてこい。金は貸さんが、相談くらいには乗ってやる」

「ゲルド商会?」

「エスタに本店がある商会だよ。俺の名前がゲルドなんだ」


 そういえば、アンナが言ってたな。

 というか、おっさんとも自己紹介をしてないわ。


「なるほどー。あ、俺はリヒトね」

「聞いてたよ。まあ、お茶くらいは出してやるよ」

「酒を出せ」

「旦那、図々しいな…………まあ、いいか。じゃあ、俺らは行くぜ」

「ああ、お前らも世話になった。フィリア、あとでな」

「はい。リヒトさんもごゆっくりとお休みください」


 この子はいい子だわー。


「じゃあな。お前の占いが外れたら殴りに行くから」


 アンナはすぐに暴力に走るのがよくない。


「殴るのはやめろ。上手くやれよ」

「はいよー」


 アンナとの別れが済んだので俺はミケを見る。

 そして、両腕を広げる。


「何してんの? 飛びつかないよ?」


 ミケはプイッと顔を逸らす。


「猫ちゃんは本当に猫ちゃんだなー。まあいいか。気をつけてなー」

「リヒトに心配されたくないけど、まあ、気を付ける」

「拾い食いするなよー。拾い食いすると、お腹を壊すと出てる」

「拾い食いしねーよ! ってか、そんなもんは占わなくてもわかるわ!!」


 猫ちゃんは本当にかわいいな。


「まあいいや。じゃあ、元気でなー。俺は寝る」

「鍛えな」


 俺は皆に手を振ると、ミケ以外は手を振り返してくれた。

 そして、馬車が動き出し、行ってしまったので、俺は宿屋に入る。


 宿屋に入ると、受付らしきところに若い茶髪の女の子が暇そうに座っていた。


「こんにちはー」


 俺が挨拶をしながら近づくと、茶髪の子が俺に気付き、立ちあがった。


「あ、いらっしゃいませー。お食事ですか? お泊まりですか?」


 俺はそう言われたので奥を覗くと、奥が食堂になっていた。


「食堂もあるのかー。まあいいや。泊まりでー」

「はーい。何泊です?」


 この子は笑顔がかわいいな。

 歳は10代半ばくらいだと思う。


「1泊いくら?」

「2食の食事付きで銀貨4枚。素泊まりで3枚です。素泊まりでも食堂で食べれますよー。別料金ですけど」

「とりあえず、素泊まりでいいかな。3泊でお願い」

「はーい。えーっと、銀貨9枚ですねー」


 俺はそう言われたので金貨を取り出し、渡す。


「ありがとうございまーす。銀貨1枚のお返しでーす」


 茶髪の子はおつりの銀貨を返してくる。


「その銀貨は取っておくといい。チップだよ」

「え? いいの!?」

「いいよ、いいよ。その代わり、君の名前を教えて」

「私の? サラだけど?」


 この子の名前はサラね。


「サラ、俺はリヒトと言う。よろしく」

「あ、はい。よろしくです」


 サラがぺこりと頭を下げる。


「サラ、俺は長旅で疲れているので、今から泥のように寝る。多分、2日は寝てるので、放っておいて」

「わかりましたー! お食事もいいです? お水とか持っていきますけど?」

「とりあえずいいや。まずは寝る」

「かしこまりましたー。部屋は上です。一番奥の部屋が空いてますので、そこでお願いします。鍵は内鍵だけですので、出かける際は貴重品等を気を付けてください」


 外鍵はないのか。

 まあ、内鍵があるだけでよしとしよう。


「ありがと。おやすみー」

「おやすみなさーい」


 俺は受付横にある階段を上り、一番奥の部屋に入る。

 部屋は6畳くらいの部屋であり、ベッドと机があった。


 俺はドアを閉め、内鍵をかけると、ベッドに腰かけた。

 そして、スマホを取り出し、電源を付ける。


「電池は…………残り22パーセントか…………さて、アプリを起動してみるか」


 とっくの前に24時間は経っているが、ここまで使わなかった。

 俺はようやく一人になる時が来たのでアプリを使ってみようと思ったのだ。


「どうなるかはわからないが、不吉な気配はない」


 俺はアプリをタップし、起動する。

 すると、以前と同じようにスマホ画面がぐるぐると回る謎の動画が始まった。


「やっぱ気持ち悪っ!」


 直後、俺の目の前が光に包まれ、何も見えなくなった。

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