第4話 脳破壊された者の恨みは恐ろしいのよ
わたしはガバっとベッドから起き上がった。
夢・・・?さっきのは夢だったのかしら・・・
『夢じゃないわよ』
「わっ! えっ、どこから聞こえて・・・」
『アナタの頭の中に直接語り掛けているのよ、美城沙羅。テレパシーってやつね』
テレパシー? そんな事信じられない・・・
けど、部屋にはわたししかおらず、現実に頭の中に声が響いている。
『ビッチのアナタに事細かく説明するのは面倒だから簡単にアナタに架せられた罰を説明しましょうか』
「罰って・・・ほんとにそんな事・・・」
『アナタたちに拒否権はないって言ったわよね?そんな事で押し問答しても仕方ないから次々いくわよ。アナタたちには魔法の貞操帯を付けさせてもらったわ』
「魔法の、貞操帯・・・?」
『当然、アナタたちの世界に魔法なんてものはないけど、貞操帯はあるでしょ?貞操帯は元々、男女の貞操を守る為のもの。パートナーに純血を求める為に付けたりもしたそうよ。でも、アナタたちの場合はこれ以上乱れた性行為をさせない為の戒めよ』
「そんな、乱れてなんて・・・」
『どの口が言うか、このビッチがッ! フゥ・・・ でも、安心しなさい。それだけじゃないから』
寝起きの頭に女神様の声が痛いぐらい響く。
『当然、性行為を封印したぐらいじゃわたくしの気が収まらないわ。だから、アナタたちには日々善行を行なってもらうわ』
「善行・・・?」
『徳を積むとも言うわね。まぁ、分からなければ後で辞書でも何でもいいから調べなさい。そして、ちゃんと善行を行なえたかその週末に査定するわ』
「ちょっと待って下さい。寝起きでいまいち理解出来ません」
『とにかく、毎日良い事をしなさいって事よ。それが出来なければ恐ろしい罰が待っているわ』
「罰ってこれ以上さらに何かあるんですか?」
『当然よ。脳破壊された者の恨みは恐ろしいのよ』
「ぐ、具体的にはどのぐらい良い行いをすればいいですか?その罰って何なのですか?」
『そんなの言う訳ないじゃない。空き缶を十個拾えばいいって言えばアナタはそれ以上の善行をしないでしょ?だから、教えない。ただし、必死に善行する事ね。出来なかった時の罰はこの世のものとは思えない恐ろしい悪夢を見る事になるわよ』
「ゴクッ・・・」
わたしは喉を鳴らした。だって、女神様の声音が凄くおどろおどろしく感じたから。
『アナタたちは学生だから一週間単位で分かりやすくしてあげる。毎週月曜日から金曜日までの間に善行を行ないなさい。そして、それがわたくしの定める規定値に満たなかった場合、金曜日の夜に悪夢を見る事になるわ。どんな悪夢かはその時のお楽しみ』
「ま、毎週って・・・一体いつまでこの罰を受けなければならないのですか?」
『さぁね、いつまでかしらね?許されるまで?そんな日がくるのかしらね・・・』
女神様の「クスクス」と妖艶に笑っている声が聞こえる。
『因みに、性行為は当然禁止しているけど、性的興奮にも気をつけなさいよ。ちょっとでも興奮を感じると疑似的だけど痛い目をみるわよ』
今度は「クククッ」と不敵に笑っている声が聞こえた。
怖い。訳の分からない女神という存在もそうだけど、その話の内容はとても受け入れられるものではない。
『フフフ、純愛を愛する者が突然NTRに出会うとね、脳が破壊されるのよ。そしてどうなると思う? フフフ、徹底的にやり返すのよ。浮気男と浮気女を地獄の底へ叩き落せと囁くのよ。わたくしは絶対にアナタたちを許さない。とことん付き合ってもらうわよ』
そこで女神様の声はわたしの頭の中から消えた。
女神様との話を終えたわたしは汗をびっしょり搔いていた。
汗を流す為にシャワーを浴びながら、女神様に言われた事を振り返る。
今日は日曜日だから明日からって事?
しかも、それが毎週・・・
なんでわたしがこんな目に合わないといけないのよ。
・・・勝と浮気したからよね。
自分のしでかした事ぐらい分かっている。ただ、ここまでされないといけない事なのかしら?
そうだッ!優太に許してもらえれば女神様も納得するんじゃないかしら。
当事者である優太が許せば他人の女神様がとやかく言う権利なんてないはず。
それにわたしはまだ優太の事が好きだ。
優太はわたしと別れると言ってたけど、真摯に謝れば許してくれるはず。
今までだってそうだったから。
わたしはスマホで『徳』について検索した。
「えっと、徳っていうのは善い行ないをしたり、立派な行いをする事ね。それと・・・『隠徳』? なになに、人知れず善い行いをする事。そして、徳を積むとは善い行いに対して見返りを求めない事・・・か」
あの女神様のことだから一個善い行ないをしたからって許してくれなさそう。
でも、優太が許してくれるのと空き缶一個拾うのでは一個の重みが違う。
優先するべきは優太よ。絶対そう。間違ってないわ。
わたしは決意を固め、明日の月曜日に備えた。
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