第2話 遊びの菌
1週間後、何とかかんとか準備が整い、世にもいい加減で不細工な遊びの結婚式が開催される事になり、星中から、また他の星からも来賓が訪れていました。
遊びで作られたいい加減な結婚式場は小さすぎて人が全然入り切りませんでしたが、遊びの星の人達はそんなことは全く気にしておらず、壁をぶち抜いたりして見える様に自分達で工夫していました。
来賓の人達は呆気に取られていました。
会場内では幸せの果実や笑い酒が振る舞われたので、酔って裸踊りを始める輩もいる始末でしたが、皆幸せに包まれておりました。
遊びで司会をやっている司会者が王様と王妃を紹介すると、二人が入場してきました。
すると参加者が一斉に大笑いした振動で、いい加減な作りの結婚式場はあっというまに壊れてしまいました。
遊びの星の人達は、式場が壊れた事でなお大笑いして喜びましたが、他の星の来賓の人達、中でも仕事の星の王子は、
「何というふざけた結婚式なのだ!」
と言ってカンカンに怒り出してしまいました。
これに気づいた遊びの王様は、自分の頭に「ハゲ」と下手な字で描いて仕事の王子に握手を求めに走りました。
握手を求められた仕事の王子は、ピクリとも笑わず更にカンカンになって向き直り、自分の宇宙船に乗り込んで帰ってしまいました。
周りで見ていた遊びの星の人達、遊びの家来達はまたもや大爆笑です。
最後までこんな有様で、宇宙一ふざけた結婚式はそれでも何だかんだ無事に終わりました。
仕事の王子は自分の星に帰りますと、遊びの星での実にふざけた結婚式の事を皆に語って聞かせました。
それぞれ神妙な顔をして王子の話を聞いており、もちろん笑い出す者など一人もいませんでした。
それは誠に災難でしたねと皆で王子を労うのでした。
仕事の星は別名「笑わない星」と言われており、万一笑うようなことが有れば、ムチ打たれたり、投獄されたりしてしまうので、誰も笑う事はありませんでした。
仕事の星の人達はメチャクチャ真面目だったので、王子が遊びの結婚式の出来事でカンカンに怒ったのは無理もなかったのです。
仕事の星の人達は、毎日真面目に仕事をして家に帰って真面目にご飯を食べて真面目に寝るだけでしたので、もし遊びの王様がこの様子を見たら笑い死んでしまうでしょう。
翌日、仕事の王子は家来に命じました。
「窓が一つもなく、内側から鍵をかけられる分厚い壁の建物を大至急建てるように」
「分かりました、王子。しかし一体何に使われるので?」
「もっともっと真面目になれるように、外から一切音も光も届かない部屋で独りになって精神を統一したいのだ」
「左様ですか、では早速大至急建ててご覧にいれましょう」
「すまんな、よろしく頼む」
王子の顔が何となくプルプル歪んでいましたが、仕事の家来達はとても真面目でしたので、見て見ぬ振りをするばかりでした。
その日の夕方、早くも家来が王子の元にやって来ました。
「王子、ご注文の部屋が完成しました!」
「そうか、下がってよいぞ!」
王子は急いで部屋に向かいました、もうどうにもこうにも我慢出来なかったからです。
王子は出来上がった部屋に駆け込むと、鍵をかけて不真面目な結婚式を思い出して大笑いしました。
どの星にもその星特有の菌が漂っており、星の人達はその菌に冒されて暮らしています。
仕事の星では仕事菌が蔓延しているので、人々は真面目に仕事をして生きることに集中出来るのです。
一方、遊びの星では遊び菌が蔓延しているので、人々は毎日遊んで笑う事しか出来なかったのです。
遊びの王様は例の結婚式の日に、家来に命じて贈り物として来賓の宇宙船に遊びの菌をばら撒かせておいたのです。
仕事の王子はそれと知らすずに遊びの菌に冒されて笑いたくて仕方がなくなっていたのです。
不真面目な結婚式に同行した王子の家来達は、遊びの菌にやられて笑っている所を見つかって、大真面目に投獄されました。
投獄されて笑っている家来達を、仕事の星の真面目な博士が調べると、遊びの菌に冒されていることが判明しました。
博士が濃縮した仕事の菌を彼らに投与すると笑いがおさまったので、彼はそのことを新聞のインタビューで発表しました。
「投獄されていた家来は遊びの菌に冒されていました。これは濃縮した仕事の菌で治す事が出来ました」
博士はもちろんピクリとも笑わず発表しました。
続いて記者が家来に訪ねました。
「遊びの菌に罹って苦しかったですか?」
「とんでもない、苦しみとか不安が無くなってとても幸せだったよ。また遊びの菌に罹りたいくらいだよ!」
つづく
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