墓守少年と吸血鬼

双六トウジ

第1話

「ねぇアンタ、どうしてここで休んでるんだ?」

「だって……」


 ***


 俺の住むファイブワン・タウンはいわゆる田舎町で、都会の文化なんてものは憧れるほど流れてはこなかった。だから退屈で退屈で仕方ない。

 それに、子供が少ない。そして子供の中で最年長の俺は、みんなの兄貴分。

 ……要は、小さいガキに毎日毎日ずーっとまとわりつかれるのは、めちゃくちゃ疲れる。


 そこで俺は森の中に秘密基地を作った。俺専用の、俺の俺による俺のための基地。

 家の倉庫にあった使い古されたテントを持ってきて、破けたところを縫って、森の中の見つかりづらいところに隠しておいたんだ。暇なときはそこに行って、ぼーっとしたり本を読んだりするんだ。


 だけどある日の午後、そこに入ったら……そこには女がいた。

 腰まで長い赤毛。日焼けを知らない真っ白を通り越して真っ青な肌。高い鼻に長いまつげ。スラッとした手足。普通の言葉で表すならば、美しい女。雑誌のモデルみたいな。ただしずぶ濡れだが。それから、口をよく見てみれば犬歯があった。

 だがそれより俺は、俺の聖域に他者がいるのが気に食わない。

 だからどうしてここにいるのかと聞いた。

 だがしかし、返ってきた答えはよくわからなかった。

「……だって私、傘を持ってきていないから」

 はぁ?

 俺は首を傾けながらまた問いかける。

「……今日の午前は雨が降ってただろ。そしたら普通、傘ぐらい持っているものじゃないのか?」

 すると、その女はひどく真面目な顔で、

「だって……、私は日の下を歩くことができないから」

 なんて答えやがった。

 普通の奴なら、不思議なことを言う女だなぁと思うだろう。或いは不審者。


 だが俺は違った。

 すぐさま勘づいた。

 こいつは、吸血鬼ヴァンパイアだ。

 何故そう思うかって?

 何故ならば、俺ん家には『アンデッド図鑑』が隠されてるから。そしてそれを俺はひそひそ隠れて読んでたから。

 その本によると、吸血鬼とはアンデッドの一種。死んで墓に入った人間が蘇り、青い肌、鋭い牙を持つ不死身の怪物になる。

 そして、吸血鬼は太陽の光に当たると灰になるのだという。


 つーことは……、

「なるほど……あんた、のか。日の下では歩けないから」

「ああ」

「あんたいくつだ? 雨の下で遊ぶなんてガキ共がよくやることだぞ」

「君だってガキだ。十二かそこらに見える」

「おっと不正解。十三だ。だが傘も無いずぶ濡れの女が、年齢で序列付けようなんて無理だね」

「……」

 まったく呆れたものだ。だがこのままでは、俺の秘密基地が吸血鬼のせいでずぶ濡れになる。それは良くない。こいつには早く出ていってもらわなくては。

「仕方ない。家に戻って、傘とタオル持ってきてやるよ」

「……え?」


 傘とタオルを渡してから、数日後。

 何故かその吸血鬼は度々この秘密基地に来ている。

「なんで?」と訊いてみたものの、ろくな返事は返ってこない。

 大体、「……なんとなく」「特に理由はない」だ。

 ……面倒くさ。なんやねんこいつ。

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