第10話


「本当は……君に『この町から逃げろ』と言うつもりだったんだ。もしも鐘が見つからなかったら、私とゾンビの彼は町全体を焼き尽くすように命じられていたから。でも……言えずにずるずるここに滞在してしまった」

 ヴァンプは静かにそう言った。

 俺はちょっと考えたあと、こう返した。

「……何で俺にだけ、そんなに気に掛けるんだ?」

「……」

 そこからしばらく長い沈黙があった。

 けれど、彼女は返事を返す。

「多分……さっき君が言ったように……。私達は、友達になったから、だと思う」


 それから彼女は決壊したダムのようにまくし立てた。

「……その、私は長い間生きているが、君が初めての友達なんだ。私はずっと箱庭の中で生きてきたから。さみしくて冷たいところだったんだ、私が入れられた保管庫は。でも、君のそばは暖かい。楽しい。初めて安心して寝れた。それに、何かを作りたいと思ったのも初めてだった。だって、愚かなことだと言われてきたんだ。人を傷つけるために作られた怪物が、創作をするなんて! 

 …………あ。そ、そういえば、君は私を吸血鬼だと分かっていた、な?」

 ヴァンプは途中で我に返ったようにこちらを向いた。不安げな顔だった。

「ああ、初めからな」

「……なんで、その……君はどうして私が吸血鬼だと分かってて、親切にしてくれたんだ?」

 確かに、と思った。

 振り返って考えてみれば、自分のテリトリーに入り込んだ怪物に対してあまりに変な対応をしたものだ。見かけは人型でも、人ならざる力を持っているのに。…………そう、見かけは。

 ああ、そっか、そういうことか。俺はあのとき、最初にヴァンプに会ったとき……。


「俺さ。初めて会ったとき、アンタ見かけは大人なのに、中身は子供みたいだなぁって、思ったんだ」

「そ、そうか?」

「だってアンタ、任務で外出るってときに、はしゃいでたんだろ。普段閉じ込められてて外になかなか出れないから。しかも、雨の中をさ」

「……ああ、まあ、そうだな。確かに子供みたいなことをしていた」

「そんで、俺は面倒見良い方だからさ。ついつい、世話焼いちまった」

「……そうか。……それで、その印象のまま私を爆発から庇ったのか。吸血鬼だと知っていたのに」

 ヴァンプは俺を睨みつけた。

「……咄嗟に体が動いたんだ。勝手に。なんだよ、友達を助けるのがそんなに良くないことか」

 そう答えると、彼女は睨んでいた目をまんまるにした。それからため息を吐いた。

「……だからといって、自分までアンデッドになるとは」

「ミイラ取りがミイラになる、ってやつか」

「絶対使い方間違えてる。…………それに、一緒に旅がしたいなんて」

「だって俺ん家アンデッドが近付けないようになってるんだろ?」

「まあそうだが」


 そう。俺達は今寝台列車に乗っていた。田舎町を去り、行く宛もない旅に出ることにしたのだ。

「だが本当にいいのか? 家族が寂しがるだろう」

「置き手紙は残したし、たまに連絡もする」

「……」

「それに、ネクロマンサーの末裔兼リッチーとして、【怪物生産工場】も【黄泉返りの鐘】も見逃せない」

「それは……どういうことだ?」

「な、ヴァンプ。二人で世界を救おうぜ!」

「……モンスターがモンスター退治か?」

「いいだろ? それで、全て片付いたら冒険譚の歌を作るのさ」

「それは……、いいな。面白そうだ」



 こうして俺達は、怪物だらけの世界を救う旅に出たのだった。


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