第2話

「なぁ、テントに置いてあるノートは何だ?」

 吸血鬼が俺の秘密基地の片隅に置かれた鍵付きのノートを指差す。

 俺は教えてやんない、と答えようとした。が、鍵が外れていることに気がついて青ざめた。

「うげぇっっ!! 鍵掛け忘れたのか!! テメェそれ読んだか!?」

 吸血鬼は普段と変わり無い表情で「まだだ」と返した。……といっても、なんせ吸血鬼だから普段から青ざめているんだが。

「本当かぁ?」

「本当だ」

「……そんなん気にするな、そのまま置いとけ」

「いや、すごく気になる。中身を教えてくれないか」

「……誰にも言わない?」

「言う奴がいない」

「じゃあ、馬鹿にしない?」

「しないよ」

「………………詩を、作ってんだ」

「し。……死?」

「ポエムってこと! その……いつか都会に出てさ、歌で食っていきたいんだ。今の所楽器が無いから音はまだなんだけど、とりあえず歌詞を書き溜めてんの。いい感じの言葉が思い浮かんだらそのノートに書くんだ。いつかギター買ってさ、じゃんじゃか鳴らして歌い歩く。それが俺の夢なんだ」

「なるほど。……この町でなく、都会で?」

「ここ田舎町だぜ? つまらない場所だ。それに俺ん家、家業が『墓守』だし。陰気臭いことこの上ない」

「そうか。ノートの中、見ていいか?」

「本当に誰にも言うなよ?」

「言う奴がいないって」


 女はノートを開いて、一ページ目に書かれた言葉を口に出す。


「ええと……


 つちくれの中で目覚めたら 君に会いに行こう

 偽りの罪を被せてくれた礼に

 首を跳ねて、棺桶に入れてくれた礼に

 

 ……怖いよ」

「怖くなっちゃったんだ、何故か」


 それから、二ページ目を開く。


「ふむ……。


 朝焼けを眺めて こないだのことを思い出す

 君が生まれてきた朝の光

 夕焼けを眺めて こないだのことを思い出す

 君が眠りについた夕の光


 これは……、なんとなく切ないな」

「だろ?」


 彼女は他のページもペラペラめくって読んでいく。


「で、どうよ。年上のお姉さんから見て」

「……そうだな。君の言葉は、怒りに満ちているものもあるし、寂しい気持ちになれるのもあった。でも共通して言えるのは、生と死を同時に感じることだ。言うなれば……『生きている死者』とも、『死んでいる生者』とも喩えられる」

「お、おう……そんな真面目に批評されるとは思わなかったな」

「……とても好きだ。墓守らしい詩だった」

「そいつはどうも」

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