佐倉が嫌いな理由
「女優の山本梢さん入られまーす」
テレビ局の裏口を顔パスで通ると、プロデューサーを始めADなど10名程が梢を出迎えた。まるで大名行列の様にスタッフを引き連れて控室に向かう。
その途中関係者とすれ違うのだが、全員が足を止めて深々とお辞儀をしてくるのに対して、少し顎を動かすだけで挨拶を交わす梢は傍から見ると傲慢そのものだが、業界人と関わりを持ちたくないと言う想いが本心だった。
控室に入るとスタイリストの佐倉が既にスタンバイしており、嫌う梢を他所に喋りかけてきた。
「あらぁ、今日も梢ちゃん綺麗なんだから」
ニコニコと満面の笑みを浮かべながら肩を揉んでくる。
「触らないで貰えます?」
ツンケンして佐倉を睨みつけるが、佐倉はお構いなしで続けてくる。
「あらぁ。朝だから機嫌が悪いの?」
梢が佐倉を嫌いな理由はただ一つだった。この女は表ではニコニコ接してくるが、裏では梢の事をボロッカスに陰口を叩いていた。一度トイレの個室の中で佐倉が自分の事を化粧しなければ表に出られない『ドブス』やら性格が捻じ曲がった『性悪女』、ありもしないのに枕で仕事を取ってくる『股緩女』などとても聞くに堪えない言葉で罵られた。そして一番許せなかったのは、一度も仕事をした事がない癖に大志の事を『視聴率ブレイカー親の七光り』と勝手に渾名をつけて笑っていたからだった。
「無駄話はいいからサッサとメイクしてもらっていい?」
梢は椅子にドサっと腰を落として携帯を見るフリをして下を向きながら上目で目の前にある鏡を確認すると、案の定眉間に皺を寄せながら梢を睨みつける佐倉がいた。
「急になってしまって、すみません」
険悪なムードになるが、大志が佐倉に気を使い誤りを入れた。
(何で謝るの?こいつが裏でお兄ちゃんの事なんて言ってるのか知ってる?完全に馬鹿にしてたんだから)
「あらぁ大志君、そんなに謝らないで。今日もいい男ねぇ。早くあなたが主演をやる様になったら嬉しいのに」
これは当然佐倉の本心ではない。
(お前が主演をやる様になったら、テレビドラマは終わるけどな。この下手くそが)
心の声、こちらが佐倉の本心である。
「僕は主演の器じゃ無いですから。端役をやりながら梢のフォローをするのが僕の今の仕事ですよ」
プライドのかけらを見せる事もなく、力無く笑う大志に俳優でも無いのに完全にマウントを取りながら梢のメイクを始めた。
「顔はいいのに勿体無いわね。私は好きよあのオーバーアクション」
大志はドラマに出演する度に監督に大きなリアクションは要らないと指摘をされるぐらいのオーバーアクションと声の張りが凄く、叫ぶ演技の際は何を言ってるのか分からないので何度もテイクを繰り返していた。
(お前の声は耳障りなんだよ!)
「はい!出来上がり。今日も綺麗な梢ちゃんの出来上がり」
「終わったらサッサと出ていってもらえます?目障りなんで」
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