第5話 善行ポイントでも貯めるか




 月曜日の朝。


 世間一般的にも月曜ってのは憂鬱なもんで、それは俺にとっても変わらない。


 流石の俺も土曜日での出来事から、その夜の夢。そして、目覚めてからの女神からの悪魔のような囁き。


 こんな事が立て続けに起こればいつもよりも憂鬱になるのは仕方ないだろう。


 女神から魔法の貞操帯ってのを付けられてはいるが、トイレには普通にいける。


 が、それのせいで、セックスが出来なくて、性的に興奮する事も許されないらしい。


 それって、健全な男子高校生にはきつくないか?


 街に出れば秒単位で興奮する自信がある。


 そして、もしちょっとでも性的に興奮してしまうと罰として擬似的な痛みがあるらしいが、体験してないからどれほどのものか分からない。


 分からないものは深く考えない。


 そして、一番分からないのが、善行をしろ、というものだ。


 それをしないと週末の金曜日に恐ろしい悪夢を見せられるらしい。


 まぁ、これに関しても恐ろしいって言ってもどの程度かよく分からないので気にしていない。


 一応、ネットで調べたけど、善い行いってのは具体的に何をすればいいのかは書いていなかった。


 まぁ、人から褒められる事をすればとりあえずいいだろう。


 朝食を食べ、家を出た。


 学校をサボるって選択肢は良くないかな?


 善い行いって言うのは悪い事をしないって意味も含まれている気がする。


 罰って言ってたし、あまりあの女神を刺激するような行動はしない方がいいな。


 家を出て、何気なしに風美の家に目がいった。


 玄関先に風美の姿はない。


 先週までは毎日一緒に登校していた。


 その風美の姿がない・・・


 まぁ、当然だな。あんな事があったんだから・・・


 俺は気にせず一人で学校へ向かった。


 教室に到着して、自分の席へ座る。


 何人かのクラスメイトに挨拶したが、特に変わった様子はなかった。


 何人かに風美は一緒じゃないのか、と訊かれたが適当に誤魔化した。


 この様子だと、俺と沙羅の浮気は広まってないようだ。


 まぁ、あの二人は噂を広めて俺と沙羅を貶めるとかは考えなさそうだ。


 根本的に優しすぎるんだ、あの二人は・・・


 フッ、俺と沙羅が逆の立場なら絶対噂を広めただろうな。


 特に沙羅なんて気が強くてプライドが高いから何をしでかすか分かったもんじゃない。


 俺も多少意趣返しはするかもしれないが、あまり面倒ならそこまで真剣に復讐的な事はしないと思う。


 怒りって結構パワーいるからな。


 そんな事を考えていると、教室に優太と風美が同時に入ってきた。


 二人で楽しそうに話しながら、各々の席に座った。


 事情を知らないクラスメイトもその光景に不思議がっている素振りはなかった。


 その内この違和感に気づき出すかもしれないが、俺達の今の関係を知らなければ、即座には分からないだろう。


 まぁ、バレたところで俺は気にしないがな。


 優太と風美から遅れる事、数分後。沙羅も教室に入ってきた。


 しかし、その綺麗に整った顔は蒼白で、今にも死ねそうな表情をしている。


 まだ浮気がバレた土曜日の事を引きずっているのか?


 弱っちいヤツだな。壊れたものは修復不可能だ。気持ちを切り替えて前へ進め。


 沙羅は顔面蒼白まま優太と風美を避けるように席についた。


 そのまま午前の授業は何の問題もなく過ぎ去った。


 昼休みになり、俺は無意識にクラスを見渡した。


 風美と優太はそれぞれ弁当箱を片手に一緒に教室を出ていった。


 今までは俺と風美と優太と沙羅の四人で昼飯を食べていた。


 朝の登校と一緒で、これから風美と一緒に食事する事はないのだろう。


 まぁ、当然だな・・・


 ふと、横目で沙羅を見やると、風美と優太が立ち去った教室の入口を睨みつけていた。


 何を思ってそんな事をしているか知らんが、そんな意味のない事をしても、優太はお前の元には戻ってこないぞ?


 優太が沙羅と寄りを戻すとは思えないが、せめてもうちょっと建設的な行動をした方がいいんじゃないか?


 俺は内心呆れながら、他の仲の良いクラスメイトと一緒に昼飯を食べた。


 その後も問題なく授業が進み、あっという間に放課後になった。


 放課後になると、風美と優太はさっさと教室を去った。


 何度も風美と優太が一緒に行動している様子を目の当たりにすると、慣れてくるもので、特に気にする事もなくなった。


 沙羅は教室に残っているが、動こうという気配がない。


 沙羅との関係も俺の中では終わったようなものなので、特に話しかけようという気になれなかった。


 優太ははっきりと沙羅に別れを告げていたが、俺と風美はそこら辺、ちゃんとしてないな・・・


 まぁ、はっきりさせなくても、分かり切っている事だがな。


 俺もそのまま一人で教室を出た。


 部活もしてないから、特にやる事もない。


 何処かに寄り道する訳でもなく、歩いていると、自販機に備え付けられているゴミ箱から空缶が溢れていた。


 俺は足を止め、それらを凝視した。


 ちょうどいい。これを片付けて、善行ポイントでも貯めるか。


 ポイント制なのか知らないが、ゴミ拾いって良い行いの代表みたいなもんだろ。


 俺は溢れていた空缶を手に取り、ゴミ箱へ押し込んだ。


 中身がパンパンに詰まっているみたいで、中へ入れるのが難しい。


 思いっ切り力を込めて押し込むと、何とか空缶をゴミ箱へ入れる事が出来た。


 その拍子に反対側の入口から空缶が飛び出してきた。


 俺は空缶を拾って、それをゴミ箱へ捨てた。


 今出てきた空缶については知らん。


 んー、良い事するっていうのは気持ちがいいなぁ。


 俺はそのまま家へと帰った。


 それから火曜日、水曜日、木曜日と何事もなく日々が過ぎ去り、金曜日の夜を迎えた。


 普段なら明日が休みの金曜日の夜は深夜まで遊んでいたが、今日は何故か異様に眠たくなり、俺は早めに寝る事にした。


 ベッドに横になるとすぐに深い眠りについた。


『ようこそ。そしてさようなら。これからもよろしく』


 平坦な口調のその声音には聞き覚えがあった。


 


 

 


 


 


 

 

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