第8話

 ヴァンプは震える手を抑えながら、静かに口を開いた。視線はふらり彼方へ向かう。

「私は……実は吸血鬼なんだ」

 あの図鑑に書かれていただろう、と彼女は肌を一層青ざめて言った。

 なんだ、今更そんな話か。

「それは知ってる」

「えっ」

 彼女はめちゃくちゃ驚いていた。目がまんまる、口もあんぐり間抜けに空いている。初めて見た表情……いや違うな。初めて会ったときに見たことがあったな。傘とタオルを持ってきてやると言ったときの。

「ヴァンプ。俺が知りたいのは、さっきの男が誰なのかってこと。あと、結局アンタは何でこの田舎町にやってきたのかってこともだ」

「…………」

「……あ〜、ええと、話したくないって言うなら仕方な……」

「いや話す。君に、全部。信じてもらえるかは分からないが、それでも」


 ***


 吸血鬼と言っても、私の場合あまり格好いいものではない。

 何故なら私は人工の吸血鬼だからだ。

「人工?」

 ああ。人間の手で作られた。私の製作者は、怪物生産工場モンスターファクトリーの長だ。

 化け物共を生産し、手懐け、武器にする。それがファクトリーの基本理念。

 そして、私はそれに作られた奴隷。

 ……大丈夫か? ついてこれてる?

「び、微妙……」

 そうか。うーん、そうだな。とりあえず怪物を生み出す工場があって、私とさっきの男はその工場からやってきたんだ。あ、彼はゾンビだ。外見は完璧に人間だが、自我を持たない。それと、彼が得た情報はすぐさま工場長に伝わる。だから私が君とともに逃げたのもすぐ……「待て待ていっぱいいっぱいだぞこっちの頭はもう」

 ……すまん。

「もういいよそこらへんのは。で、なんでヴァンプとゾンビがこの町に来たんだ?」

 この町……いや、君の家にあるはずのものを工場が狙っているからだ。

「俺の家ぇ?」

 そう。黄泉返りの鐘というゾンビを発生させる……「ああそれかぁ。確か二、三年前にお袋が落として割っちまったんだった」

 えぇ…………………。


 ***


「じゃあ……もう……意味ないじゃないか、任務……」

 ヴァンプはめちゃくちゃがっかりしていた。

 仕方ねぇだろと思いつつ、肩をポンポン叩いて慰める。

 そこでふと、疑問が湧いた。

「つーかさ、工場ってのは何で黄泉返りの鐘が必要なんだ? もうゾンビも吸血鬼も手の内にあるってのに」

「……強欲なんだ。黄泉返りの鐘は世界中にいくつもあるらしい。その内の一つはもう工場にあるが、それでも鐘を見つけ出したいのさ。ライバル企業が現れないように」

「ふぅん……。ああ、前にハンドベルを持ってきたらアンタ嫌がってたな」

「私はアレで調教された。もしも鳴らされたら、主の言うことを聞くしかない。厄介なことに電話越しでも効果があるんだ」

「……なぁ、あのゾンビ携帯電話持ってる?」

「持たされてる。私を監視するために。……もしかしたら、ネクを殺すように命令されるかもしれない。……だから私はもうこの町を出る。ネク、さよならの時間だ」

「……出てどうすんだ?」

「逃げる。あのゾンビから、鐘の音から、工場長から」

「追いつかれたら? アンタ結構アホだからすぐ捕まりそう」

「失礼な」

「ひひひ。……なあ、いいこと教えてやるよ」

「……いいこと?」

「ああ。俺はアンデッドのことならよく知ってるからな」


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