現実は演技できない

 リビングから出た洋介は芙美に詳しい事情を聞こうとするが、落ち着いてと言われても娘が逮捕されたと聞かされたら動揺せずにはいられない。電話口から聞こえてくる芙美の声は普段と変わらず落ち着き払っており、冷静に状況を説明する。

「傷害罪の現行犯だって言ってた。相手の顔を殴ったんだって」

「しょ、傷害⁉︎相手は?」

「同じ芸能人のExplorerのTAKAHUMI君だって」

 TAKAHUMIは普段から梢が好きと公言している人気アーティストだから洋介も知っているが、何故接点があるのか?何故暴力を振るったのかを芙美に尋ねても分からないと言う。

「相手の怪我は入院する程では無いらしいから、迎えに来てくれと言われたから行ってもらえる?」

「分かった。事情が分かったら連絡するよ」

 世帯主である芙美の所に電話が行ったが、生憎あいにく芙美はロケで地方に出ており、すぐに迎えに行けない事から洋介が代わりに迎えに行く事になったが、息子達に事情もわからないまま説明する訳にもいかず、食事だけ出して梢から迎えを頼まれた事にして家を出る事にした。

「パパ、梢に甘すぎない?僕が迎えに行こうか?」 

 大志が洋介に気を使うが、嘘がバレないように冷静に断りを入れた。

「今日掃除道具が壊れたからついでに買い出し行ってくるから」

 嘘に嘘を重ねるとはこう言う事を言うのだろうが元俳優の洋介は必死に子供達にバレないよう冷静に演技をした。


 梢が逮捕されている警察署に到着すると、既に取り調べを終えた梢が入り口で待っていた。

「パパ、ごめんなさい」

 自分のしてしまった事に消え入りそうな声で洋介に謝罪した。洋介は梢が見た所、無傷な事に一安心して暴行した理由を尋ねた。

「殴ったのは悪かったと思う。でも、あいつが悪いんだから」

「梢!大丈夫か?」「姉さん、何かあったの?」

 洋介の後ろから大志と健吾が現れた。

「お前達、つけてきたのか?」

「パパ、バレないように演技してたんだろうけど、俳優だったら失格だよ」

状況的に笑ってはいなかったが、元俳優の洋介に大志はツッコミを入れた。

洋介の様子がおかしいと気づいた二人は洋介の車の後をつけてきたのだった。洋介は結局家族にバレてしまった事で、梢の話を家で聞く事にして四人で帰宅した。


 

 


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る