高慢ちきな梢

ダダダダダッ

2階から物凄い勢いで階段を駆け降りてくる音がする。

「パパッ!ご飯出来てる?」

「今から作るから座ってて」

「遅いよ!パパは家事しかしてないんだから、しっかり準備しといてよ」

 朝一から梢が大声で洋介を罵倒するが、洋介はどこ吹く顔と素知らぬ顔をしてトースターにパンを入れて目玉焼きを作り始めた。

「ママや私達に食べさせてもらってるんだから、しっかりしてよ」

 梢は言えるだけの文句を洋介に投げかけると、ダイニングテーブルの椅子に慌ただしく座り、化粧道具をテーブルに置き、メイクを始めた。化粧水を顔につけながら、リビングでスーツに着替える兄を見ることもなく話しかける。

「お兄ちゃん!今日の予定は?」

「今日はサンサンテレビのモーニングショーでドラマの番宣して、その後そのままドラマの撮影だよ」

 兄の大志も俳優なのだが、余り仕事が無く、今では国民的女優になりつつある梢の専属マネージャーの様になっていた。

「今日って何曜日だっけ?」

「水曜日」

「ヤッバ!今日はMC明石クンじゃん!なんで早く起こさなかったの?」

 初めて兄の方を向いて怒鳴りつける。

「もう今からじゃスタイリスト頼めないじゃん」

「そう言うと思って、佐倉さん頼んでおいたよ」

「はぁ?」

 とても女優とは思えない鬼の形相で大志を睨みつけた。

「あいつはダメって伝えたよね?」

「急だったから、佐倉さんしか空いてなかった」

「マジ使えねぇ」

 梢から深いため息が漏れる。今度はその矛先が父である洋介に向かった。

「お待たせ」

 洋介がプレートに御用達のパン屋『フレンチェ』のトーストと目玉焼き、粗挽きウインナーを載せて持ってきた。

「なんで目玉焼き半熟なの?私は硬めが好きっ知ってるでしょ?」

「急いでるみたいだったから・・・」

 梢は再度深いため息をついて席を立った。

「もういらないから!捨てといて。お兄ちゃん、佐倉でいいから車出して!早く!」

 こうして慌ただしく梢は家を出て行った。

(頑張れよ。梢)

 洋介は梢の残した朝ごはんを口に運びながら梢を応援した。


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