446.(幕間)帰り道で呪われたんだが
ひらりと手紙が届いた。姿を見せず、手紙だけを置いていくのはテオドールの配下だ。何度か経験したので、焦ることなく開いた。
「ヒルトがお茶会を準備……いや、ブランチか」
昼食を兼ねたお茶会のようだ。隣で馬首を並べるエルフリーデが、嬉しそうに笑った。ああ、綺麗だ。ヒルトとは別の意味で、本当に愛おしい人……王子という地位にありながら、愛する人と結ばれるのは最高の幸運だった。相応しい地位と素質を持つ女性が、すぐ隣にいる幸せ。
噛み締めていたので反応が遅れたのか。それとも油断し切っていたか。問われたら両方と答える情けない状況で、襲撃された。
「シュトルンツ、ローゼンベルガー王子殿下の軍と知っての狼藉かっ!」
声を張り上げたのは、先頭を行く初老の騎士だった。忠誠心厚く、経験豊富な男だ。故に、まず警告を発した。相手が引けばそれでよし、引かねば味方へ注意を促すためだ。何かを発見した時、敵と遭遇した際は声を張り上げる。ひとつの様式美だった。
「我が君の仇っ!」
うぉおおお! 雄叫びを上げる十数人が正面から、左右にも潜んでいるようだ。
「警戒せよ」
「右十五名、左十二名、後ろから二十騎」
左右は歩兵で、後方は騎馬らしい。聞き分けられるよう叫んだエルフリーデは、さっと馬を後ろへ向けた。前後左右挟み撃ちにするつもりのようだが、相手が悪い。エルフリーデの細い剣には、精霊が集い始めていた。
「魔法を使う、私の前に出るな!」
自軍を巻き込まないよう伝達し、エルフリーデは後方へ炎を放った。驚いた馬が取り乱し、落馬するものが続出する。そこへ上から水を投げた。高温の水蒸気が発生し、悲鳴が聞こえた。火傷したのだろう、数人が動かなくなる。
直後、彼女の後ろで「参るっ!」と剣を握って馬の腹を蹴る。走り出した先で、槍の穂先を落として敵の鎧を叩き潰す。そのために、両刃の片方は最初から潰していた。切れ味鋭いのは片刃のみ。ちょうど包丁のような形状だ。
背に当たる側で鎧の内側にまでダメージを与え、馬から蹴り落とした。戦いはスムーズに決着がつき、ほっとした瞬間……体がぐっと重くなる。
「呪われて死ね!」
叫んだローブ姿の男が、己の喉に短剣を突き立てた。さらに全身が縛られたように苦しくなる。
「うぐっ」
もう一人、背中に乗せたような圧迫感があった。倒れ込みそうになる体を起こし、何度も肩で息をする。
「どうしたのも何も、これは呪い? この世界で?」
不思議そうに首を傾げるエルフリーデは、うーんと唸った。何度も「呪い」と口にするため、騎士達が遠巻きにしている。
「ちょっと触るわ」
ダメだと断るより早く、エルフリーデは肩に触れた。その手をじっくり確認し、困ったような笑みを浮かべる。
「人に移らないのはいいけれど、これだと身代わりの
ヒトガタとは何だ? 不思議な言葉を使う彼女は、「仕方ない」と大きく息を吐いた。
「帰ってからお祓いしましょう」
「あ、ああ」
そんな簡単でいいのか? 呪われた状態で首都に帰還したら、振り撒くことにならないか。心配を口にするも「移らないんだから平気」と一蹴された。全然不安そうな様子のない彼女に、こちらの気持ちも落ち着いていく。
街に着いたら、まず神官でも探すか。国教は定めていないが、何かしらの神殿があったはず。信じていない神でも、神官が祈れば聞いてくれるだろう。元からの楽観的な性格で、馬を前に進める。捕らえた敵は、纏めて荷馬車へ放り込んだ。
にしても、これではヒルトに会えない。早めに呪いを解かなくては。
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