412.自堕落な休暇を過ごせそうね
一日目は何もせずに過ごし、二日目は子ども達と遊んだわ。庭を走り回るパトリツィアが危なっかしくて、それをフリードリヒが面倒を見ている。私が知らない間に、この子達はしっかり成長していたのね。ヴィンフリーゼはお茶の淹れ方を覚えたばかりで、私に振舞ってくれたわ。
三日目に何か騒動が起きたようだけれど、私の耳には届かなかった。というのも、臨時でお母様が対応なさったのよ。休暇中でもここまで徹底しなくてもいいのに……そうぼやいたら、呆れ顔の娘にぐさっと痛い言葉を返された。
「だって、お母様は仕事の話になると女王陛下になって、そのままお休みを切り上げてしまわれるでしょう?」
話し方どころか、やり込め方まで私にそっくり。テオドールはくすくす笑って、ヴィンフリーゼを褒めているし。私の立場がないじゃない? 複雑な計算に躓いたヴィンフリーゼにいくつか公式とコツを教えて、午後は全員でお昼寝をしたの。家族五人そろってのお昼寝は初めてかも知れないわね。
四日目はすることが思いつかなくて、こっそり本を読もうとしたのよ。すぐにテオドールに捕獲されて、エレオノールが執務室の内鍵を掛けてしまった。書類を読もうとしたわけじゃないのに、過剰反応し過ぎよ。と抗議したら、普段の行いをよく考えてくださいと反論されて……それ以上何も言えなかったわ。
心当たりがあり過ぎるのよ。夜中に気になって書類を寝室へ持ち帰り、こっそり処理しようとしてテオドールに叱られたのは半年くらい前だったかしら。半泣きで「仕事で死にますよ」とエレオノールに叱られたのは、今も記憶に新しい。
ちょっと注意しないと。前世でいう社畜みたいに、寿命を削りそう。ただでさえ時間が足りないんだもの。人族の寿命の中で、ヴィンフリーゼに地位を引き継ぐまであと十年程。焦っていたのね。側近達からは、さぞ生き急いでいるように見えて、ゾッとしたでしょうに。悪いことをしてしまったわね。
反省して寝室へ戻った私は、扉を閉めずに踵を返した。まずいわ、逃げないと命が……本当に寿命がなくなるかも。二歩踏み出したところで捕まり、走ろうと前傾姿勢を取ったまま、部屋へ戻された。
引きずるなんて無粋なことはされない。でもお姫様抱っこなんて、この年齢で恥ずかしいの。じたばたと暴れるも逃げられず、スプリングの効いたベッドに下された。投げ出さないところが、テオドールね。どこまでも丁寧なんだから。
「退屈しておられるようですね。久しぶりに……ああ、本気で抱くのはパティを身籠った時以来でしょうか。まだ休暇は三日もあります。安心して、身を委ねてください」
子ども達と過ごす時間が増えて、ようやく愛称で呼ぶようになったのね、とか。安心して身を委ねたら、休暇が終わるじゃない! とか。言いたいことはすべてキスに飲み込まれてしまった。
うっかり私室へ戻った自分を罵りながらも、すぐに気持ちよさに飲まれていく。悪くないわ、ええ、悪くない休暇よ。手加減なしって言いながら、触れる手は労りを感じさせ、私の快楽を優先してくれるんだもの。
このまま休暇が終わっても、仕方ないわね。そう思いながら、テオドールの首に手を回して自ら引き寄せた。
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