四谷演劇との出会い
大志は洋介に渡されたメモに書かれた場所に来た。場所は新宿の都営地下鉄大江戸線の落合南長崎駅で降りて徒歩3分。最早豊島区と言ってもいいのではないかと思えるほど、辺りには豊島区の表記が沢山ある。入り組んだ場所ではあったが、目印のコンビニを見つけて路地の中に入っていくと、古ぼけたどんよりとした空気を醸し出すビルに着いた。
この場所が四谷演劇率いる劇団演劇座の稽古場が入ったビルである。ガラスの扉を開けるが電気も付いておらず陽の光も入りづらいのか建物の中は暗かった。建物内の案内板を見るがB1に劇団演劇座の名前が書いてあるだけで、劇団演劇座以外使用していないのがわかる。
大志は初めての体験に胸が締め付けられるように緊張していた。大志の住んでいる場所も新宿区ではあるが、辺りはどこを歩いても明るく、人もいる。
この場所は大女優の息子と言う輝かしい肩書きとは真逆の場所にある。決して劇団演劇座を馬鹿にしたり、下に見ている訳ではないが、現状の自分の立ち位置を確認するには十分すぎるほどの空気を醸し出していた。
地下に降りると正面には映画館かと見まごう程の防音設備を備えていそうな大きな扉があった。
その防音扉を開けた瞬間、大志は余りの明るさに眩しくなり、目が開かなくなった。しかし耳には大きな声が聞こえてくる。
「大志君だね」
何も見えない状況で後ろから肩に手をかけられて身が縮まりながら後ろを振り向くが、目が開いていない為、誰なのかが分からない。
「洋介から聞いてるよ。四谷演劇です」
目の前で話しかけてくる男に目がチカチカしながらも手で擦りながら必死に照準を合わせると、目の前には黒のスーツに蝶ネクタイをつけた男が立っていた。
「四谷演劇?」
大志は演出家を紹介してもらってこの場所にきたが、その紹介された相手が今一番日本で話題になる演出家の四谷演劇と言う事に驚いてしまった。
「あの去年大河の脚本を書いた四谷さんですか?」
「そうだよ。本名は加良健太。君のお父さんの旧友です」
四谷は昨年大河の脚本を書いており、史実を史実と捉えず、あまりに斬新な脚本で賛否両論を巻き起こした男だった。一専業主夫の知り合いと言うにはあまりにもかけ離れていて、大志は未だに信じられない。
「早速だけど、君の演技を見たい」
唐突に大志の演技を見たいと言われ、大志は意気込んだ。何故なら、今まで大志の演技に興味を持ってくれた人はいなかった。全員が大志の後ろにいる芙美にしか興味がなかった。芙美に他の仕事で出演してもらう為であろうと感じた仕事もたくさんあった。
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