第4話
私は好きな物が多い方だ。
陽は当たるのはともかく、見たり感じたりするだけなら好きだ。特に木漏れ陽がいい。幻想的な光が地面に、タンポポの綿のように広がって美しい。
夜明け前の清々しい風も好きだ。それに頬を撫でられるととても心地良い。朝から良い気分になれるのは、幸せな一日の始まりだと言える。
それから、読書。主に小説。できればうんと長い話がいい。時間を大いに費やせる。図鑑も悪くない。知らない世界を知れることは、楽しい。
でも、私には唯一嫌いなものがある。
――鐘の音だ。
「なんで?」
「とりあえずそのハンドベルを置いてくれ」
「だからなんで?」
「……説明したって理解できない。だから頼む、それを鳴らすな。床に置いてくれ」
「……まあ、いいけど」
少年は持ってきたハンドベルをゆっくり床に置いた。家の倉庫から楽器を探そうとした結果だそうだ。申し訳ないことをしたが、仕方ない。
「鐘の音が嫌いって、なんだかヴェノムみたいだな」
「ヴェノム?」
「いや、こっちの話。それより、なんで鐘の音は駄目なんだ? あれか、耳が良すぎるから逆に駄目になるとかか?」
「……何で私の耳が良いと思った?」
「だってお前、俺がテントに来る百メートル手前で叫んだろ、『やめろ』っつってさ。ちょっと驚いたぞ」
「…………すまない」
「……オーケーオーケー、ハンドベルはよしとく。また今度別の楽器を見つけてくるとしよう」
私は酷く落ち込んだ。
彼からほんの少しでも希望を奪ってしまった。
彼は最近出来た、私の好きな人間だ。
できれば仲良くしていきたい。たとえ短い間だったとしても。
「本当にすまない……」
「別に気にしなくていいよ。……あ、じゃあ代わりに一つ質問に答えてくれよ」
「ああ、何でも聞いてくれ」
「あんた、名前は?」
「名前?」
そういえばまだ名乗っていなかったかもしれない。
「私は、……ヴァンプだ」
「ヴァンプね、オッケー」
「君の名は?」
「俺はネクロマン・シタイスキー・シュタインだ。よろしく」
「……ネクロマン・シタイスキー・シュタイン?」
「ネクロマン・シタイスキー・シュタイン。ネクでいいぞ」
「ネ、ネク」
「ほい、握手」
「あ、ああ」
手を差し出されたので、握手をした。……彼の手は温かかった。
「お前の手、冷たいのな」
「君の手は温かい」
「そっか? 普通だと思うけど」
「そうなのか」
「そもそも、お前のほうが冷たすぎ」
「なるほど」
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