第3話

「よう。また来たのか」

「……悪い」

 吸血鬼はまたテントの中で座り込んでいた。

「いや、まあいいぜ。ちょうど話し相手が欲しかったんだ」

「……それ、どうしたんだ?」

 俺はその時子供用の喪服を着ていた。吸血鬼はそれを見て首を傾げる。

 俺は吸血鬼の隣に腰掛けて説明をしてやることにした。


「俺の家はまあまあ特殊な家でな、とりあえず今は墓守をやってんだけど、昔は死霊術ネクロマンサーやってたんだって」

「……ネクロマンサー」

「死体を蘇らせて意のままに操る魔法のこと」

「……な、なるほど」

 彼女は困惑している。

「ええと……そのネクロマンサーと、その服装とどんな関係が?」

「まあ掻い摘んで話すとな、俺が生まれるよりずっーと前……、ここである日沢山の人間が死んで、その後ゾンビになった。もちろんネクロマンサーのせいだ。けどあんまりにも大量だったから上手く操りきれなくて暴走、俺の先祖が泣く泣く処分。それから、当時の当主が家業だから続けてきたけどゾンビはもうコリゴリだっつって、墓守に転職したわけ。そんで今日はその日なわけ」

「……お、おう」

「要は死者記念日ってことさ」

「……」

「どうした?」

「……その……、いきなり話が大きくなって驚いている」

「ま、そりゃそうか」


 俺は微妙な顔をした女を横目に、持ってきた鞄の中からゲーム機を取り出した。

 最近お小遣いで買ったRPGをやりだす。


「つまり……今日はお前の家にとって大事な日なんだろう? 何故ここにいる」

「退屈すぎんだよ。だって一日中メシ抜きだぜ? その上祈りを捧げるとかなんとかで、自室から出ちゃ駄目なんだ」

「そのゲームをしていればいいじゃないか。部屋の中で」

「今日は禁止されてんの。だから出てきた。つーかさぁ、死者の冥福を祈るってーのがよく分からんのよね。死人は死人。もう動かない、喋らない。そんなもんのために何故生者が祈らなければいけないんだ? 身を犠牲にして」

「……」

「なんだよ」

 彼女は迷っているようだった。言いたいことがあるなら言えと催促すると、吸血鬼は口を開いた。そこから牙が見える。

「私は、君よりも年上だ」

「だから何だよ」

「永く生きているんだ。君よりも」

「だから何だってんだ」

 そんなこと、分かりきっている。だって俺はこいつが吸血鬼であることを知っているのだから。

「……私は、今まで沢山の死を見てきた。沢山の出会いと別れを経てきた」

「……え」

「だけども、どれも思い出せない。誰の顔も名前も、父でさえ母でさえ、もう思い出せない」

「……」

「だから、死者を思い出す日というのは、素晴らしいことのように思える」

「……帰らないぞ俺は。そんな説得されても」

「ああ。別にそれは構わない。ここは君の秘密基地なのだから。でも……死を思い出すことを、簡単に否定しないでほしい。私はそれがもうできないのだ。若い君にしかそれはできないんだ」

「……」

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