芙美からの電話

 「おかえり、健吾」

健吾は仲野家の中では、一人だけ毛並みが違う。毛並みが違うと言うと普通は一人だけ飛び抜けている事を指すが、仲野家は全員背が高く女子の芙美や梢ですら165cm、洋介が178cm、大志に至っては185cmある。そんな中で健吾だけは15歳の成長期とは言え158cmしかなかった。顔立ちも全員が整った

凛々しい顔立ちの中、健吾は可愛らしい顔立ちで、

デミグラスソースの匂いを嗅ぐ健吾はまるで御馳走を目の前にした愛玩犬のような愛くるしさがあった。

「パパの作るデミグラスソースどんな洋食店よりも美味しいよ」

 更に彼の素晴らしい所は、どんな事も否定から入らず肯定から入る。一度女性ファンのストーカーに遭ったが、その時ですら気味悪がる事もなく、

「セカンドの僕を応援してくれてありがとう」

 と、ニコッと微笑みながら、お礼から始めた。彼女をそれ以来、より熱狂的なファンにして、マナー違反のファンをたしなめる存在にしてしまった。

 セカンドと言うのは健吾が所属する事務所のアイドルグループのデビュー前の総称である。

健吾は高校に上がった後、デビューする事が決まっていた。

「お腹空いたよ。食べても良い?」

「今日は梢も早く帰ってくるから、兄弟揃って食事にしよう」

 家族が揃って晩御飯を同じ食卓でとる事は月に一度あるかないかぐらい珍しい。芙美は仕事で地方に行っている為、家族団欒とまでは行かないが、大事にしたかった。

「姉さんは何時頃帰ってくるの?」

「さっきLINEがあって、十七時に撮影が終わったら友達と会って帰るって書いてあった」

 それを聞いて当分お預けと理解した健吾は、しょぼくれて二階へと上がっていった。


 全員がお風呂に入り、リビングでテレビを見ながら梢の帰りを待つが中々帰ってこない。すでに二十時を回っており、流石に心配になった洋介はLINEで連絡を取ろうとするが、返信が来ない。

「ねえパパ。お腹空いたよ。先に食べちゃダメ?」

 これ以上遅くなると可哀想だと思った洋介は二人分のハンバーグを温め始めた、その時だった。配膳台の上に置いた携帯の着信音が鳴った。梢からだと思い込んだ洋介は名前も確認せずに電話に出ると、相手は芙美からだった。

「パパ?落ち着いて聞いてね。梢が逮捕された」

「えっ⁉︎」

 取り敢えず事情が分かるまで息子達に聞かれないようにリビングを出て芙美に事情を聞いた。



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