第7話

 ふらり散歩の途中で

 雨晒しの首に傘を差してやった

 するとそいつは口を開けて

「どうもお前さん、ご親切に」

 俺は一応会釈した


「なかなか独創的な詩だな」

「でもここから何も思い浮かばねえわ」

「そうか」


 ***


 ネクが帰ったあとの夜、私はまた町を廻った。

 退屈な田舎町とネクは言うが、私はここがとても気に入った。仕事が終わってもしばらくいたいくらいだ。

 ……何故かは、あまりわからないが。


 その時、ガサッという音が後ろから聞こえた。

 私は振り向かず、ただ声を掛けた。相手は誰だか解っている。同業だ。

「鐘はまだ見つからない。そっちはどうだ?」

 しかし返事は返ってこない。元より期待はしていなかった。奴に言葉を聞く能力はあっても、言葉を自身で操る能力はないのだ。


 ゾンビ。

 それの本来の意味としては、『死んでいる生者』だ。普通に生きていた者に、呪いを込めた粉を舐めさせ脳を麻痺させ、支配下に置く呪術。それの成功物が元々のゾンビというものであり、そしてだ。


 私はゆっくり振り向いた。

 そこには肌艶のいい男がいた。……しかしその目は虚ろでどこを見ているのか分からず、その顔にはなんの想いも感じ取ることはできなかった。そこにあるのは泣きもしない笑いもしない、ただの無表情。きっと今私がこの男を殴っても、驚いたりはしないのだろう。多分、すぐさま闘うか逃げるかの反応をする。そういう風に事前に命令されているのだ。我が主によって。


「おーい。何してんのー?」


 その声に、今度は私とゾンビ両方が振り向いた。

 ネクが身体中泥まみれになりながら、手を振っている。

 ああ、いけないっ! ゾンビは主の目と耳だ!

 ゾンビが前に出ようとする前に私は足払いをする。奴はバタンとすっ転んだ。その隙に私は急いでネクの元に駆け寄る。

「逃げるぞ」

「え」

 彼の腕を掴んで走り出した。

 後ろでかすかにジタバタする音が聞こえる。早く、早く逃げなければ。


 ***


 私とネクは急いでテントの中に入り込んだ。行くべきところがここ以外思いつかなかった。

 彼の口を手で塞いで、しばらく周りに耳を集中させる。……追ってきてはいない。ふと私の足を見ると、血がついていた。返り血だ。どうやらゾンビの足を砕いてしまったらしい。それならひとまず心配はない。

 ネクが睨んでいる。私は手を引いた。

「えーと、そんで、どういうこと?」

「……いや、まあ、色々あるんだ」

「色々を教えろっつってんの」

「……本当に知りたいか?」

「あのなぁ、俺はなぁ。ネクロマンサーの一族の末裔で、墓守りの跡継ぎで、いやなるつもりないけど……。んで、その、アンタのダチなんだ。ヴァンプがすごく困ってるなら、なんとかしてやりたい」

「…………分かった」


 どう言えばいいか、どこから言えばいいか、私は悩みつつ……私はこの身に迫る不思議な感覚に驚いていた。

 もう動かないはずの心臓が、ドクンと動いたような。冷たいはずの体がほんのり暖かくなったような……。


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