第5話
「ようヴァンプ。すまんが俺はしばらく忙しいから構ってやれないぞ」
「何故だ?」
「最近墓荒らしが来てやがる。俺の一族が管理してる墓を夜な夜な掘り返す不届き者がな。だから一家総出で罠を張るつもりなんだ」
「ほう。お前はどんな罠を作るんだ?」
「俺はな、落とし穴! すげーでかいの作って墓荒らしをビビらせてやるんだ!」
「ほほう、それは面白そうだ。……一応下にクッションを敷いてやれ。身元も知らぬ死体が増えたら困るだろう?」
「ああ、なるほど。なんか知識あるねヴァンプ。もしかして落とし穴作ったことあるのか?」
「落っこちたことがあるんだ」
「ああ……それは、なんつか、ご愁傷さま」
***
そうしてネクは一週間ほどテントに来なかった。実際のところ私は彼に会うのが目的なので、暇になってしまった。
……彼の言っていた墓荒らし。恐らくは私の同業だろう。捕まることはないだろうが、それよりネクと彼の家族が心配だ。今の彼らが普通の墓守ならばいいのだけれど。
この町に来てからというものの、私は昼はネクの秘密基地、夜は町の徘徊を繰り返すという生活だった。いや、徘徊と表現するのはおかしいか。
私はこの町で、あるものを探している。【黄泉返りの鐘】と呼ばれるものだ。
簡単に言えば死体のそばで鳴らすだけでゾンビを作れる代物だ。また、種類を問わずアンデッドを従わせることができる。
ネクがこの間持ってきたハンドベルは残念ながら(あるいは幸運にも)違かったが……。私、ひいては私の主人はネクの一族を疑っている。
何せネクの家は代々ネクロマンシーを生業としていた家系だったのだ。黄泉返りの鐘を持つ理由が十分にある。
私の同業はどうやら、墓場に隠されているのではないかと考えているようだ。
そして私は、ネクの家にあるのだと考えている。
しかしその家には入れない。アンデッド除けの
……だから彼に、ネクにそれを持ってきてもらえれば、全て事が済むはずだ。
……だから私は、彼に近づいたのだ。
秘密基地の中でそおっと息を吐く。長い長いため息を。
すると、微かにこの場所の主の匂いを鼻が拾う。
テントの入り口を開けると、
「おーい、ヴァンプー!」
しばらく会っていなかった少年がこちらに向かって手を振っているのが見えた。
なんだか日焼けをしているようだった。
ふむ……男子三日会わざれば、刮目して見よ、か。
「なーなー、これ見て!」
そう言う彼の左手には、なんとも奇妙な表紙の本が一冊。
禍々しい雰囲気を感じる。
「……なんだそれ?」
「アンデッド図鑑!」
「な……なんで持ってきた。大事なものではないのかそれは」
「ヴァンプ、俺のいない間は暇だと思って」
「…………」
まあそうだった。
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